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難民たちの心的外傷後成長(PTG)

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の2021年の報告によると,現在世界で,なんらかの形で国の中,あるいは国の外へと避難を余儀なくされている人々の人数は,8,240万人に達しているそうです。アフガニスタンなどの混乱によって,ますます多くの人々が難民として他国へと逃れようとしています。

さらに,この3年間で,約100万人の子どもたちが難民として生まれたという統計もあるようです。これだけの人数が生まれているにもかかわらず,基本的人権や最低限人間らしい生活,メンタルサービスなどへのアクセスは不十分なものとなっています。そして,心的外傷後ストレス障害(PTSD)や抑うつ,不安など心理的問題も顕在化しているようです。


PTG

多くの難民の方々が苦難の中で生活しているのですが,そこから立ち直り,成長していく人々も存在しています。心的外傷後成長(Posttraumatic Growth: PTG)という概念で知られている現象です。

心的外傷後成長は,逆境を経験し,自分自身を大きく揺さぶられるような経験を経て,そこから成長を遂げていくという概念です。たんに元に戻るというよりも,質的にも何改善とは変わったという経験をすることになります。

難民のPTG

難民の中で,困難を通じてどのように成長が起きるのでしょうか。質的な研究手法を用いて検討した研究があります。この論文を見てみましょう(Posttraumatic growth experiences of refugees: A metasynthesis of qualitative studies)。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jcop.22723

この研究は,質的なレビューによる統合を試みるものです。まず論文を検索して選び,研究の質の観点から論文を評価し,各論文から関連データを抽出,主要なテーマとの比較と統合,そして分析の妥当性の検討と結果の解釈という手順で研究が進められます。

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