あなたがZWIFTで戦っているのは「フックの法則」である

遅ればせながらZWIFT環境を整えて雨の日など乗っています。映像がものすごくリアルです。どれくらいリアルかと言うと、4本ローラー(まあ、3本ローラーと同じ)に乗ってワインディングロードを走っていると、下りコーナーで飛び出しそうな気がして怖いくらいです(バイクも実際ふらついたりする)。

しかし、どうにもこうにものめり込めないものがあります。仮想空間での他の人との競争です。最近はプロもレースがないので仮想レースをやったりしているらしい。レースにのめり込んでいるホビーレーサーの中には勝った負けたと一喜一憂したり、他のライダーを「あいつはチートだ(何かずるしてる)」と非難したり、それが嫌で走るのを止めたりしている人もいると聞きます。不幸なことです。

なぜ、自分が「のめりこめないか」、つらつら考えてみると、結局以下に書くようなことが引っかかっているのだと思います。普通の人はあんまり気にしないのかもしれません。

そもそも、ZWIFTのような仮想空間内で「走っている」というのは何を元にしているのでしょう?それはあなたの部屋からZWIFTのサーバーに何が送られているかを考えればわかります。

 パワー値(の時間変化)入力した体重

です。他の情報(性別とか年齢とか)もあるけどここでは重要ではない。以下、体重は常に正しいとしましょう(スマート体重計でリアルタイムで情報更新とかしない限りは毎日データを変えたりしないだろうけど無視する)。

そうすると、結局ZWIFTのサーバー側で処理されているのはパワー値です。パワー値はあなたが使っているパワー計(スマートローラー内蔵だったり、バイクについていたり)の計測値です。

パワーとは単位時間あたりの仕事量(エネルギー)ですじゃあ、パワーメータはどうやって**Wとか出しているのでしょう? いろいろな方式はあっても、パワーメータは、パワーを直接測ったりはしていません。

前に書いたことのおさらいですが、パワーは、

パワー [W]  =  トルク [N m] x  ケイデンス [/s]

です([ ]の中身は単位の一例です)。トルクは、

トルク [N m ]  =   力 [N]  x   回転の中心から力のかかるところまでの距離 [m]

で、距離はたとえばクランクの長さのように決まっているので、結局「力」を測ればよいわけです。しかし、「力」を直接測るのは難しいので、ここで「フックの法則」の登場です。中学か高校の理科で習うやつです。知らない人は、これとか見てみましょう(手抜き)。

Wikipediaにはこういう図が載ってます。

スクリーンショット 2020-05-14 8.51.35

この図は横軸に「応力」縦軸に「歪み」を書いている(青い曲線と赤い曲線の違いはここでは無視して良い)。

フックの法則は最初の直線部分です。つまり、応力(物体にかけた力)と物体が歪む量が比例する、ということです。この比例関係はいつまでも続くわけではなく力をかけ続けると、図の2の地点でフックの法則が成り立たなくなり、やがて、3の地点で物体が破壊されます。

とりあえず、フックの法則が成り立つとします。そうすると、下の図から他縦軸の「ゆがみの量」を測ると、横軸の「力の大きさ」が得られることがわかります。パワー計は「ゆがみの量」を正確に測っているわけです。これは、バネに大きな力を加えるとよりたくさん伸びる、というのと原理は同じです。例えばペダルを大きな力で踏みつけると、クランクがたくさん歪むし、小さい力で踏めば少ししか歪まない、というわけです。

スクリーンショット 2020-05-14 9.31.14

これだけだと話は簡単なんですが、問題はここからです。

ある物質Aで、フックの法則が成り立っている(つまり、グラフで直線になる)としても、その傾きや原点(ゼロ点)からのズレは、いつも同じとは限りません。例えば、物質の温度が変わると、傾きは上の図のように物質Aと物質Bのように変わり、同じ歪みの量でも力の大きさは変わります。

簡単には、温度が低ければ物体は固くなり、同じ力でも歪みの量は小さくなります(つまり、グラフの傾きが小さくなる)。温度が上がれば逆です。

スクリーンショット 2020-05-14 9.31.22

大抵のパワー計には、「校正(較正、キャリブレーション)」という機能があり、自動だったり、メータやスマホのアプリから手動で変えたりできます。あれは何をやっているかというと(詳細はメーカーじゃないとわかりませんが)、

上のグラフをメーカーが想定しているグラフに合わせる

ということです。そのときに、気温だったり、クランクが下死点(あるいは上死点)にあるとかいう情報を使います。下の図で言えば、赤やピンクの線を緑の直線になるように修正する、ということです。

 追記:実際にはほとんどのパワーメータで、ユーザができる校正はグラフの傾きを変えずに0点を通るようにする(つまり平行移動)というご指摘がありました。

スクリーンショット 2020-05-14 9.47.48

私は走るときには必ずこの「校正」を毎回必ずやります。室内にあったバイクを外に出すと気温に馴染むまでにしばらくかかるので、ちょっと走ってから校正したりします。パイオニアのメータの例ですが、これが結構ずれます。だいたい、プラスマイナス1Nから、大きいときは5-6Nです。

下はある日のペダリンググラフですが、大きいところで200 [N]くらいの値になっているのがわかります。つまり、校正によって変わるのは、力の最大値に対して 0.5- 3%くらいです。

スクリーンショット 2020-05-14 10.02.20

力がそれくらい変わるということは、パワーメータが出す数値のワットも、数%変わるわけです。例えば、 300 Wで踏んでいるときには、校正をしないと 10-20 Wくらい「正しい値」からずれている可能性があります。

練習を朝からスタートとして、何時間も走っていると気温も大きく変わります。パワーメータにはその気温の変化を上のフックの法則グラフに反映させて、「正しい値」を出そうとしてくれます。しかし、やってみるとわかりますが、朝校正して、昼くらいにもう一度校正すると、また数Nずれているときがあります。例えば1時間おきに校正するなんて面倒なことはやってられないので、パワーメータが出す数値には最低でも常に数%の変動がある、と思ってよいでしょう(メーカーの仕様にも誤差2%とか書いてあります)。

しかし、この変動がある、というのが曲者で、真に正しい値の周りに数%の誤差で分布している、というわけではないのが難しいところです。

追記)スマートトレーナー等では、力学的にエネルギーを測るのでなく、電磁気的に測るものもあるので、その場合は「あなたがZWIFTで戦っているのは「マクスウェル方程式」である」と読み替えてください(パワー値に誤差がつきものというところは同じです)

(長くなったので続く)

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