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いま、社会に必要とされるメディアとは

はじめに

 ジャーナリストになりたい。これは大学2回生の時に私が持った夢です。ジャーナリストの津田大介さん、伊藤詩織さん、東京新聞の望月衣塑子さん、沖縄タイムスの阿部岳さんにお話を伺う中で、社会の中で見過ごされていることを発見して伝える仕事がかっこいいと心の底から思いました。特に私は、人や地域と密着して関われる新聞記者という仕事にどんどん惹かれていきました。
 だけど、マスコミを「マスゴミ」と言い、インターネットに真実があると主張する人も少なからずいます。そんなことないと思いつつ、5月には黒川検事長と新聞記者が賭け麻雀をしていたという報道があり、権力との癒着が指摘されました。また9月には沖縄タイムスの社員が給付金を不正受給するという、メディアとしての信頼を失いかねない事件もありました。
 それでも私はメディア側の人間になりたい。間違っていることを間違っていると伝えられる人になりたい。その土台として、市民に信頼されるメディアを作りたい。
 情報が溢れる現代において、社会に必要とされるメディアとは何なのか。このnoteでは3つの仮説を立てながら、この問いを考えていきます。
 

仮説1. 取材力のあるインターネットメディア


 マスコミとインターネットを比べたとき、デマやフェイクが多いのは明らかにネットの方です。ではなぜマスコミは「マスゴミ」と叩かれるのでしょうか。津田大介さんの著書『ゴミ情報の海から宝石を見つけ出す』にはこう記されています。

 なぜマスコミが「マスゴミ」と揶揄されるのか。正確な情報を報道する一方で、「報道しない」情報もあるからです。それは広告主への配慮からかもしれないし、宗教がらみのややこしい問題を避けるためかもしれない。とにかく、ある種の「タブー」もしくは過剰な配慮による「自主規制」は確実にある。
 ところがネットには、そうしたしがらみがない。あったとしても、マスコミにくらべればはるかに少ない。情報の真偽はさておき、マスコミが扱いにくい問題をどんどん取り上げることはできる。この点だけを見て「ネットには真実がある」と思い込んでしまう人が出てくるのでしょう。

 広告収入からなるマスメディアは、広告主にとって不利益なことを言いにくいのが実情です。そのぶんインターネットは広告主への配慮が必要ないため、より自由に報道できるでしょう。
 津田さんがこの本を書いたのが2014年。以降ネットメディアも発展を遂げてきました。例えばインターネットメディアのBuzz Feed JapanやNewspicksの記者の多くは元新聞記者です。新聞社で取材力を身につけた人たちと言えるでしょう。しかし記者を育て上げる力はまだ持っていないようです。
 取材力と一言で言いましたが、取材網やネットワーク力を持っているのと同時に、取材から執筆、そして記事が出るまでにより多くの人の目を通るのが新聞です。つまり1つの記事が出てくるまでにあるフィルターの枚数が多くあります。だから、より客観的で正確な記事が生まれてきます。
 整理すると、マスメディアには取材力はあるが報道できないことも多い。対してインターネットメディアはマスメディアから流れてきた人材を得て取材力を身につけていっている段階で、マスメディアよりタブーが少ない、というところでしょう。そしてよりタブーが少ないインターネットに「真実がある」と感じる人が多いということは、より報道の幅が広いメディアが求められているということでしょう。つまり、取材力をつけたインターネットメディアが必要なのです。

仮説2. 市民スポンサー型メディア

 仮説1で述べた通り、マスコミは広告収入で成り立っています。特に民放のテレビは視聴者からお金を取らずに広告収入に頼っているので、高視聴率を狙う姿勢が他のメディアよりも顕著でしょう。例えばニュースの時間にSNSで流行ったかわいい動物の動画を見たことはありませんか?あれはまさに視聴率を狙った仕掛けです。
 しかしそれで報道の使命の1つである〈権力の監視〉が果たせるのでしょうか。政治のネタは視聴率が取れないから放送するのをやめろ、となるのではないでしょうか。マスメディアは国民の知る権利に応える機関で、民主主義の根本を支える機関です。決して広告主だけのために番組を作ってはいけません。視聴率を度外視して市民のために必要な番組を作るメディアが理想的と言えるでしょう。
 そうは言っても、お金をくれる人の悪い面を報じるというのはなかなか難しいもの。となると一番信頼できるのは、市民が出資したお金で運営するメディアでしょう。メディアは視聴者からお金を受け取り、その視聴者のために報道する。つまり、市民スポンサー型の自立型メディアです。

