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感染者減少と発症者減少? (1/27現在のデータから. ) (1/27 22時: モデルナワクチンの暫定結果を追加)

陽性者減少?発症者減少?死亡減少?

前の投稿で見てきたイスラエルのデータは、「陽性者をどれだけ減ったか?」を評価したものである。一方で、これまで紹介してきたようなワクチンの臨床試験は、
「陽性でかつ、症状が出ている人をどれだけ減らせるか?」
「陽性で、入院など重症化した人をどれだけ減らせるか?」をメインに評価している。

陽性者よりも発症抑制や重症者抑制に焦点を当てるのは、通常はむしろ妥当なことである。

ワクチンや治療薬の効き目を考える時、「薬なしと比べているか?」や、「他の因子の影響はないのか?」のような研究デザインの問題はこれまでもよく指摘されてきた。ただ、きっちりした試験で結果が出たとしても、改善したことの「うれしさ」が実感できないものさし(例えば、臨床検査値が変化したとか、独自に開発した「○○スコアがxxポイント改善」など)の結果だけでは、意味合いは小さい。

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アビガンやレムデシビルなどの治療薬の臨床試験でも、「ウイルスが消失するまでの時間」「症状が消失するまでの時間」「重症化回避・死亡回避」など、さまざまな効き目のものさしが使われていた。
測定してみなければわからない「ウイルス消失所要時間」と、メリットがはっきり実感できる「重症化回避」「死亡回避」ならば、後者の方がより大事といえる。

通常ならば、「無症状の感染をどれだけ減らせるか」よりも、「発症や重症化、さらには死亡をどれだけ減らせるか」を見た方が、臨床的な意義は大きい。

ただ、COVID19の場合には「無症状感染者が、他に感染させ、なおかつ重症化させるリスク」を考慮して、無症状でも隔離療養が求められる。それゆえ、無症状感染の減少効果も、ある程度は「意味のある物差しとなる(ただ、…以降1/27追記)

ワクチンの臨床試験のものさしは?

ファイザー社やモデルナ社、さらには申請中のアストラゼネカ社のワクチンの臨床試験で、もっとも重要視されたものさしは「発症をどの程度抑えるか」である。90%や95%の有効性として報じられたのは、この「発症者をどのくらい減らせたか(90%なら10分の1に、95%なら20分の1に)」の数字だ。繰り返しになるが、「90%(95%)かからなくて済む!」ではない。

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では、無症状者を含めたデータはどうか?各社の論文の中では、アストラゼネカの論文が「無症状・症状不明の感染者に対する効果」を提示している。(左から、総数・ワクチン群の発症割合と1000人あたり換算、プラセボ群の発症割合と1000人あたり換算、ワクチン効果)

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複数の国で行われた臨床試験のうち、英国での一部の試験でのみ無症状者のデータを取っていることなどが理由で、十分な症例数が得られていない。そのためワクチン効果は27.3%だが、幅を持たせると54.9%からマイナス17.2%と、「54.9%減らせるかも知れないが、17.2%増やすかも知れない」となり、統計的には「減らせるかどうかまだわからない」という結論になる。論文に対するコメントにも、「症例数が少なくさらなるデータが必要であるが、無症状の感染を減らせる見込みはある (The results nonetheless provide some hope that COVID-19 vaccines might be able to interrupt some asymptomatic transmission)」とある。

モデルナ・ファイザーのワクチンでは、臨床試験のプロトコル(手順書)では無症状の感染者への効果も評価するとなっているが、論文中ではデータは得られていない。モデルナの論文の考察 (discussion)の項で、「暫定的・探索的な解析では、ある程度無症状の感染を減らす効果が示唆されているが、十分なデータではない。無症状感染の減少や、ウイルス排出の減少効果については解析の途上である」と記述がある。
ファイザーの論文でも、研究の限界 (limitation)のところに、「今回のデータは、無症状の感染についての効果を示せるものではない (These data do not address whether vaccination prevents asymptomatic infection)。症状の有無に関わらず感染経験の有無を検出できる、血清学的検査 (註:抗体検査)などの結果は、改めて報告する予定である (a serologic end point that can detect a history of infection regardless of whether symp- toms were present (SARS-CoV-2 N-binding anti- body) will be reported later)とある。

欧米の規制当局の評価は?

欧米の規制当局 (ヨーロッパ:EMA、アメリカ: FDA)も、承認済みのモデルナ・ファイザーのワクチンについて、「感染減少効果についてはまだ不明である」という立場をとっている (「効果がない」ではなく、「あるかないかまだ不明」というスタンス)。
こちらがEMAの評価(Comirnatyはファイザー社のワクチンの商品名。ファイザーモデルナ)

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こちらがFDAの評価ファイザーのワクチンでは「ほとんどのワクチンで、発症が減らせれば通常はウイルス感染も減らせる効果がある。このワクチンでもそのような状況が望まれるが、現在のところは不明である」

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モデルナのワクチンでは、「現在のところは感染減少効果を評価できるデータが少ない。発症抑制効果が高いため、感染予防効果も期待できるが、その効果が小さかった場合にマスク・ソーシャルディスタンスなどの対策を緩めると、感染はやはり拡大することになり、今後の研究が必要である」

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なおファイザー社のCEOは、2-3月をメドに感染抑制効果の有無に関するデータを発表する、としている。

(1/27 22時追記)
米国で予防接種の推奨・非推奨を決める諮問機関・ACIPは、モデルナワクチンについて、「暫定的なデータで、ある程度の無症状感染抑制効果が示唆される (原文: Preliminary data suggest that the Moderna COVID-19 vaccine might also provide some protection against asymptomatic SARS-CoV-2 infection)」と述べている。引用されているFDA提出データはこちら

論文中の「暫定的な解析」に相当する部分と考えられる。
1回目接種と2回目接種の前に行ったPCR検査結果を用いて、「1回目感染なし・2回目感染あり」と判定されたケースを抽出した。ワクチン群で14名 (0.1%)・プラセボ群で38名 (0.3%)が該当し、陽性率をおよそ1/3に減らせる可能性があるとしている。

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少なくとも現時点では、「ワクチンを打てばマスクやソーシャルディスタンスは不要!」のような主張は全く見られない。

十二分に発症抑制効果があれば、無症状者の潜在的なリスク(他に感染させて、その人が発症や重症化するリスク)は減少する

現時点での論文からの情報では、「感染のリスクも減らせそうだが、ゼロにはできないし、減らせるかどうか確定的なデータはまだない」という解釈になろう(どうしても統計的には奥歯に物の挟まった表現になってしまう)。通常ならば重要性の低い「感染抑制効果の有無」だが、イスラエルの研究結果など、感染抑制効果を類推?しうるデータも論文ではないが報告されている。今後の新しいデータに注目したい。

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