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潜友達は"幻肢痛"を"変化"させることができるか

今日の記事は完全に趣味の話になります。

実は、私は小学校入学前からステルスアクションゲーム、メタルギアソリッドシリーズの大ファンです。

きっかけは当時プレイステーション版「メタルギアソリッド」(以下MGSと略します)をプレイしたことです。

隠れながら進むというゲームコンセプトや、かっこよすぎる主人公スネークの生き様が幼稚園児だった私にとても刺さりました。

その後は新作が出れば誕生日にハードごと買ってもらい、何度も何度も周回して遊ぶほどはまっていました。

しかし、2015年に最新作であるMGSV:TPP(メタルギアソリッドV ファントムペイン)の発売前にある事件が起こりました。

ゲーム業界に興味のある方ならご存知かもしれませんが、MGSV開発中に製作を担当していたコナミ内部の小島プロダクションが当のコナミによって解散させられ、ゲームの出来も中途半端な部分が多く、炎上してしまいました。

その後に従来のメタルギアとはテイストが大幅に違う「サヴァイブ」を発売したこともあり、今なおファンの中にはコナミを許せない方もいるかもしれません。

2024年はMGS3のリメイク作品であるMGSΔが発売予定ですが、今回の記事では生粋のMGSファンである私が、メタルギアや今の制作チームに対してどのような思いをもっているのかを綴ります。




メタルギアとは

まずは簡単にメタルギアというゲームについて解説しておきます。

最初のメタルギアは1987年にMSX2というハードで発売されました。

このMSX2は、当時発売されていたファミコンと比べて、スペックが低いので当時流行していたマッチョな主人公が銃を撃ちまくるようなアクションゲームを作るのが難しいという制約がありました。

そこで考え出されたのが、「戦いを避け、見つからないように進んでいく」というコンセプトでした。

監督を務める小島秀夫は『僕の体の70%は映画でできている: 小島秀夫を創った映画群』という本を出版しているほど大の映画好きということもあり、映画のようなストーリーも魅力です。


自分では操作しないカットシーンも充実している
(画像は1998年発売のメタルギアソリッド)


そして、そのストーリーを彩るのが主人公スネークをはじめとする魅力あふれる登場人物達です。メタルギアは知らなくとも、何かの機会にダンボールに隠れるスネークを見かけたことがある人は多いのではないでしょうか。

wikipediaによると、1987年の第一作目の発売から2023年までにシリーズ累計販売本数は6,110万本を超えていることからも世界中で人気があることがわかります。


MGSVクリア直後の思い

MGSV発売前に小島プロダクションが解散したことで、本当にゲームが完成するのか不安でした。

当時の日本経済新聞の記事では、現在ではマイルドに書き直されていますが、小島監督と旧小島プロダクションメンバーの接触はほとんど認められていなかったり、勤怠状況を過剰なほど細かく管理されていると書かれていたと記憶しています。

そんなこともあり、ある程度覚悟を決めてプレイし始めましたが、冒頭に「KOJIMA PRODUCTION」や「A HIDEO KOJIMA GAME」の文字が表示され一安心でした。

しかし、ゲームクリア後は残念な気持ちが込み上げます。

次章予告まで盛り上げていたのに唐突に終わってしまう第二章、「蠅の王国」エピソードがゲーム本編には未収録で、完成度30%と称する映像が初回限定版ディスクに収録されており、「なぜ完成させてから発売しなかったんだ・・・」という思いが強くなりました。


コナミを憎むプレイヤー達だが・・・

発売を何年も待っていたので、未完成に見えることがとても残念でしたが、今ではこれこそが「ファントムペイン」の完成であると思うようになりました。

その理由を説明していくので、まずは小島監督のこのツイートをご覧ください。


こちらはMGSV:TPP発売前日のツイートです。

これを見る限りでは、「最後の最後までやりきった」とあることから、小島監督にとって未完成品ではないととれます。

そして、もう一つ観ていただきたいのがこちらの動画です。


この動画では、小島監督自身が製作関係者や、発売直前に亡くなってしまった海外のファンにMGSV:TPPの完成を報告するというものです。

当時のAmazonやYouTuber達のレビューを見ると、未完成になっていることを残念に思う人達が私以外にもたくさんいたことが分かりますが、製作を担当した小島監督は完成品を出したと考えているのです。

しかし、ファン達(私を含め)はコナミの妨害によってメタルギアが完成しなかったと思っており、コナミに向けられたヘイトは相当のものでした。

実際に私自身も大好きなシリーズがコナミによって強制的に終わらせられたと捉えていました。


ゲームと現実のリンク

MGSV:TPPのストーリーは、スネーク達が9年前に自身の基地を壊滅させたスカルフェイスに復讐を果たすのですが、その過程で怒りや憎しみによってスネーク達も徐々に侵されていくいくというものでした。

発売前に公開されたトレーラーに「怒りとは酸である。注ぐ相手より、蓄える器をより侵す」というマーク・トゥエインの言葉も引用されており、ここでもスネーク達が気付かないうちに少しづつおかしくなっていくのが暗示されていました。


ゲーム中にはスネークがスカルフェイスに導かれるような描写も
スネークがスカルフェイスに近づいたともとれる演出


このストーリーって当時コナミを憎んだ私たちに似ていないでしょうか。

思えば今作はスネーク=プレイヤーだと思えるようにセリフを少なめにしたと小島監督が説明していました。

スネーク=プレイヤー、スネークはスカルフェイスを憎み、プレイヤーはコナミを憎んだ。

振り返ると、ゲームの発表自体がモビーディックスタジオなる架空のスタジオを使ったサプライズなものでした。

ゲームと現実のリアリティをオーバーラップさせるような演出を発表時からしていたので、ストーリーの核をプレイヤー自身に背負わせるということを作り手が考えてもおかしくないと思うのです。


潜友達は幻肢痛を超えられるか

MGSV:TPP後のストーリーはスネークは戦友だったゼロ少佐とザ・ボスの理想を巡って、袂を分かつことになります。

しかし、私達プレイヤーはエンディングにて私達こそがビッグボスだと告げられます。


エンディングより


プレイヤーこそがビッグボスだと告げられる


ストーリー的には蠅の王国が収録されていないので、その部分は確かに未完成だったかもしれません。しかし、それこそが私達プレイヤーに植え込まれた「幻肢痛」です。

幻肢痛(ファントムペイン)とは、腕を切断しているのに指の痛みを感じるなど、無いのに痛い・無いから痛いといったものです。

本作の登場人物は何かがありません。スネークは腕や過去、ミラーは片腕と片足だけでなくビッグボスと共に生きる未来、スカルフェイスは母国語、クワイエットは言葉です。

そんな中、私達プレイヤーからは超大作として完成するはずだったメタルギア最新作が奪われたような演出をしたのではないでしょうか。

私達はメタルギアという作品を通して様々な価値観に触れてきました。この幻肢痛を克服するためには、受けの姿勢だけでなく、当事者(プレイヤー)として物語の円環を閉じなければならないのです。

そして、幻肢痛を乗り越え、また新しく物語に触れることができる。MGSΔはそんな機会にしたいですね。

新生メタルギアの第一弾は「メタルギアソリッドデルタ」です。デルタの意味はギリシア文字の変数を表します。

潜友のみなさん、今こそ幻肢痛を変化させ、前に進みましょう。MGSV:TPPで負った幻肢痛を乗り越えることが私達にはできます。なぜなら、私達こそがビッグボスなのですから。

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