仮説3. 今問題とすべき課題を市民が討論するメディア


 「アジェンダセッティング機能」という言葉を聞いたことがありますか?これはメディア学の用語で、マスメディアが持っている「一般市民や政治家が注目する議題を設定する機能」のことを指します。わかりやすく言うと、「昨日の相席食堂見た?」「見たよ!島田珠代がマジでおもろかったわ!」のようなやりとりを生み出す機能だということです。
 TBSの元社会部記者で『報道特集』などのディレクターを務めた佐治洋さんは、あるネット番組で「起きたことを報じるニュース報道も大切だけど、『今こういうことが問題だよね』ということをメディア側が報道するアジェンダセッティングの機能をテレビが果たせていない」と言及しています。検察庁法改正案を例に見てみましょう。
 2020年5月に検察庁法改正案が提出されました。その後「#検察庁法改正案に抗議します」のTwitterデモが起こり、数日後に黒川検事長の賭け麻雀報道が出て、検察庁法改正案は撤回されました。このTwitterデモは市民によるアジェンダセッティングと言えるでしょう。しかしこの5月よりも前、同年1月に黒川検事長の定年延長がなされていました。検事長の定年が延長されるというのは異例のことで、そこに「総理のご意向」が含まれているのではないか、という重大なニュースでした。その1月の段階でメディアがもっと報じていたり、議論の場を設けていたらその後の展開が変わっていたのではないか、と佐治さんは話しています。
 そしてメディアが設定した議題を、一般市民が話し合う討論番組が必要なのではないかと思います。1つのニュースを見ても、それが自分たちの生活にどう影響するかを瞬時に予測するのは難しいことです。コメンテーターの意見は参考になりますが、より多くの専門家以外の人も含めた場での議論を見ることができると、視聴者の理解が深まって自分の考えも耕されるでしょう。

検証. Choose Life Project

 2016年の参議院選の投票率を上げるために立ち上がった人たちがいました。テレビの報道番組や映画、ドキュメンタリーを制作している有志で結成されたChoose Life Project(以下、CLP)です。先ほど仮説3で出てきた佐治洋さんが代表をしています。
 CLPは①自由な言論空間の構築②メディアを繋ぐメディア③市民スポンサー型メディアの3つの理念を掲げ、毎週話題のニュースをゲストとともに討論する番組を作ったり、国会答弁のハイライトを2分程度のまとめたり、有識者や国会議員にインタビューを行ったりと、精力的に活動しています。
 そのCLPは2020年7月から9月にかけてクラウドファンディングを行いました。「自由で公正な社会のために新しいメディアを作りたい」と題して行われたクラファンでは、4314人が支援して目標金額の800万円を大幅に上回る約3147万円が集まりました。
 このCLPは元報道記者や映画・ドキュメンタリー制作者という報道のポイントを知っている人たちが作っており、「取材力」がある人たちだと言えるでしょう。またCLPは映像で伝えることを目的にしており、番組をYoutubeで配信することから「インターネットメディア」と言えます。(仮説1)
 また番組は全て無料で見ることができますが、広告は一切ありません。クラファンやYoutubeの投げ銭で視聴者が支援し、そのお金で番組を作る。市民がスポンサーになることで、市民のための報道を実践することができます。(仮説2)
 CLPのメインプログラムは、社会でいま話題となっているトピックについて、有識者をゲストに迎えて討論するChooseTVです。例えば5月に「#揺れる検察庁法改正案」というシリーズで計10回行われた討論番組では、立憲民主党の枝野代表や国民民主党の玉木代表、共産党の志位委員長や社民党の福島代表、維新の会の足立議員などの国会議員が討論したり、弁護士の亀石倫子さんや俳優の古舘寛治さん、ミュージシャンの浜野謙太さんらも討論に加わりました。このように話題にするべきアジェンダを設定し、国会議員だけでなく多分野の人を交えた討論番組は、視聴者に様々な考え方をもたらします。(仮説3)また視聴者が生配信中にコメントをすることができるのも、Youtubeならではでしょう。
 このように、私が挙げた3つの仮説全てに当てはまるCLP。津田大介さんや安田菜津紀さん、望月衣塑子さんら影響力のあるジャーナリストをはじめ、小島慶子さんや内田樹さん、白石和彌さんなどというジャーナリスト以外の有識者からも支持を集め、何よりもクラウドファンディングによって4314人に支持されているということが、CLPが「社会から必要とされているメディア」であることを物語っています。

今後の展望

 CLPがいま社会に必要とされているメディアであることは検証できましたが、その理由はおそらく上にあげた3つだけではありません。例えばChooseTVの登壇者は基本的には男女比が同じになるようにキャスティングされています。それが女性からの支持を集める理由になっています。
 他にもCLPの持つ要素を分析して仮説を立て、他のメディアでの検証を行っていきたいなと考えています。
 さらに政策ネタのニュースが読まれにくいという課題もあります。そのため視聴率を集めたりページビューを稼いだりするのが重要になるテレビやインターネットニュースでは政策ネタを取り上げにくいのが現状です。政策ネタが取り上げられなくなると、いよいよ権力の監視というのメディアの役割がなくなってしまいます。政策ネタが関心を持たれるようなメディア側の工夫が必要です。
 一方では「社会(で暮らす人々)に必要とされるメディア」の分析・検証を、もう一方では「(民主主義)社会(を守るため)に必要とされるメディア」の考察を深めていきます。

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2000年生まれ、福岡出身。同志社大学社会学部教育文化学科3回生。クリームソーダと海が好きです。メディアとか言語とか教育とか。
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