財務モデルを作成するのに、公認会計士や簿記1級レベルの知識は必要か
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財務モデルを作成するのに、公認会計士や簿記1級レベルの知識は必要か

Kaoru

何かと話題になりがちであるが、財務モデル作成において、公認会計士や簿記1級の合格ないしそれと同様の知識は必要か、というテーマについて私見とともに解説していきたい。

ここでいう財務モデルは一般的な財務3表モデルを指すが、文脈によってはDCFモデル、LBOモデルを指すこともある。その際は明記するので安心して読み進めていて頂きたい。

結論

一般的な財務3表モデルを作成する場合には、簿記1級や公認会計士試験の合格ないし同等な知識はtoo much、ただし投資銀行等プロフェッショナルファームでは同等ないしは相応の知識と理解度が求められると考える。

とはいえ、細かい会計知識よりも対象事業のバリュードライバーは何か、売上高・コストの構成はどのようになっているか、分析の目的と結果に必要なためなインプット(変数)を峻別する能力に加えて、Excelへの習熟度が重要になる。

現に投資銀行やPEファンドのアナリスト・アソシエイトクラスでも、USCPAないし日本の公認会計士のような資格を持っていなくてもハイクオリティのモデルを作成できる方は沢山いる。
このような方に共通しているのは会計・税務の知識も以上に、上記の意識が徹底している人が殆どである。
加えて、①アウトプットは何が表示されるべきか、②モデルのReviewerにとって見やすいか、理解しやすいものか、を意識して作成している点である。①についてはビジネス・Deal・クライアントに対する理解、②は自分がチームから抜けても問題ないようにする配慮から生まれる、と捉えている。ここまで読むと、プロフェッショナルとして当然の事を守っていれば良くて会計やファイナンスの知識は後付けで良くないか、という意見もあろう。

しかし、レビューに堪えうるモデルを作成したり、多少イレギュラーな論点が出てきてもスムーズに財務モデルを作成、アウトプットできるようにするには会計・税務等のテクニカルな知識もないといけない。
以下に最低限必要と思われる知識や論点を記載していくので参考になれば幸いである。

最低限必要な知識|会計

まず、当然ではあるが一定以上の会計知識がないと財務モデルを作る際にスムーズにいかないことが多い。特に損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の財務3表の関係が理解できていないとモデルがバランスしなくなるということは頻繁に起こりうる。

非常にシンプルな財務モデルでも、有形・無形固定資産の償却スケジュール、運転資本とキャッシュフローの関係、借入金の返済スケジュール、株主資本のスケジュール作成は最低限頭に入れておく必要がある。
特に初学者で間違いやすいのは運転資本残高が増加する場合にキャッシュフロー計算書の営業CFの箇所でプラスとしてしまう点である。運転資本が増加した場合は、その分キャッシュはマイナス調整しないといけない。このような基礎的な論点の財務モデリングは筆者の下記記事で紹介している。

テクニカルな論点

投資銀行等でよく作成されるMerger modelで買収時の簡易PPAと、それに伴う税効果会計の適用は知識として必須になる。また、PPAのみならず、Pro-forma BSを作成する際には直近ないしLTMのBSのBS数値に対して買収時の会計上の調整を加えて作成する必要がある。
その際にはモデルテンプレートをそのまま理解するのも良いが、会計上の仕訳が頭に入っているとミスも減り、頭の中にイメージしながらモデル作成ができるので、最低限買収時の仕訳(投資と資本の相殺消去、無形資産等の認識)等は知っておいて損はない。
海外のトレーニング資料では結論しか書いてないことが多いので、母国語で理由を知りたい場合は仕訳ベースでの理解が有用である。モデル作成時は下記を踏まえてPro-forma BSを作成する。
【例】
A社はB社を10,000百万ドルで買収した。B社の純資産は7,000百万ドルである。
【仕訳:投資と資本の相殺消去】
純資産  7,000                    / 子会社株式 10,000
のれん(無形資産配分前差額)3,000 
【仕訳:識別可能無形資産への配分、上記差額に対して50%】
無形資産 1,500 / のれん 1,500
【仕訳:税効果会計の仕訳、実効税率30%】
のれん 450 / 繰延税金負債(DTL)450

