伐採賛歌/塵殺賛歌

「んで、この木を切り倒しちまいたいと」

「おうよ、植えてから何年たっても実をつけやがらねぇ!それどころか周りの木まで枯らしやがったんだ!」

 今時、電話でもメールでもなく手紙で上京した俺に送ってきてただ一言、「帰ってこい」とデカデカと達筆に書いた親父。そんな親父が俺をわざわざ帰らせたのは、親父曰く、”魔性の木”を切るためだとか。

 実家の一角、庭の端の方に確かにそいつはあった。と言っても…

「今時魔性ねぇ…ただの木だろ…何植えたの?広葉樹っぽいけど」

「胡桃の木だ。3年前にホームセンターで何か苗を買おうと思ったら、道端でいい苗を売ってたから、それを買った」

「本当に胡桃の木かよ…」

 親父は、俺の言葉も聞かずに、俺にノミとハンマーを渡すと、俺に自分が持っていた電動ドリルを見せつけた。

「とにかく、お前ノミで少しずつでもいいから傷つけてくれ。ドリルじゃ太刀打ちできないんだわ!」

「はぁ…わかったよ」

 俺はとりあえず軽めに何度かノミの尻を叩いてみたが、まるで合金でも叩いてるかのように、まるで傷がつかねぇ。本当に木か?コレ。

「親父!悪ぃ!嘘ついてるとか疑ってたこと謝るわ!もう消防に連絡して燃や」

 燃やそう、そう提案しながら、ハンマーを振るった瞬間―――

『ばぐン』

「は?」

―――そんな、不可解な音を立てながらハンマーが、木に埋まった。

 だが、俺は埋まったんじゃないと理解した。喰われたんだ。木に。

「お、親父!ハンマーが!」

 そう言ってる間にもハンマーは柄まで飲み込まれ、俺の手から離れた。

『ブッ!』

 何かを吐き出したような音がした後、水っぽい粉砕音、そして木の後ろに立っていた親父の首から下が、倒れた。

「お、親父!親父ィ!」

 親父の亡骸に駆け寄る俺の頭上、風もないのに木が揺れる。カサカサと、俺にはそれが、俺を嘲笑っているように聞こえた。


   三日後、通夜の場にて

「お前が徳田さんを殺ったんか?」

【続く】