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過去100年間で報告された相関係数の大きさは?

パーソナリティ係数」という言葉を聞いたことがありますか?パーソナリティの研究を報告する論文の中では,質問紙によるパーソナリティの得点と,質問紙以外の方法(行動の評定とか観察とか)で得られた得点との相関係数が,せいぜい0.20から0.30程度だということを揶揄して,心理学者ウォルター・ミシェルが本の中に書いている言葉です。

実際のところ,質問紙から推測されるほとんどすべてのパーソナリティ次元を,異なる手段で——つまり,他の質問紙ではなく——抽出された反応を含むほとんどすべての考え得る外的基準に関連づける研究では,.20から.30の間の相関が繰り返し見いだされているが,これを記述するために,「パーソナリティ係数」という語が作られるかもしれない。(ウォルター・ミシェル 詫摩武俊(監訳) (1992). パーソナリティの理論:状況主義的アプローチ 誠信書房 pp.82)

大きな効果

すでに亡くなられた某先生が,研究計画を考える時には,細かい統計的な方法をあれこれ考えるよりも,簡単な統計で大きな効果が見られる計画を立てるのがいちばん良い,といったことを話していたと聞いたことがあります。

まったくその通りです。世界中の研究者の誰もが思いついていない,研究することに意義がある現象を見つけ出して実際に確かめていく研究をするというのが,研究者にとってはいちばん目指すべきことではないでしょうか。

でもそれは,私のような凡人の研究者にはなかなかできることではありません。

実際どれくらいの相関係数なのか

とはいえ,本当にミシェルが言うような相関係数がこれまでに報告されているのでしょうか。それから,パーソナリティ心理学以外の分野ではどうなのでしょうか。過去100年間にわたる社会心理学分野の研究論文の中で,どれくらいの相関係数が報告されているのかを検討した研究があります。この論文を見てみましょう(One Hundred Years of Social Psychology Quantitatively Described)。

この研究で対象にしているのは,メタ分析の研究です。メタ分析の研究を集めて,そこに報告されている統合された相関係数をさらにまとめていくということを試みています。

論文データベースを検索して,社会心理学関連のメタ分析論文を490本見つけています。そこから分析に使用できるものを選んでいって,最終的に322本の論文の中に報告されている474の指標が,さらなる分析に用いられています。

結果は?

社会心理学の研究トピックごとに,メタ分析で報告された相関係数をさらに統合した結果が報告されています。

◎攻撃性:r = .24
◎態度:r = .27
◎原因帰属:r = .14
◎期待効果:r = .16
◎性役割:r = .18
◎集団過程:r = .32
◎健康心理学:r = .17
◎援助行動:r = .18
◎集団間関係:r = .19
◎法律:r = .17
◎リーダーシップ:r = .25
◎方法論:r = .21
◎動機づけ:r = .15
◎非言語コミュニケーション:r = .22
◎パーソナリティ:r = .21
◎人間関係:r = .22
◎社会的認知:r = .20
◎社会的影響:r = .13
◎全体:r = .21

全体で統合された相関係数は「0.21」ということでした。この相関係数の大きさは,パーソナリティ心理学の研究テーマで得られたものと同じですね。

ということは……やはり,ミシェルが指摘した「パーソナリティ係数」は正しかったということでしょうか。

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