補題:DCF法によるバリュエーションで必要な会計論点の例

退職給付会計(退職給付引当金):確定給付型の退職給付制度を採用している場合に論点になる。PLの販管費に計上されている退職給付費用は、
利息費用+勤務費用 - 年金資産の期待運用収益 ± 数理計算上の差異
という式で計算される。
実務上は退職給付債務はデットライクアイテムとして扱うので、税効果反映の上、EVから控除する必要があるし、退職給付費用の調整も必要

資産除去債務:資産除去債務はデットライクアイテムなのでネットデットの計算で考慮しないといけない。税効果の反映を忘れずに。

リース会計:新リース会計基準(=IFRS16号)が適用されている場合、計算上与えるインパクトは大きいので事前にしっかりと確認する必要がある。
当該基準は従来の日本基準のようにファイナンスリース(ノンキャンセラブルかつフルペイアウトの条件を満たす)はオンバランス、オペレーティングリースはオンバランスしないという処理ではなく、使用権資産に該当する場合は全てオンバランスするという処理である
そのため、もし当該基準を採用するとリース負債が増加し(株式価値は当該基準採用前後で不変として)結果としてEVは大きくなる

税効果会計:デットライクアイテムのうち、退職給付債務や資産除去債務など、将来減算一時差異に該当する項目等は税効果を反映した金額をネットデットの計算で考慮する必要がある。

ストックオプション(主に株式報酬費用の調整):対象会社が新株予約権を発行しており、それに対応して株式報酬費用を計上している場合は当該項目は非現金支出項目なので調整後EBITDAの計算時に加算調整しないといけない。

1株当たり当期純利益:希薄化調整後発行済株式総数を計算する際には、自己株式方式(Treasury Stock Method :TSM)を用いて新株予約権の行使を加味して計算しないといけない。また、転換社債型新株予約権が対象会社にある場合にはIf-Converted Methodを使用する必要がある

上記はいずれも簿記1級~公認会計士試験レベルの知識になるが、モデル作成上ポイントになる点を抑えていれば特段問題はない。

実際のM&A案件、例えばカーブアウト案件であれば、PL数値のカーブアウト調整やスタンドアロンに伴う本社費の影響等、正常収益力の測定も非常に重要な論点になるが、これらは会計基準というよりはDeal specificな論点なのでここでは割愛する。
他にもPEファンドが作成するLBOモデルにおいて、ファイナンスストラクチャーに応じて劣後債や優先株がある際にはPIK (Payment in Kind)のスケジュールを考慮しないといけない等、多くの論点がある。
ただし、これらは案件に応じて学んでいけば良く、最初から網羅的に学習するのは骨の折れるところである。

会計以外で必要な知識|会社法

具体例を述べれば配当計算をシミュレーションするのに、会社法を頭に入れておく必要がある。
例えば、(中規模以上の会社であればそこまで問題にはならないが)純資産額3百万円未満の場合は配当をしてはならない、配当をするには分配可能額の計算が必要、等である。これらはいずれも会社法458条、会社法461条第2項に記載がある。
以下のリンクは参考になるので時間がある方は読んでみると良いと思う。

他にも1株当たり株式価値を計算する際に、分母となる株式総数を計算する際に、自己株式は分母に含めてはならない等の知識が必須である。また議決権の数そのものを検討する際には、相互保有の株式は除く(会社法308条)必要がある。
これらの知識は公認会計士試験では企業法という科目で総合的に学習するので、会計士試験に合格している人は多少有利かもしれない。とはいえ、投資銀行等に入社しても、業務上会社法の知識は必要になるので、本を通じて学習すればいい。
効率的な学習をするなら、TAC出版等から出されている会計士試験の短答式試験の肢別問題集等がおすすめである。条文の趣旨の理解も理想ではあるが、実務で使用する分には結論だけ知っておけば問題ない。

