ゴミのような死を積み重ね、それでもお前に届かない

『えっと。君は誰なんだい?』

そうして俺は知ったんだ。

俺が追いかけていた幼馴染は、もうどこにもいないんだって。


「…おい」

馬車に揺られながら微睡む男に、御者が声をかける。

男はまだ若く、旅人のような出で立ちだが、目を凝らしてみれば時折、馬車のランタンに照らされた両の腕を黒い線のような光が駆け巡る。

それだけで男が只の旅人ではないと証明しているようだ。

「『火口ほくち』に着いた。準備をしろ」

男の鼻は風に乗って料理の臭いが漂っていることに気づく。

立ち上がり、体をほぐしながら馬車を飛び降りた男は、降り立った街道の向こうの村を見た。

数百人ぽっちの農村。

これから男が滅ぼす村。

「10分でケリつけてくる。ガキ逃げねぇか見張り何人か立ててろ」

男は手荷物とランタンを手に取って街道を歩み出した。


月のない夜、村の明かりと男のランタンの明かりしかない夜。

こんな人目の付かない夜だからこそ、悪事が起こるのだろうかと男は益体もなく考えながら街道を行く。

すると、村の入り口から男の顔面に狭められた明かりが向けられた。

「止まれ。見ない顔だな、お前」

巌のような老爺が、男の前に現れる。

恐らく村の人間であると男は辺りを付け、人懐っこい笑みを浮かべて老爺に話しかけた。

「すいません!旅の者なんですが、宿か何かは」

そう言いながらも男は前に歩き続ける。

「あるわけねえだろ。回れ右だ。さっさと」

老爺が何かを言い切る前に、男は滑るように影の前に踊り出し、掌を老爺の胸に押し当てた。

カシュッと音がすると、男は掌を離し数歩、老爺から離れ変化を待つ。

「ゴッ、オゴッ」

一分、老爺はグズグズの肉塊となり、ウゾウゾと村へ這って進みだした。

「さあ、始まりだ。死んでくれよ魔王軍ぎせいしゃ諸君」

男は村に入ると、肉塊が入らなかった家の中へと飛び込んだ。

「誰だ!」

若い夫婦が、テーブルを挟んで食事をしていた。

さて、どちらを手駒にしてやるか。

【続く】