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ふたごのこどもの神様・イベジ

ヨルバ由来のアフロ・ブラジルの信仰「カンドンブレー」には様々な神様がいて、よく知られている神様は20神、それぞれにシンボルとなる数字や、曜日、色、食べ物などを持っています。ある時「日曜日の神様っているの?」と聞かれて、そういえば、と思いましたが、子どもの神さま「イベジ」は楽しいことの担当、日曜日の神さまです。

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イラスト©︎クルプシ

イベジはふたごです。「Ibeji」のIbi(イビ)は「誕生」を、eji(エジ)は「2」を意味します。ヨルバの子どもは、なんと11人に1組、ふたごが生まれていたのだそうです。これは世界でも最も多いと言われ(※ブラジルでは双子の出生率は100人に1組、日本も2018年の統計では同じ確率で双子が生まれています)ヨルバの人々は双子には特別な力があると信じており、今でも習慣として片方が亡くなると、人形を作って、服を着せたり、食べ物をそなえたりするのだそうです。

イベジを守護神にもつ人というのはあまり聞きませんが、有名なのはゼカ御大です。ゼカ・パゴジーニョの守護神は戦士オグンですが、左胸にカトリックのふたごの聖人「コズミとダミァォン」のタトゥーをしています。シンクレチズモ(混合宗教)でイベジはこの聖人と合わせて考えられています。ゼカ御大は毎年9月27日の聖人の日にリオの街のこどもたちにコズミとダミァォンの絵の描かれた袋いっぱいのお菓子を配り、フェスタを催してくれます。

イベジは「強い絆で結ばれた関係」などの比喩としても使われます。カポエイラではメストレ・ビンバの歌 [Segredo de São Cosme, quem sabe é São Damião....(聖コズミの秘密を知っているのは聖ダミアォンだ)]でも歌われています。

 イベジは人形とおもちゃをシンボルとし、鳥とケーキ、飴とお菓子が大好きで、オクラをデンデ油で煮たカルルー、刻みオクラ、デンデー油で揚げたオクラを食べる無類のオクラ好きです。「エベー・イベジー・イロー」と挨拶し、お供えものには甘いものやおもちゃを。日曜日の担当で数字は 2番。明るい色を好みます。今回はたくさんあるお話の中から、なぜイラストのようにイベジが太鼓を叩いているのか、ヘジナウド・プランジさんの本「イファー・アヂヴィーニョ(預言者)」からご紹介します。


モルチ(死)を踊らせたふたご

イファーの村では、いつも通りに全てのことが進んでいました。
みんな自分の仕事をして、農業は良い収穫を生み、動物たちは子どもを産んで、子どもたちは強く健康に育ちました。
ですがある日
死・モルチ(死神)は、自分の収穫に集中することにしました。
すると全てのことに間違いが起こり始めました。
農地からは何も生まれなくなり、
泉からの湧き水も枯れ、
牛も、全ての生き物は衰えてしまい、食べるものも飲むものもなくなり、生き残れる望みがなさそうで、人々はお互いを傷つけ合いました。
お互い分かり合えず、戦争になっていき、
山ほどの人が死ぬようになりました。
死神モルチは、みんなの住んでいるところを周って、特に弱い人、お年寄り、病人などを見廻りました。
死神モルチは、これらの人たちを盗み取って、違う世界へ、友達や家族と引き離して、連れて行ってしまいます。死神モルチは、彼らの命を盗むのです。
村では、いろんな理由で人が死んでいました。
病気、老衰、生まれ出るときに死ぬことも。
溺死、毒死、呪いをかけられて死ぬこと。
事故死、ひどい仕打ちにあったり、暴力で死ぬこと。
空腹で死ぬこと、多くは餓死しました。
悲しみで死ぬこと、寂しくて死ぬこと、愛ゆえに死ぬことも。
死神・モルチは、大きな宴会をしていました。
どの家も、みな喪に服していました。
どの家も、死んだ人のために泣いていました。
王様は、その悪魔と話すために、たくさんの家来を送りました。
ですが、死神モルチはいつも、同意しないという返事をしました。
もし、悪魔に向き合えるほど強い誰かが、挑戦したとして、でも結果苦しむでしょうし、痛ましいことになるでしょう。
悪魔はこう言いました。
「なんでもかんでも文句を言ってると言われたくはないからな、一回くらいはチャンスをやろう」
痰を吐きつつ大笑いしながら、こう言いました。
「誰か一人、私のところへやって、何か私が嫌がることをさせてみろ。ここにいる誰かで、私が喜ぶのと逆のことができたら、出て行ってあげよう」
その後、そこにいた人たちをバカにしてこう言いました。
「だが、このチャンスはただ一人にだけ与える。ふたり、さんにんとはいかないぞ」
そして去って行きました。最初から勝利をたのしんでいるようでした。

誰が死神モルチと対決するのだ?
誰が…最も勇敢な戦士は死んでしまった。

誰を?賢い交渉人はみんな死んでしまった。のに?
そこで、2人の男の子、街の噂好きが「おぞましい悪魔とのやりとりを解決した、イファー・預言者の子供だ」と言っているふたごのタイオーとカイアンデーが、あの醜いやつをいっちょ騙してやろうということになりました。
全ての村がボロボロにされてしまう前に、死神モルチをやっつけようと、決めました。
「あのくっさいやつを追い出してやろう」

