見出し画像

ボールペンの芯にまつわる小旅行

今日、自分のお気に入りのボールペンの芯が切れてしまったので、その替芯を買いに行った。

このボールペンは、以前、ぼくの暗黒時代、郵便局を退社する際、一緒に働いていた少し年上の女性に、餞別として頂いたものだ。

頂いた当初は、少し派手なボールペンだなと思っていたのだけれど、スピリチュアル界では幸福の象徴、フクロウがプリントされているもので、なんか、その気持ちがうれしく、芯が切れても取り替えながら大切に使っているものだ。

そして、ぼくはネット検索し、近くの大型文具店に向かったのだった。

気晴らしも含めて車での買い物だったので、思いの外、近くにあったその文具店に少し残念な気分で着いてみると、なんと、休みであった。

小学校に並列するその文具店は、やはり、学校が休みの時は、閉店するみたいで、とりあえず、しょうがなく、第2の候補を検索し直し、再度、買い出しに出かけてみた。

次の店舗は、比較的遠くにあり、これならば車のドライブには丁度いいだろうと、向かったのだが、着けば、なんと、そこも閉店していた。

ぼくは一度思い立つと、絶対、それを成し遂げなければ気がすまないタイプで、それじゃ〜、もう1店舗ということで、そこから、また、少し離れたお店を検索し、向かったのだった。

そこの店舗に向かう途中、比較的大きな西友があり、ここだったら大型の文具店はあるだろうと車を停めそこに寄ってみると、なんと、文具店すら入っていないではないか!

なんだこりゃ

昔であれば、この大型の西友は地域のデパートみたいな役割をしていたので、ここならばあるかと思ったら、文具店すら入っていない。

時代なのだな〜と思った。

やはり、時代は通販なのだろう。

しかし、ぼくはこの通販があまり好きではないのだ。

確かに便利なのだが、ぼくは実際の物を見て買い物をしたいタイプで、そこにこそ、買い物の楽しみがあると思っている。

そこに行けば、新たな商品との出会いもあるだろうし、店員とのちょっとした会話もあるかも知れない。だから、ぼくは胆略的にポチッと通販ボタンを押したくないのである。

困ったぼくは、さすがに諦めるか、と、家路につこうかと思ったのだが、車に戻り、やはり、この西友に行く前に決めた文具店のことが気になり、求めているものが在庫しているか確かめるために電話をしてみたのだった。

「プラチナのボールペンだと思うのですが、そちらに替え芯の在庫はありますでしょうか?」

「品番はなんて書いてありますか??」

「老眼なのと、駐車場が暗いので文字が読めないんですが・・・」

と、店主と話していると、電話が急に切れてしまった・・・

はぁ〜、通信状況がよくないのねと、落胆しながら車を駐車場から出し、大通りまで出て、車を再度停止し、ボールペンからそのなくなった芯を引っ張り出し、品番を確認してから、また、そこへ電話したのだった。

「さっきは電話した者なんですが、電話が途中で途切れてスミマセンでした。BSP=100Sと書いてあるようなのですが、在庫はありますかね??」

店主は丁寧に調べてくれ

「あまり、聞かない品番ですね。残念ながらその在庫はないようです。大変、申し訳ないのですが・・・」

さすがにぼくはその言葉に諦めをつけ、天気の雲行きも怪しいので、洗濯物も気になり、そのまま家路についたのだった。

車を発車させほどなくすると、携帯が鳴った。

「何度もスミマセン」

と、その文具店の店主からであった。

「パイロットのモノはないのですが、他の商品で代用できるモノもあるかも知れません。そういった方もよくお見えになるので、現物があれば確認することができるんですが、いまは遠くでいらっしゃいますか??せっかく来てもらってもダメな場合はありますが・・・」

ぼくはこの店主の提案に、これもなにかの縁と、ダメ元でそのお店に車を走らせたのであった。

途中、100円ローソンがあったので、そこに立ち寄り、そこにしか置いていない、ばあちゃんにいつも認知症対策として食べてもらってる、皮付きのピーナッツを3袋買い、昼飯を食っていなかったので、大好きなチョココーンとコーヒーを買い、そこでnote友kaloさんが勧めてくれた無添加タバコに火をつけたのだった。

