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プロトタイプ〜仕様の変遷

プロトタイプ
フローティング・トレモロのアイディアはストラトキャスター開発時のシンクロナイズド・トレモロの対案として存在したといいます。ストラトキャスターは販売直前まで別のトレモロが搭載されることになっていましたが、サスティンが無くなってしまうという課題を克服できず、直前で全く違うトレモロをゼロから設計し直したということです。ストラトキャスターに採用されたのはシンクロナイズド・トレモロでしたが、この際にお蔵入りしたアイディアの一部がフローティング・トレモロに生かされているという説があるのです。

‘54にストラトキャスターを発表した後、’57の秋頃には既にいくつかのジャズマスターのプロトタイプと試作品が存在したことが分かっています。多くはそれまでのフェンダーギター同様のワンピースのメイプルネックでしたが、いくつかのモデルには黒いピックアップカバー、黒く塗られたアルミ・ピックガードにテレキャスタースタイルのノブを持ち、ローズウッド指板のネックが採用されています。'59年のカタログには「Fender」ロゴの無いテールピースと1プライの白ピックガードのジャズマスターが掲載されています。

プロトタイプには3段階あると考えられています。

1.オフセット・ボディー・デザイン・フェーズ
ストラトのトレモロとピックアップを持つモデルで、7ポールピース・ピックアップも試されました。ここでレオ・フェンダーは後にプレベやジャズベで採用する、ポールピースの間を弦が通るスタイルを実験しています。

このギターに似たデザインはフェンダーのパテントでも見ることができます。

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Fig 1 オフセットコンターボディのパテント

1957 Fender Factory Tour
3:50からの動画にプロトタイプのジャズマスターが写っています。7ポールピースのピックアップ以外の特徴としては、メインコントロールがボディ上部にあること。ストラト・スタイルの舟形ジャックが採用されていることでしょう。シンクロナイズド・トレモロによく似たブリッジがインストールされているように見えます。

2.ピックアップ、リズムサーキット、テールピース&ブリッジ・デザイン・フェーズ

このフェーズではストラトネックのモデルが確認されています。

フローティングトレモロのパテントは58年11月に申請されました。申請中の期間はプレートに「PAT.PEND」、正式にパテントが受理された’61以降は順次パテントナンバー入りのプレートに変更されます。

このパテントに描かれたギターはオフセットコンターのパテントのギターに似ていますが、既にジャズマスターのプロトタイプが存在している時期でもあり、トレモロの配置を図示するための参考と思われます。フロントピックアップは6本のポールピースになっています。また、2枚目の図にもジャズマスタースタイルのピックアップが図示されています。

2枚目の写真では弦の太さに合わせた複数種類の溝を持つブリッジサドル、ブリッジの高さ調節ネジとサドルの高さ調節ネジは丸先のものが採用されていることが分かります。また、アンカーのヘッド部分の高さが高かったことも分かります。これらはそのまま60年代初期までのジャズマスターの仕様と一致します。


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Fig 2 フローティングトレモロのパテント1

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Fig 3 フローティングトレモロのパテント2

3.ネック・デザイン・フェーズ
レオ・フェンダーはここで初めてジャズマスターにローズウッド指板とジャズマスターシェイプのヘッドストックを採用しています。このモデルはメイプルネック同様のスカンクストライプを持つスラブ指板のモデルでした。

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仕様の変遷
ジャズマスターのアイディアは1956の初旬から始まり、1957までにほぼ完成、ネックのみ1958になるまで完成しなかったのではないかと推測されています。
研究開発にこれだけの期間を掛けるのは非常に珍しいことですが、ミュージックマスター・ファミリー、マンドリン、プレベのリデザイン等でレオ・フェンダーがとても忙しかったこと、ストラトがヒットして新製品を発表する必要があまりなかったこと等が影響していると考えられます。
ジャズマスターは'58年の8月に注文を受けていますが、その年の終わりまで製造開始されませんでした。

'59年の半ばにセルロイドベースのべっこう柄ピックガードのモデルが登場しました。またカスタムカラーにはホワイト・ピックガードが用意され、これらの裏にはアルミのシールド・プレートが用意されました。

'61の終わりから'62の初期にかけて、ジャガーの仕様に合わせたマイナーチェンジが行われています。
ブリッジアンカーの形状がジャガーとベースVIのミュート機能に合わせて変更され頭の部分が低くなりました。テールピースのスプリングは少し弱くなっています。ブリッジサドルは3種類ありましたが、一番細いピッチのものが無くなって2種類に変更となっています。ただしこれ以前のもので2種類のサドルのものがあったり、これ以降のもので3種類のものがあったりと、この変更は緩やかなものだったようです。

ジャズマスターのアースはブリッジアンカーとピックガードのシールドプレートをギターの弦で繋いだ簡易なものでしたが、ジャガー発表に合わせてクロスワイヤーでコントロール部とテールピースを繋ぐ形に変更されました。

参考:The intricacies of the Fender Jazzmaster
(http://jimshine.com/jazzmaster/intricacies_of_the_fender_jazzma.htm)

ボディー厚
'58後半の初回出荷時はテレキャスターやストラトキャスターと同じ1-3/4インチ(44.45mm)厚のボディーでしたが、'59の半ばに少し薄めに変更されています。手元の'62サンバーストのジャズマスターは42.3mm、'63ジャガー(refinished)は42.5mm。テレ等と比較すると約2mm程薄くなっています。この仕様変更はボディーの軽量化を狙ったものと言われています。尚、64年に発表されるムスタングでは1-1/2インチ(38.1mm)厚のボディーが採用されています。

ボディールーティング
初期のアノダイズド・ピックガードおよびべっこう柄のピックガードは9点止めでしたが、その後11点止めとなり、すぐに13点止めとなります。これに合わせてボディーのルーティングも変化しており、初期では直線的だったコントロール部分が、ネジ止めのための複雑な形状に変更されています。

ピックアップ
ピックアップは当初ほとんど面取りのされていないシリンダー型のポールピースが採用され、他のモデル同様、ボビン組み立て時の効率化のために徐々にマグネットのエッジ部分が面取りされるようになります。詳細は別ページにて解説します。

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