見出し画像

回答を偽るとよりダークになる

「就職活動のときに適性検査を受けても,みんな自分を偽って回答するのではないのですか」

こんな質問も,よくあるものです。「質問をすればみんな正直に答えてくれるものだ」とナイーブに考える心理学の研究者はいないと思うのですけれども……。

回答の歪み

適性検査もそうなのですが,パーソナリティ特性の研究でも一般的に,自分のことを自分自身で回答する自己報告式の評定尺度法でさまざまな心理学的な特性が測定されます。たとえば,「私はまじめだ」という文章に対して「まったくそう思わない」「あまりそう思わない」「どちらともいえない」「ややそう思う」「とてもそう思う」という選択肢から選ぶといった具合です。

自分のことを自分で回答するのですから,当然ながら回答者は自分の回答を「ゆがめる」ことが可能です。特に,自分をより良くみせることが有利に働くような場面であれば,そのような「ゆがみ」が顕著になることが予想されます。まさに就活の場面がそのひとつといえるでしょう。

控えめに見積もっても、就職希望者の30~50%は、自己申告の尺度で自分を正確に表現していない(Griffith & Converse, 2012)。これらの先行研究結果は、すべての人が常に最大限の偽りを行っているわけではないが、人は偽ることを示唆している(Birkeland et al., 2006; Griffith & Converse, 2012; Viswesvaran & Ones, 1999)。

よく見せた回答をさせる

こういうやり方はどうでしょうか。

ある集団には「正直に答えてください」とお願いします。また別の集団には「できるだけ自分をよく見せるように回答してください」とお願いします。そして,同じ質問項目に回答を求めます。あるいは,別の集団には「できるだけ自分を悪く見せるように回答してください」とお願いすることもあります。

すると,こういったインストラクションに強く反応する質問項目を収集することができます。そういった質問項目を集めると,通常の回答をしてもらうなかで「自分をよりよく見せようとする」人を見つけることもできるようになっていきます。パーソナリティ検査の中には,このような項目が含められているものもあります。

性格の得点は変化するのか

これまで,ビッグ・ファイブ・パーソナリティの得点を用いて,「正直に答える」場合と「よく見せる」場合で得点がどうなるかを検討した研究があり,そのメタ分析も行われています。その結果によると,ビッグ・ファイブ・パーソナリティのどの特性についても,よく見せようとする効果は中程度から大きな効果が見られることが報告されています。またそれよりも「悪く見せよう」とする場合の効果が大きそうです。

ダークな特性の場合は

これまで,ビッグ・ファイブ・パーソナリティではインストラクションによる得点の変動が検討されているのですが,ダーク・トライアドの場合はどうなるのでしょうか。

「自分をよく見せて回答する」場合と,「自分を悪く見せて回答する」場合で,ダークな特性の得点がどのように変化するかをメタ分析で検討した研究があります。こちらの論文を見てみましょう(How much can people fake on the dark triad? A meta-analysis and systematic review of instructed faking)。

ここから先は

1,274字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?