ラストダンスの機会を寄越せ 女神が語るは闇の始まり・世界の意思
よく来てくれましたね勇者よ。
前回は居ることができず申し訳ありません。
他の世界を管理している神から会う約束を取り付けられていまして、貴方が兜を受け取りに来た時には、居ることができなかったのです。
話の続きを?
わかりました。
魔物が初めて現れた時のことでしたね。
あれは、この世界を管理し始めてから、千年ほどだった頃でした。
突然、どこからかスライムが現れたんです。
ええ、スライムが。
ですが、今あなたが思い浮かべたような、少し訓練すれば子供でも倒せるような、そんな可愛らしいものではありませんでした。
少し触れれば生き物の肉を骨ごと一瞬で溶かし、大地を腐らせ、毒の瘴気をばらまく。
そこまで凶悪だったんです。
そこからどんどん、魔物が現れ、人々を虐殺し始めました。
私は困惑しました。
他の世界では、人々の試練を与えるために魔物を生み出す神もいれば、人々を苦しめることに愉しみを見出す神もいます。
ですが、私はそんな存在を生み出した覚えはないのです。
対策も施しました。
人々に力を、魔法を、武器を与えました。
ですがそれに比例するように、魔物も更に凶悪な力をつけ始めたのです。
私は他の神に相談しました。
ですが、答えは出ませんでした。
多くの世界を管理する神に相談しても、私にこの世界を与えた神に聞いても、これは大昔に滅んだ神が管理していた世界としか、答えがなかったのです。
そのかつて管理していた神が、何かを仕組んでいたというわけでもありませんでした。
その神が他に管理していた世界には、同じようなことは起きていなかったのです。
この世界が特殊だった。
だから私にはそれが、この「世界」が昔の死の世界へと戻ろうとしているように
かつての虚無の世界へと。
ですから、私はこの世界を他の世界と同じようにしたのです。
人々に欲望を、悪意を、絶望を、憎悪を、悲しみを、狂気を、病を、悪を与えました。
光に溢れただけではない世界へと、かつての世界に少しだけ近づけたのです。
すると、魔物の力が弱まった、今の魔物へとなったのです。
そしてまた人々は少しずつ繁栄し始めました。
その間に私は他の神々と話をし、対策を考えたのです。
ですが、何も出なかったのです。
唯一、この世界を消し、もう一度一から作り直すという案がありました。
でも、私にはそれができなかった。
この世界に、必死に生きる人々に、愛情が、愛着が、沸いたのです。
だから、この世界を消せなかった。
そして、今度は魔族が生まれたのです。
魔族は、この世界を生きる人々へのカウンターのような存在だった。
エルフのように長命で魔法の扱いに長け、ドワーフのように力が強く、獣人のように素早く、人間のように力を合わせ、繁殖する力を持ち合わせていたのです。
そして、何よりも、賢かったのです。
人々が千年かけて生み出した技術を五百年で越え、発展していった。
そして、魔王が生まれたのです。
…この話の続きはまたいずれ、しましょう。
勇者よ、どうか世界に平和を…