ふたごは魔法の太鼓を持って誰よりも上手に太鼓をたたきながら、死神モルチを探しに行きました。
近くの道にモルチが、誰か獲物はいないかと物色しており、すぐに見つけることができました。
聞いていた通りの姿、背が高くて、空を毒で埋めながら飛ぶウルブーの鳥の群れを従えています。
そして、臭い、ああ、臭い!
モルチが周囲に放っている悪臭は、木像が吐いてしまうほどです。
ふたごは、やぶに隠れて、鼻を布で覆いました。
じき、モルチがやってきました。
ふたごは頭からつま先まで震え上がりました。
まだやぶの中に隠れていたのに、悪魔をみるだけで、腕には鳥肌が立っていました。
白い肌、つめたくて、ウロコが...
髪の毛は色がなくて、ぼさぼさ、ぼろぼろ。
歯がなくて、口からは膿のまじった唾を吐き出しています。
そしてなんてひどい口臭、チカチカします
でも、モルチはしあわせで満足していたのです。歌っていたから!
それもそのはず、たくさんの命を奪って、絶滅させようとしていたのです。
モルチの歌はぞっとするほど音痴で、鳥たちは黙って、石像になってしまったみたいになりました。騒音といえるモルチの歌は、不快で、不吉で、骨と皮になった犬がおかしな遠吠えをし、やせぎすの猫たちはすかしっ屁をして、みんなをぞっとさせました。
この時、曲がり道で片方は隠れていて、片方は森から道へ出て行きました。
モルチから少し離れたところで、魔法の太鼓を止めることなくリズミカルに叩きました。
自分にできる技を全て、力いっぱい、
決意と喜びを込めて、
今まで聴いたことがないくらい上手に叩きました。
モルチはそのリズムが気に入って、へんな足取りで、面白くもない踊りを始めました。

グロテスクな見世物です。
モルチの踊りは、最低で、ホントに悲惨
どんなだったかを語るのはやめましょう。
ご想像にお任せします。
さて、ふたごの片方が叩き、叩いて、1時間、また1時間、また1時間と経ちました。
男の子はいっときたりとも休みを入れませんが、モルチはだんだん疲れてきてしまいました。
太陽は高く上がり、二人が道をゆく間じゅうずっと太鼓は止まることなく タ タ タタ タ タ タター
昼は夜に場所を譲り、太鼓は止まらず タ タ タタ タ タ タター
そして深夜となりました。
男の子が叩くと、モルチは踊ります。
男の子が素早く、遊びを入れて先を行きます。
モルチが後からついていって、消耗しきって、もうこれ以上は無理そうです。
「叩くのをやめておくれ、男の子よ。ちょっと休もう」
と言いましたが、男の子はやめません。
「このポンコツ太鼓、ガキめ、引き換えに命を奪うぞ」
もう一度脅しました。
が、男の子はやめません。
「もうほんとうに耐えられない」と懇願しました。
で、男の子はやめません。

カイオーとカイアンデーは双子です。
どっちがどっちと、見分けられる人もいません。
太鼓を叩きながら道を行くその男の子はいつも同じ子ではないのです。
タイオーが1時間叩いているうちに、カイアンデーは森の中です。
タイオーが疲れてくると、曲がり道を利用して、太鼓を代わります。
タイオーは森に隠れて見つからないようについていきます。
森では休憩して、おしっこをしたり、茂みの葉っぱにたまった水を飲んだり、野生のフルーツを食べて空腹をいやしたりしました。
双子は交代し、太鼓は鳴り止むことはありません。
一分たりとも、止まることなく、休むこともしませんでした。
太鼓は鳴り止むことはなく、タ タ タタ タ タ タター
もうモルチは息ができません。
「やめろ、やめろ、この忌まわしい少年め」
でも、男の子はやめません。
こうして1日が過ぎ、また1日が過ぎました。
もうウルブーも、モルチについていくのをやめました。木に止まって休んでいる方が良いからです。
太鼓は止まることなく、タ タ タタ タ タ タタ  1時間タイオー、また1時間はカイアンデー。
最後に、もうこれ以上耐えられず、幽霊はこう叫びました
「太鼓をやめてくれ、たのみはなんでも聞くから」
男の子は後ろを向いて言いました。
「じゃあ、うちの村から出てって!そして村に平穏を」
「わかった」泣きながら、道で吐きました。
男の子は太鼓をやめ、モルチがこう言うのを聞きました。
「なんて弱っちい。こんなちびに勝たれてしまうとは」
モルチはこうしてみんなから遠く離れたところへ、去っていきました。でも、残念そうに「ああ、もう自分がきらいだ、大嫌いだ」と言っていました。
ハエだけがモルチについていき、そのガイコツの頭の周りをぐるぐる回っています。

弾きながら、踊りながら、ふたごは良い知らせを持って村へと帰りました。
みんな両腕を広げて、キスと、ハグで2人を迎えました。
みんなの領地にいつもの暮らしが戻りました。
健康が家の中に、喜びが通りに溢れます。
勇気あるイベジーにたくさんの称賛が与えられました。
タイオーとカイアンデーが市場へ向かうのを見かけるとこう言う人がいました。
「ごらんよ、私たちを助けてくれたふたごだよ」
こう言う人がいました。
「この勇敢さは私たちの思い出から消えることはないね」
そして誰かが付け加えるのです。
「でもあの子たち預言者の顔をしてない?」

※このお話は預言の神様イファーを中心にした本で、イベジはイファーのこどもと言われているためこのような締め方になっています。

2020年は伝染病と治癒の神様オムルー・オバルアエーと共にあった1年でした。イベジと合わせて考えられている聖人コズミとダミアォンは双子の医師だったと言います。2021年はふたごの力とともに、死を遠ざけ、喜びをもたらす1年でありますように。





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