会計以外で必要な知識|法人税法

法人税法に関しては、詳細な知識が必要になるわけではないが損益計算書における法人税支払額の推定計算をする際に以下のような項目を頭に入れておく必要がある。モデル上はPBT (Profit Before Tax)に対して下記論点を考慮して調整する。

別表4の調整

課税所得を計算するには、会計上の当期純利益から別表4において損金不算入項目ないし益金不算入項目を加減算して求める必要がある。

損金不算入項目とは、会計上は損益計算書において費用として計上されているものの、税務上は損金として認められず、会計上の当期純利益に加算する調整を行うべきものをいう。益金不算入項目とは、上記と同様の趣旨で会計上は損益計算書において収益として計上されているものの、税務上は益金として認められず、会計上の当期純利益から減算する調整を行うべきものをいう

これらの項目を峻別しないとモデル上で税金の金額が実態と乖離してしまう恐れがある。益金不算入項目は主なものは受取配当金、損金不算入項目は重要なもの(減損損失、のれんの償却費等)を頭に入れておけば良く、後は案件に応じて個別に出てくるものはその都度チェックすることをお勧めする。

繰越欠損金

DCFモデルで繰越欠損金の節税効果を検討しないといけない場合は、そもそも繰越欠損金に関する情報がどこで入手できるか、ということが分からないといけない(上場会社であれば、有価証券報告書の税効果会計注記(2018年4月1日以降の連結会計年度以降の税効果会計に係る会計基準の改正参照:繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるとき)、もしくは未上場会社であれば法人税の確定申告における別表7で確認する等である。

なお、繰越欠損金がM&Aにより引継可能かどうかは、税務上のストラクチャー(税制適格か税制非適格か)の判断が必要になるので、その手も念頭に置きながら税務アドバイザーと確認する必要がある。

NOLの節税効果は実務的かつ応用的な内容なので詳細は割愛するが、投資銀行やPEファンドが作成するDCFモデル/LBOモデルでは反映されることが一般的である。海外の財務モデルのチュートリアル講義でもトピックになるが、そもそも税法が違うので国内案件ではそこまで参考にならないこともある(もっとも計算ロジックは参考になるが)

NOLの計算については下記noteでまとめているのでご参考である。

まとめ

以上、財務モデルを作成するといっても誰がどのような目的で作成するのかで求められる知識水準は多少異なる。
例えば、戦略コンサルティングファームがビジネスDD等で作成する将来の事業計画に基づくシミュレーション等ではPLベースのものが中心であろうし、このようなモデルでは会計や税務上の重要な論点よりも、ビジネス寄りの見方が重要視される傾向にあるだろう(市場規模、占有率、成長性、コスト構造とコストダウン余地のある費目の検討等)。

投資銀行やPEファンドが作成する財務モデル(LBOモデル含む)では、上記に加えて外部からのレビューに堪えうるクオリティを確保する必要がある。

特にPEファンドではキャッシュフローの予測という観点では精緻なモデル作りが求められ、買収時のファイナンスストラクチャーとそれに応じた返済計画が対象会社のキャッシュフロー創出能力により担保されること、コベナンツにヒットしないことがモデル上で確認できることが重要である。
投資銀行では

事業会社でも経営企画部等では、簡単なバリュエーションや、トップライン成長に応じて財務3表を回すことが求められるであろう。そのような場合には会計、税務の最低限の点は抑えつつ、マネジメントに対する説明ができるようにインプットとアウトプット(キーとなる指標やRatioも含む)の関係性をイメージしながらモデルを作成することが望ましいだろう。
(例:楽観的な事業計画シナリオで、Debt / EBITDAの比率はどう変わるか、FCFコンバージョンはどうか、等)

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