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感染研「超過死亡データ」のうごき?

今日の日経朝刊に出た記事。

最後に「これを機に、諸外国のように迅速にデータを出してもらえると嬉しいのですが」とコメントしているのは自分自身だが、記事の前半で紹介されていたのが、感染研が週報の形で出している「インフルエンザ関連死亡 迅速把握システム」のデータ。

21大都市について、インフルエンザによる死亡・肺炎死亡を、迅速 (2週間程度)で把握できるシステムである。

インフルエンザ・肺炎死亡とは?

感染研から昨日付で公表されたQ&Aによれば、「インフルエンザ・肺炎の死亡」の定義は、「死亡診断書の死因欄にインフルエンザあるいは肺炎(病原体不問、飲食物が肺に入って生じた肺炎除く)の記載がある人」をさす。「飲食物が…」のくだりは、誤嚥性肺炎は含まない、と解釈できる。

死亡診断書の死因欄は、下のように「ア・直接死因」「イ・『ア』の原因」「ウ・『イ』の原因」…と多段階にわたる。この中のどこかに肺炎・インフルエンザの記載があったものが、保健所を通して感染研に集積することになる。

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超過死亡の判定は?

感染研に集まった情報をまとめて、例年の死亡傾向から求めた(この式の立て方については情報が得られなかった)標準の死亡数(ベースライン)・ある程度幅を持たせた「死亡数の上限値 (閾値)」と比較する。集まってきた情報から推計した死亡数が、閾値より下にあれば「目立った死亡増加(超過死亡)なし」・閾値より大きくなったら超過死亡ありと判断する。

すなわち、「標準より多い死亡があった」だけでは超過死亡にはカウントしない。「標準より多く、なおかつ閾値よりも多い死亡があった」時に限り、超過死亡と判断される。

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上の例 (横浜市)ならば、実際の死亡数(紺ダイヤのマーカー)はベースラインの緑線よりは13週まで上に来ている。しかし、閾値の紫線を上回っているのは49週 (2019年12月)と1週 (2020年1月)だけなので、他のところは誤差の範囲内で、49週と1週のみ超過死亡ありと判定する。

なお、感染研による超過死亡の定義では、

1) ある週の実際の死亡数が閾値を上回っていることを前提として、
2) 実際の死亡数と「閾値」の差分 (紺ダイヤ線と紫線の差)を超過死亡としている。
実際の死亡数とベースライン(緑線)の差分ではないので、やや注意が必要だ。

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EUROMOMOの超過死亡は、明記はされていないが「実際の死亡数ーベースライン」の形で計算されていると思われる。この場合、超過死亡数は若干増える。

超過死亡はどのくらい珍しいできごと?

「これを超えたら超過死亡あり」の閾値をどのように設定するかは、分析の目的次第である。EUROMOMOにしても感染研のサーベイランスにしても、インフルエンザの徴候をいち早く捉えることが主眼になる。
感染研のウェブサイトには、「ベースラインからある程度幅を持たせる (=95%信頼区間を計算する)方法の概要が記されている。もっともベースラインを計算する時に、過去のピーク時死亡のデータをどの程度考慮するかによって、幅の大小も変化する。

実際、東京の過去のデータを見ると、とくにこの3年間は超過死亡が多くの週で観察されている。(こちらの21ページ)

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東京のデータは?

記事中のグラフにもあるが、少なくとも昨日までは、全国の傾向とは異なって3月に超過死亡の山が観測されていた。

(webarchiveに残っていたデータ)

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今朝方?更新されたデータでは、3月の山が消えて、49週目から13週目まで「閾値をギリギリ上回る」状況が続くかたちになっている。この場合、感染研の計算法による超過死亡の数は、特に10週目以降についてはゼロに近くなる。

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Q&Aにもあるように、感染研のデータは保健所からのデータ入力をもとにしている。ただ単に足し算するのではなく、報告があった保健所の中での平均を、地域全体に拡張して推計した値を表示している。例えば3月(10週以降)に、肺炎・インフルエンザがらみの死亡が多発した保健所が積極的に入力・報告を実施し、そうでない保健所はやや遅れて報告した…のような状況があれば、「いったん山ができたものが、後になってしぼむ」現象も起こりうる。

こちらもQ&Aにあるとおり、あくまでこのシステムは、インフルエンザ向けに設計されたものである。もっとも、「肺炎・インフルエンザの死亡を広く取って、通常と比較する」という趣旨そのものは、コロナウイルス感染症の評価にもある程度援用はできると考える(EUROMOMOも元々はインフルエンザや熱波の超過死亡を検出するシステムであった)。もちろんコロナのみの影響を切り出すことは不可能であるし、他の都市との比較も十分ではない(そもそもデータの集計は3月で終わってしまうから、4月以降の感染拡大の影響は捕捉できない)。

ただ、抗体検査の初期の検査と同様に、「どのようなデータがあれば詳細な評価ができるのか?」「データの限界をどのように捉えるべきか?」を映し出す指標としては、非常に役に立つ指標だったと考える。もちろん、「こうすべき」で終わるのではなく、弱点を克服できるようなデータをどう作り出すかを考えるのが、私の本来の仕事である。



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