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日本の就活がなぜ辛いのかをスキルと能力から考える

「能力主義」という言葉を使うときに,その能力を「努力で身につくもの」だと考えるか,「なかなか身につかないもの」だと考えるかで,その背後にあるスタンスはずいぶん大きく変わってくるように思います。

日本はもっと能力主義の社会にならなければいけない」とか「日本にはなかなか能力主義が浸透しない」ということが言われたりすることがあります。

それは本当でしょうか?


就活

たとえば就活の場面です。日本では,学校を卒業するときに一斉に就職していくという慣行が長年続いています。大学でも,在学中の早い時期から就職活動が始まって,卒業と同時に働き始めます。

在学中の10月1日は,それが何曜日であろうと内定式が行われます。授業がある日でもお構いなしで,学生たちは「内定式があるので休みます」と休んでいきます。

これは,大学の一員から会社の一員に変わる儀式のようなものです。

メンバーシップとジョブ

日本では「どの会社に入るか」「会社員になるか公務員になるか」が重要で,「どんな職種に就くか」は重視されません。企業や自治体も,入ってきた新入社員・職員には専門性を求めず,「メンバーシップ」を重視して本人の意向よりも会社の都合でメンバーたちの業務を割り当てていきます。

その一方で海外の企業は「ジョブ重視型」と言われるように,それぞれの部署で欠員が出るとまず社内で募集がかけられ,欠員が満たされないと社外に募集がかけられます。ですので「経理を募集」「営業を募集」という職種を限定した応募となるというわけです。

これは,大学教員の就職の仕方に近いものです。どの分野のどんな研究をしている専門家を募集する,という形ですからね。

このどちらが「能力主義」だと思いますか?

ジョブ型はスキル重視

ジョブ型の就活は,スキルが重視されます。本人がこれまで何をしてきて,どんな経験を積み重ねて,何を学んできたかが重視されます。「獲得した能力」や「これまでの実績」を重視する方式だと言えるのではないでしょうか。働き始めると,その経験によって身につけたスキルを活かして仕事をしていきます。

大学教員や研究者もそうですよね。どんな研究をしてきたかが重要です。どんな論文や本を執筆したか,どんな研究を発表したかは研究業績リストとして明確に可視化されます。

もちろん,スキルや技術を身につけるには,経験だけでなく素質のようなものも関係するのは間違いありません。しかしいずれにしても,「経験が明確に可視化される」という点に特徴があるように思います。

ですからそういうシステムの中では,学生たちは自分の経験を増やすためにインターンシップに参加します。そして,実際の業務を経験する中で「自分はこの業務の経験を積んだ」として履歴に残していくわけです。

メンバーシップ型の場合

では,メンバーシップ型の雇用の仕方はどうでしょうか。

大学の学部を卒業するときに,履歴書に何か明確な実績を積み上げるというのは,なかなかできることではありません。研究業績はほとんどないでしょうし,実際に働いた経験もありません。

そこで,少しでも履歴書の欄を埋めるために免許や資格を取る学生が増えることになります。でも,すぐに取得できるような「資格」は,多くの学生が取ることができるものなのですから,それを取ることの価値は履歴書の1行を埋めること以上の意味があるのか......と疑問に思うことがあります。

アルバイトやサークルでの経験を履歴書に書くこともあるでしょうが,採用する側がそれをどれくらい重視するかはわかりません。だって,採用後の業務に直結することではないのですから。

インターンシップも,なにかの具体的な業務の経験を積むために行うというよりは「就業体験」に近いのもになっていきます。日本のインターンシップは,大学生向けのキッザニアのようなものではないかな,と思うことがあります。

実は能力重視

メンバーシップ型の社員募集は,募集する側にとっては「賭け」です。まだ何も具体的な実績を積んだ証拠もないままに採用するからです。

海外の社員募集は具体的な実績を重視されますので,大学を卒業したばかりの若者よりも,実際に業務を経験した人の方が就職には有利です。ですから,まだ実績を積んでいない人は,インターンシップに参加し,非正規雇用を経験し,大学院に進学して研究業績を積み,履歴書(CVと言います)を分厚くしていこうとします。

具体的な実績があるほど「この仕事の分野で活躍してくれるだろう」という予想がつきやすいものです。

それに対して日本の就活で重視されることは,「良い人かどうか」になってしまいます。具体的な実績がない状態で新卒を採用しようとすれば,そうならざるを得ないのです。そもそも大学生なのですから,ほとんど仕事のことで具体的な実績があるわけがないのです。

すると,その学生の全人格や全能力の程度が採用時には重視されることになります。

この方が「能力主義」ではないかと思うのです。しかも,具体的なスキルよりも「その若者が持って生まれた,育ってくる中で家庭で培われた,どの学校に通って長い時間をかけて身につけたか」という能力です。ですから,出自や学校歴が重視されていきます。

だから辛い

ですから,就活は辛いのでしょう。それは,その人が頑張れば身につくことではなく,人間としてのその人そのものが評価されてしまうからです。

毎年就活の時期になると,こんなことを考えてしまいます。学生の皆さん,今年も頑張ってください。

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