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極上の楽器(掌編小説)

 人間は極上の楽器だ。

 耳をつんざく叫びを聞くと、脳がじんと痺れたようになる。恍惚としたあの感覚を覚えてしまったら後戻りはできない。

 この仕事について五年、数え切れない悲鳴を奏でてきた。他ならぬ自分の手で生まれた叫びの、なんと艶やかなことか。

 女の悲鳴はフルートに似ている。高く、いつまでもすっきりとした余韻を残して楽しませてくれる。

 男の声には深みがあった。普段押さえつけられている分、恐怖に震える声帯は素晴らしい楽器となる。まるで年月と共に深みを増すヴァイオリンの音色のように。

 とりわけ好むのは幼い子の悲鳴だ。ガラスの鈴を転がしたような、雑味のない純粋な叫び。毎日でも聴いていたいと思うが、残念ながら私のもとに子供は少ししか来ない。

 今日も新たな犠牲者が来た。肉体を拘束され、不安げにこちらを見上げている。さて、君たちはどんな声で鳴くのだろう。満面の笑みを浮かべながら、マイクのスイッチを押した。

「お待たせいたしました。サンダージェットコースターまもなくの発射となります。背もたれに背中をぴったりとつけ、安全バーをしっかり握ってお楽しみください――」

 終

※以前Pawooに投稿したものを修正・改題しました

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