とんだ、小旅行になっちまったな(苦笑)

でも、ぼくはこの不思議な小旅行を少し楽しんでいたのだ。

在庫があるかもどうかわからないモノを買いに行くというスリル。

わざわざ、こんなボールペンの芯だけのことで再度電話してくれた店主の誠意。そして、その誠意にかけてみようと、また、わざわざ、ボールペンの芯を買い求めに行く自分。

嫁であれば、いつも通り、

「ばかじゃないの」

と、エヴァンゲリオンのアスカのごとく、一蹴されるようなこの些細な買い物に、わざわざ、ガソリン代を出して向かう阿呆な自分に、どこか豊かなものを感じていたのだ。

一服後、再度、車を走らせ、その店に向かった。

着けば、そこは新聞屋も並業している比較的な小さな店舗で、たった1台しかない駐車場に車を停めた。

「さっき、電話した者なんですが」

と、話すと、さっきの店主の受け答えとは違う、新聞屋のユニフォームを着た老人が出てきた。

アレッ、さっきのひとじゃないのかな??

その老人はやはりあまり文具に詳しくないのか、ぼくが差し出したボールペンに合う、替芯を探すのに少し苦労していた。

そこへ、さっきの電話の主が帰ってきてくれた。

「さっきの電話のお客さんですよね。このボールペンなら、たぶん、この替芯でいけるでしょう」

と、手慣れたようにぼくのボールペンに替芯を装着し

「大丈夫だと思うのですが、ちょっと、ここに試し書きしてもらえませんか?」

こんな替芯ごときで、試し書きまでさせてくれるのか!!

ぼくはその店主の真摯な振る舞いに驚き、その店主から差し出された試し書き用ノートに試し書きをさせてもらった。

うん、スムーズだ。書きやすい👍

芯がピッタリ合ってて、書いててブレがない。

「これで全然大丈夫みたいですね!」

「よかった。では、88円になります」

ッ??そんな安いの??

ぼくはそれでは申し訳ないのでと、近くにあった消しゴムを買おうとすると

「それだったら、お客さん。せっかくだったら、また替芯買いに来るの面倒でしょうから、消しゴムやめてもう1本替芯いかがですか??」

「じゃ〜、せっかくなんで、赤の方も含めて、黒のをさらに1本替芯いただいてもいいですか?」

と、結局、なくなった黒の替芯2本と赤の替芯、計3本を買い求めた。



「計264円になります」



たった、264円の買い物だったが、でも、なんか豊かな気持ちになった。その店主には本当に安い買い物で申し訳ないのだが、お返しにほんの少しだけ売上に貢献することが出来た。

ぼくはこういうやりとりが好きなのだ。売上でいえば蚊のようなものであるが、それを考えずにお客が困っているからと再度電話までしてくれて、なおかつ、こちらの有利になるような提案までしてくれる。

こういう誠意のあるコミュニケーション。

お陰で店主も数円でも余計に手に入ったことだし、ぼくは多分次もそこへ買い物に行くだろう。そして、次にいいものを買う場合は、必ずそこで購入するだろう。

これが真の永続的な商売のあり方なのだ。

昨今は、通販などで胆略的に買い物をする傾向にあるが、ぼくはこのような心の通った買い物をしたいのだ。

店主の誠意は客への信頼に繋がり、その信頼はその何倍もの利益になって返ってくる。

ぼくは永続的な商売というものは、そのようなものであると信じたい。

たった264円の買い物ではあったが、やはり、ぼくは豊かな買い物ができたことに満足し、次にはまたなにか購入させて頂こうと、心に決め家路についたのだった。



家に帰り、当然のごとく、まだ、干されていた洗濯物を急いで取り込み、それを畳んでいると、ぼくに電話で促されしぶしぶ出ていった散歩から、何事もなかったようにばあちゃんが帰ってきた。


なんだか、たかがボールペンの芯のおかげで小旅行になってしまったが、まさにボールペンの芯を巡るロードムービーに、ぼくは少し苦笑した・・・




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?