残せたらいいのに

 三角食べについては、これまでに何度か書いたような気もするけれど、もしかすると書いていなかったかもしれない。ともかく、少なくとも僕と食事をしたことのある人はたいてい気づくことなので、書いたかどうかはこの際どっちでもいい。
 僕は三角食べができない。
 三角食べが何かわからない人もいるだろうから簡単に説明すると、これは食事のときにテーブルの上に並んでいるおかずやら主食やら汁物やらを交互に食べるやり方で、おかず1を少し食べて主食を食べて、こんどは汁物を少し飲んで、おかず2に箸を伸ばして、また主食を少し食べて、といった具合に展開する食事手法のことである。知ってるよね。
 これが僕にはできない。もうぜんぜんできない。ときどきがんばってみるのだけれども、気を抜くとできない。
 おかず1を食べて、おかず1を食べて、おかず1を食べて、おかず1の皿が空いたら、おかず2に移動する。おかず2をぜんぶ攻略して皿が空いたら汁物に行く。汁物を飲み干したら主食に手をつける。こんなふうに、僕は一箇所ずつ撃破するやりかたで食事をとる。
 丼物は上の具だけをまず食べる。そばやうどんも、上物をまず食べてから麺に挑む。なので、いろいろな具材が混然としている食べ物を前にすると困惑する。固まる。どう食べていいのかわからないのだ。お好み焼きなどパニックになるほかない。
 そういえば、いつだったか若者たちと一緒に焼肉を食べに行ったことがあって、次々に肉だの野菜だのが運ばれる中、僕の前にキムチの皿がひょいと置かれた。置かれたから、とりあえずキムチに箸を伸ばした。もちろん一度キムチに箸を伸ばしたら最後、その皿が空になるまで僕はキムチを食べるしかない。そうしてずっとキムチを食べ続けてようやく皿を空にしたところで、気を利かせた若者が「ああ、鴨さんって、キムチがすごく好きなんですね!」とキムチを追加で発注してくれたから、またしてもキムチの小皿が空になるまで僕はキムチを食べ続けることになった。
 とにかくそれくらい三角食べができないのであります。目の前にある皿を一つずつ順番に片づけないと、どうにも気が済まないのであります。
 そんな僕にとって、ビュッフェ形式のランチはありがたい。とくに六つやら八つやらの窪みのついたプレートだと尚更ありがたい。きっちり切り分けられた区画に載ったおかずを端から一つずつ制覇していけばいいのだから、迷うことがない。とてもありがたい。それでも、おかずを載せる位置をまちがえてしまうと、端から順に窪みを空にしているうちにお腹がいっぱいになって、好きなおかずにたどり着けないまま終わることもある。だからといって、食べかけの窪みを空にせずに隣の窪みへ進むわけにはいかないのだ。
 日ごろの生活や仕事でも僕は三角食べができない。複数の仕事を少しずつ同時に進めることができないのだ。いろいろなことを同時にやっているように思われがちなのだけれども、ぜんぜん違う。僕はまったく同時にはできていない。いくつものことがらを少しずつ進行させることができなくて、いま目の前にあるものをまず片づけてしまわないと次のことができないのだ。
 時間や手間をとられる大きな仕事に取り掛かろうとしているときに、小さな案件が飛び込んで来ると、僕はまずそれに気を取られてしまう。その小さな案件を片づけ終わるまでは先へ進めない。やっと片づけて、やるべき大きな仕事に向かおうとすると、また小さな案件が飛び込んでくる。メールへの返信だとか、ハンコを押すだとか、そういった小さな案件だ。
 本当ならそんなものは後回しにして、さっさと大きな仕事に取り掛かってしまえばいいのに、小さな案件が片づいていないことが気になってしまうと、もう無理だ。大きな仕事の前に小さな案件をすべて終わらせたくなってしまう。ところが、小さな案件というのは途切れない。いつまでも発生し続ける。そして僕は発生した案件を置いては進めない。こうして僕はなかなか大きな仕事にとりかかれず、困ることになる。

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