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4/21 ロサンゼルス郡&南カリフォルニア大学の抗体検査 (N=863)の中間発表 (追記あり)

あちこちからの報告が続く「潜在的な感染者はどのくらい?」を調べる抗体検査、今度はロサンゼルス郡 (Los Angeles County)と南カリフォルニア大学 (University of South California, USC)の調査の中間発表 (N=863)が出た。成人863人での抗体検査の陽性率は4.1% (幅をもたせると2.8%から5.6%)で、地域人口 (800万人)にあてはめると22.1万人- 44.2万人となり、研究実施時点の確定患者数 (7,994人)と比較すると28倍-55倍となる。

結果も似通っているのでややこしいが、先日紹介したこちら(サンタクララの研究)とは別モノ。(後述するが、検査キットは同じ会社のものを使用している)

現段階では中間発表の段階であり、なおかつ論文投稿はなされていないため、査読その他のプロセスは経ていない。あくまで、(ドイツのGangelt研究と同じく)「研究実施者が記者発表を行った」状況である。公式リリースもこの点は明記している。

大学公式のリリースはこちら。

記事の中にもリンクされているように、ロサンゼルス郡とUSCの共同記者会見が動画で見られるようになっている。発表そのものもさることながら、記者の質問の内容(とそれへの回答)で、さまざまな情報を補足できる。以下、リリースと会見の質疑応答の内容を合わせてまとめる。

対象者は誰?

 サンタクララ研究では、Facebookなどで患者を募り、ドライブスルーで検査を実施したことから、「症候があって不安な人がより多く集まる」「スマホやクルマを持てるような、所得がある程度高い層に偏る」バイアスが指摘されていた。
 
今回の調査は市場調査会社 (LRW)と協力し、調査会社が持っているe-mailアドレス・電話番号のリストをもとに、群全体の人口特性に近くなるように参加依頼を送信している。そのため、「不安な人が集まる」バイアスはある程度緩和される。ただし検査手法はドライブスルーのため、「クルマを持っている人バイアス」は引き続き生じうる。
 なお現時点では、実際の参加者の特性などは不明である。

どうやって抗体検査する?感度と特異度は?

 4/10と4/11に、ドライブスルー検査によって抗体検査を実施した。

 サンタクララ研究と同じ、Premier Biotech社の抗体検査キットを使用している (Premier社は米国法人、中身の検査キットは中国のHangzhou Biotest Biotech社製造)

 「感染している人が、ちゃんとキットで陽性になる割合(感度)」と、
 「感染していない人が、ちゃんとキットで陰性になる割合(特異度)」について、前回の投稿(サンタクララ研究の未査読論文)のデータはこちら。

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 今回は質疑応答のなかで、スタンフォード大学でのキットの精度検査に関し、「感染なしの30人と88人に対するキット検査は、いずれも全員が陰性になった」
「感染ありの人に対するスタンフォードの検査は2つあり、それぞれの感度は72%と93%であった」と述べている。

 後者の感度については前回のデータ (67.6%)とズレがあるが、「感度は70%-95%程度、特異度は99%以上」と考えられる。

 なおサンタクララ研究と同様に、偽陽性(感染していないのに陽性と出てしまう、非感染者100人中0.5人程度)偽陰性(感染しているのに陰性になってしまう、感染者100人中5-30人程度)が現れることを考慮した上で、調整して全体の陽性率を計算している。

陽性者の割合は?性差や人種差は?

 中間発表では、843人中の陽性者は4.1%であった。幅を持たせた推計では、下限2.8%・上限5.6%となった。

 性別・人種・年齢ごとの陽性割合は以下の通り(発表から筆者が作成)。

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 2.8%から5.6%の数字を郡全体の成人人口に当てはめると、22.1万人-44.2万人となる。調査実施時点での確定患者数は7,994人だったので、28倍から55倍の数字となる。

サンタクララ研究 (陽性率1.5%)よりやや大きな数値 (4.1%, 25人に1人が陽性)で、偽陽性者紛れ込み (100-200人に1人)の影響は若干小さくなる。もちろん、他のコロナウイルスに反応する可能性(交差反応)などの限界は、引き続き存在する。

結果の解釈は?

 研究代表者のUSCのProf. Neeraj Soodは、質疑応答の中で以下の2点に触れている。

1) 確定診断者数でなく潜在的患者数も含めて計算すれば、致死率 (死亡者÷患者数)が大きく下がる。このこと(実際の致死率が低いこと)はグッドニュースといえるだろう。

2) もっとも、COVID-19の影響・疾病負担 (Disease Burden)は、致死率のみでは評価できない。潜在的患者数が(確定診断者に比べて多いとは言え)4.1%にとどまるということは、現在の状況は感染拡大の初期段階 (early phase)であることを示すものでもあり、多くの人に依然として感染リスクが存在する。感染者数が増えていけば、入院患者数・ICU利用者数・死亡者数も増えていく。継続的に抗体検査を実施しつつ、将来の感染動向を予測し、政策に生かすことが重要である。

研究の限界その他

大学のウェブサイトに、以下のような研究に関するFAQがある。

研究の限界については、抗体をもっているとしても免疫があるとは限らないこと、そして免疫があったとしても、それがいつまで続くかは分からないことを明確に述べている。

さらに、「抗体検査を職場復帰の可能性を探るために使う」ことについては、
「抗体検査の結果を職場復帰の条件として使うことには賛成しない。しかし、抗体を持っているか否かを個々人が知ることで、(偽陽性偽陰性のリスクはあるにしても)ある程度リスクを認識できることにはメリットがある」と述べている。


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