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メンヘラの変遷について学ぶ

心理学の授業をしていて学生たちの感想を読んでいると,学生たちの言葉の使い方で気になる部分を見つけたりします。

今回もそんなことばのひとつ「メンヘラ」について。自分自身もかつて2ちゃんねるなどで目にしていたものの,学生たちが使う「メンヘラ」の意味に違和感を抱いたりしたことがありますので,勉強を兼ねて調べてみたいと思います。

(それにしても加藤諦三先生……しっかりとこういうところはカバーしてきますね……。)

メンヘラの使い方

どうしてメンヘラということばが気になったかというと,学生が次のようなことを書いていたからです。

◎最近,特徴的な恋愛のスタイルをとるメンヘラという人たちが話題になっていますが……

うーん……そんな恋愛限定の意味でしたっけ……?と疑問に思ったのがきっかけです。

語源と広まり

メンヘラはネットスラングとしてはよく知られた,とても広まった言葉ですので,これまでにも語源を調べた記事が発表されています。「メンヘラ」というネットスラングはもともと掲示板2ちゃんねるでよく使われていましたので,その中を調べていくことで語源にたどり着けそうです。

たとえばこちらの記事「「メンヘラ」という言葉の歴史 2ちゃんねるで「メンヘラ」が誕生するまで」です。

◎メンヘラの前身の言葉はメンタルヘルスを略した「メンヘル」だった。
◎掲示板の「メンタルヘルス板」はもともと「躁鬱板」という名前だった。
◎メンタルヘルス板を「メンヘル」を略すようになった(2000年頃)。
◎「メンヘル」が「メンタルヘルス板に来る人」という意味を獲得。
◎理由はわからないが人を指して「メンヘラ—」と呼ぶように。
◎誤字がどうかは不明だが「メンヘラ」という言葉も出てくる。
◎「メンヘラ—」と「メンヘラ」が混在する状況が続く(2002〜2003年)。
◎まとめサイトやブログの影響により「メンヘラ」が普及していく。

と,おおよそこんな経緯が描かれています。当時2ちゃんねるは私もよく見ていたのですが,こういう経緯を意識的に追っていたわけではありませんのでとても参考になります。

移り変わり

2ちゃんねるから飛び出したメンヘラという言葉は,どんどん変遷をたどっていきます。これも「移り変わる「メンヘラ」の意味。この10年で「メンヘラ」の使用法はどのように変わったのか」という記事に詳しく描かれています。

◎2008年頃までには,「メンヘラ」に「境界性パーソナリティ障害」「面倒な人」といった意味が付随していく。
◎2ちゃんねるのまとめブログが普及して,2ちゃんねるを見ない人にも言葉が広まっていく。
◎Twitterで用いられることでさらに世の中に普及。

といった経緯がまとめられています。そして,メンヘラはメンタルヘルスに問題がある人の総称であり,包括的な概念だとまとめられています。

そうは言っても、やはり「メンヘラ」は「2ちゃんねるのメンタルヘルス板を必要とするような人」、つまり「メンタルヘルス(心の健康)に問題を抱えた人」という意味であることに変わりはない。心の健康の問題は幅広い。うつ病や双極性障害、統合失調症、摂食障害、強迫性障害、発達障害、人格障害などなど、病名・障害名を上げていけばキリがない。当然、誤った用法で「メンヘラ」の代名詞のように言われている境界性パーソナリティ障害の人も「心の健康の問題を抱えた人」に含まれている。「メンヘラ」は、メンタルヘルスに問題がある人の総称であり、包括的な概念なのだ。

精神科医の解説

2018年の現代ビジネスの記事(「メンヘラ」という言葉はどう変化してきたか。精神科医が解説)も,参考になります。

フォーマルな言葉にはフォーマルな言葉の、インフォーマルな言葉にはインフォーマルな言葉の、それぞれにふさわしい役回りがあるように思います。メンヘラという言葉は、病名にかかわらず当事者同士が集まったり意見交換したりする際のキーワードとして、これからも用いられるでしょう。

意味はどんどん変わったり拡大したりしてしまうかもしれませんが,明確な病名ではなく「メンヘラ」というあいまいな言葉で「ふわっと」表現されることばがあることのメリットについても,考えさせられる記事です。

というわけで,今回は「メンヘラ」という言葉の変遷について調べてみました。言葉が使われていくとどんどん意味も使われ方も変わっていくもので,あとからその言葉を知る人はまるで最初からその言葉がその意味で存在しているかのように使ってしまうものではないでしょうか。言葉が生まれる過程を見たようで,面白さを感じた出来事でした。

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