「お金で買えないものはお金で買わないほうがいい」の話
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「お金で買えないものはお金で買わないほうがいい」の話

Asuka Hara

「やっぱりこの季節が一番いいな〜。」「一年中秋でもいいじゃん、あれ?半年前にも同じこと言ってたような...」と言い終わる頃には冬の足音が聞こえてきている11月中旬です。さてさて、衆院選も終わり新規感染者も下げ止まりしつつある中、政府与党が給付金の検討を始めていることが話題になっています。

「所得960万円以下、18歳以下に現金クーポン各5万、住民税非課税世帯10万円、マイナンバーカード最大2万円」

給付額や対象世帯については様々な声があるようです。「10万円一律で配るべき」や「将来の世代にツケを回さないために一定の所得制限を設けるべき」といった声も聞こえてきますしどれも真っ当な意見だと思います。日々の生活を乗りこなすのが精一杯という方はこうした議論にやきもきしているでしょうし、できるだけ困窮している人に的確に届く形に落ち着いて欲しいと思うばかりなのですが、今回の給付金議論について個人的に感じていることは2つです。

①目的と効果に関する伝え方は適切か?
②お金と交換できないものを交換しようとしてないか?

コロナ禍が始まりはや1年9ヶ月。どの国も壮大なトロッコゲームを何とかかとか進めている状況。未知のウイルスなんてのは宇宙人到来みたいなものなので、誰も100%の対応ができることなんて期待していないはずです。ですが「国のリーダーと国民のコミュニケーション」はもう少し練られた方法がとられても良いのかなと感じています。今回はそんなお話です。

今回の給付金、目的なんでしたっけ?

消費を促して経済を回すための「経済政策」なのか、子育て世代や生活困窮者を支援するための「福祉政策」なのか、はたまた危惧されている第6波に備えるための「感染対策」としての給付なのか、その辺りの大事な大事なコミュニケーションが抜け落ちてしまっているように思えてなりません。所得制限についても「ピンポイントで必要な人により多く給付するため」なのか、「財政をある程度セーブしたいから」なのか、本当の目的や意図を直接、能動的な形で総理あるいは担当の大臣から聞くことはなく、私たちはメディアを通して「こう決まったんだ」という「結果」を知るのみです。

あわせて発表された「クーポン」や「マイナポイント」についても同じことが言えます。「クーポンにすることで給付が貯蓄に回ることを防ぐ」のが目的だと「推測」することはできます。ただ、その「推測」を聞くよりも「そう決めるまでのプロセス」を「懸念したこと」「代替案として上がった案」「なぜこれがベストなのか」を意思決定者から直接説明されることとでは、信頼感や納得感が大きく変わってくるのだと思います。

私以外私じゃないの〜 だから、マイナンバーカード

そういえば、甘利さんがこんな歌うたってましたね。幹事長辞めちゃいましたけど......

話を戻して「マイナポイント」について。給付金案によると「マイナンバーカードの作成」「健康保険証との一体化手続き」「預金口座との紐付け」に対して段階的にポイントが付与される仕組みになる予定だそうです。2021年10月時点でのマイナンバー普及率は30%強。政府としてはマイナンバーが社会保障制度の設計をよりレベルの高いものにするためにどうしても必要な要素だと位置づけておりさらなる普及が期待されています。

僕自身も数年前にカードを発行しましたし、行政手続きの簡略化や税の取りっぱぐれを減らすために有効な手段だと思い制度自体は推進すべきだと考えています。

ですが、今回の給付金案にマイナンバーを持ってきたのは正直良い手だとは言えないなと思っています。というか若干不運な部分もあるのですが、マイナンバーに関するニュースが重なりすぎた。

・給付金をマイナポイントで段階的に支給
・マイナンバー保険証運用開始
・PayPayでの公的認証対応が可能に

こうした「マイナンバー」に関する見出しが飛び交いすぎて、どれがどの件の話なのか分からなくなる人も多いはずです。人は説明がないものからは無意識に遠ざかります。そして「何となく分からない」「何となく怖い」「何となく嫌だ」が人々の中に積み重なることは普及率アップに大きな妨げになってしまいます。なので、政府がこのタイミングで、適切な情報流れの交通整理なしに給付金マイナポイント案をぶち込んで来たのは良くないなと思ったのです。

さらに言うならば、マイナンバーに関しては初めから懸念を持つ人が一定数おり、加えて政治的なスタンスからネガティブな意見を持っている人も一定数います。正しく進めるには丁寧慎重な議論をもとにした信頼と合意づくりが欠かせません。

にもかかわらず、今回マイナンバーカードの利用を給付金の条件に置いてしまったことにより「お金で買った」と捉える人が出てしまっても不思議ではありません。

それ、お金で買って良かったんでしたっけ?

90年代のスイスでは核廃棄物の最終処理場を決める議論が行われていました。その候補地として山間の小さな村が選ばれました。建設の可否と問うため経済学者による事前調査としてアンケートが実施されました。すると、51%の人が施設建設を受け入れると答えたのです。経済学者は1つの前提を加え、再度アンケートを行いました。「国が住民に対して、多額の補償金を支払う」という前提です。2度目のアンケート結果はどうなったでしょうか。多くのお金をもらえるんだから受け入れる人は増えるんじゃね?と思う人が多いでしょうが、予想に反して、賛成派は25%まで減少してしまいました。

この結果は何を意味しているのでしょうか。1度目のアンケートで半数の住民が賛成したのは「公共心」からであり、それは「責任や犠牲の共有」です。核廃棄物の処理は国全体の責任であり、誰かが負担しなければならず、原子力に頼ってきた見返りとして受け入れる余地を示していたのです。しかし、2度目のアンケートで提示された前提は、その善意をお金で買おうとするものだったので、住民たちにとっては補償金は「賄賂」であり「賛成票を買っている」ように見えたのでした。

このストーリーはマイケル・サンデル氏の著書『それをお金で買いますか―市場主義の限界。』で紹介されている比較的有名な例なのでご存知の方もおられたかもしれません。僕は、今回のマイナンバーの件もこのスイスの例から学べることがたくさんあると思っています。

マイナンバーをより多くの国民が作り社会保障や税制度、行政手続きが効率化されることは僕たち国民にとって大きなメリットがあります。そのためであれば僕は個人の番号を発行し保険証との一体化や預金口座との紐付けも喜んで手続きをします。これは公共心です。また感覚的に「政府によって情報が管理されるのが怖い」「カードを盗まれたら情報が悪用されるんじゃないの」といったセキュリティに関する不安が一定数あることも事実です、それも認識した上で制度に参加しているのは「責任や犠牲の共有」が大事だと思っているからです。

今回政府がマイナンバーを給付金支給の条件として据えたことは、悪い言葉で言えば「賄賂」であり、当初多くの人が持ち合わせていた「公共心」を傷つけてしまう結果になってしまうかもしれません。本来多くのことにおいて大切なのはプロセスへの納得や共感であり、マイナンバーの普及は、あくまでも政治や政府への信頼がコツコツと積み重なった結果であってほしいなと心から願っています。

とはいえ一度決まったのであればポイントを貰うことにためらう必要はありませんし、子育て世代への給付金なども困窮している方にはしっかり届いて少しでもプラスの方向に働いてくれれば良いですね。

今回の件は僕にとって「お金で買わないものって他にもあるかな?」と考えるきっかけになりました。みなさんがどうしてもお金で買いたくないものは何ですか?

Asuka Hara
Web Design/#Figma/#Craft/#PHP/#英語学習/クローン病/元Store//デザイン,社会課題,テック系,海外ニュース等について書くことが多いです/対立よりも解決を/社会課題解決のためにどうしても作りたいアプリがあるので日々勉強してます。