見出し画像

ノルウェーの保育園事情〜その1〜

インタビューシリーズ!第1弾

私のノルウェーでの1番最初の友達、Sちゃんが昨年秋からノルウェーの保育園で働いているので、保育園がどんな感じなのか聞いてみたくて、インタビューを通して共同で記事をつくることにしました。

Sちゃんとは普段からノルウェーや日本の社会のこと、自分たちが感じていることなど、話題尽きることなくいつまでも話してしまう間柄。直感でベルゲンに来ることにした私にもやっぱりここにご縁があったんだなぁと、会うたびに感じてしまう友達の一人です。

ノルウェーの子どもたちの様子、保育園や幼児教育について、私自身のフィンランドでの経験も踏まえながら、日本人の私たちから見た今のノルウェーを一緒に綴ります。

第1弾:ノルウェーの保育園、基本情報 ←今回はこちら

第2弾: 保育園の1日

第3弾: 子どもたちの遊びと学び

ーーーーー

ノルウェーの保育園の仕組みってどんな感じ?

あすか
さてさて。ノルウェーの保育園、まずは仕組み的なところから。

S(Sちゃん)
ノルウェーの幼児向けの保育・教育機関は、Barnehage(バルネハーゲ)と呼ばれていて、教育訓練事務局*の管轄だよ。
日本語だと幼稚園というより保育園という呼び方がしっくりくると思ったから、ここでは「保育園」と呼ぶことにするね。
保育園の方がしっくりくると思った理由は2つ。まず、小さな子どもが多くて、おむつ替えやお昼寝など、生活のお世話に充てる時間も多い。そして、親が働いている間に子どもを預かる場所だから、小学校以上の教育機関と比べると、クリスマスやイースターなどの長期休暇も短いよ。

*教育訓練事務局(Udir, Utdanningsdirektorat)
教育研究省(Kunnskapsdepartementet)の下部組織。保育園、初等・中等教育を管轄している。

あすか
なるほど!
ノルウェーの保育園は、何歳から何歳までが対象?0-6歳?
フィンランドは0-5歳で、6歳がプリスクール(小学校準備クラス)だったかな。

S
そうだね、0-6歳が対象だよ。最年長の子どもたちは、保育園によってはアルファベットなどの簡単な勉強があるよ。

あすか
公立と私立の割合はどう?
フィンランドでは学校は全部公立だけど、保育に関しては賄いきれない部分もあるから、私的に開設している園もあった。公立の保育園を退職した方が、個人で保育所をやっているとかね。
ノルウェーでは、例えば森の幼稚園や環境教育、モンテッソーリ教育、シュタイナー教育などを取り入れている園があると聞く。そういう教育するような場所は、やっぱり私立なんだろうか?

S
ノルウェーでは長年、労働党が与党で、教育の機会均等を目指してきたよ。だから、小学校以上の教育機関は、公立が多い。
一方で、保育園に関しては、比較的私立が多いよ。親世代が家の外で働くようになり、保育園不足を解消するために、私立保育園を増やしたんだそう。
2019年の統計*によると、ノルウェー全土の保育園は5730園、そのうち公立は2701園、私立は3029園だって。確かに、特色ある園は私立だと思うよ。私が聞いた限りでは、一日中外にいるタイプの保育園、シュタイナー教育の保育園、キリスト教系の保育園など。

*Statistisk sentralbyrå - Barnehager, ansatte og barn, etter eier og fylke.
https://www.ssb.no/barnehager
(ノルウェー語、英語で読むことができます。)

あすか
わお!いっぱい調べてくれてありがとう!!私立、多いね。
保育園に子どもたちがいる時間は、だいたい何時から何時まで?

S
公立の場合、だいたい7:30-16:30。私立の場合は、公立より多少早め/遅めの送り迎えを受け入れているところもあるよ。平均的には8:00ごろ登園して、15:30ごろ帰る子が多いかな。登園のタイミングが緩やかで、朝ご飯の途中から登園したり、外遊びの途中に保護者が迎えに来ることもあるよ。

あすか
フィンランドでも、朝子どもを起こしたら着替えだけさせて、そのまま7:00-7:30に保育園には送り届けてたなぁ。秋冬なんて、まだ真っ暗よね(苦笑)朝ご飯は園で食べさせるから親にとってすごく楽なんだって。こういう合理的なところ、私は結構好き。

S
確かに、小さな子だと、寝ぼけまなこでやってきて朝食を食べることもあるよ。逆に年上の子は、「朝ご飯はおうちで食べたからパス!」という場合もあるよ。

保育園のクラスは、どんな感じ?

あすか
1クラスはだいたい何人くらい?
そもそもクラスっていう概念はある?日本みたいに”なんとか組“ってのはあるんだろうか?

S
保育園は、組分けされている園と、組に分かれていない園があるよ。
組の名前は、動植物の名前、おとぎ話のキャラクター、地名など楽しい雰囲気。
1つの組は、だいたい15~20人ぐらい。年少組(0-3歳)、年長組(3-6歳)に分かれているよ。
子どもの年齢に応じて、必要なスタッフの人数が決まっているよ。3歳以下の場合は、最低子ども3人に1人のスタッフ、3歳より上の場合は、最低子ども6人に1人のスタッフが必要だよ。*
一つの組に幅広い年齢層の子どもがいるのが特徴かな。

*参考:Udir - Bemanningsnorm og skjerpet pedagognorm – hvordan ligger barnehagene an?
https://www.udir.no/tall-og-forskning/finn-forskning/tema/Statistikknotat-bemanningsnorm-barnehage/
(主にノルウェー語、一部英語でも読むことができます。)

あすか
なるほど!同じクラスにいろんな年齢の子どもがいると、兄弟がいない子にとってもお兄さんお姉さん・弟妹ができるみたいで楽しいね。
考えてみると、日本は同一年齢横並びの仕組みがあるおかげで(せいで?)幼少期から年齢の違いに対する認識が強くなる気がする。英語もノルウェー語も、brothers/sisters, brødre/søstreという感じで、兄弟姉妹という言葉に年上か年下かという区別はないし...日本の「年上を敬う文化」がここにも現れているね。

S
確かに、少なくとも保育園では先輩/後輩文化は感じていないし、先生のこともファーストネームで呼ぶから、人間関係がフラットな気はする。年齢の違う子どもたちがうまく一緒に遊んでいるのを見ると、幅広い年齢の子がいるのはいいことだなあと思うよ。
一方で、日本の園とはまた違う難しさもあると思うよ。例えば、細かいパズルや、ルールの複雑なボードゲームは対象年齢が決まっているんだけど、それでも下の年齢の子たちも一緒に遊びたがる。大人が付き添って何となく一緒に遊ばせたり、場合によっては別の遊びに誘導したりするよ。

休むことも、働く人の権利

あすか
Sちゃんの保育園での立場は?

S
それぞれの保育園でお休みの正規スタッフがいるとき、Vikar(ヴィカール)と呼ばれる代替職員が代わりに働くんだけど、私はそのヴィカールを保育園に派遣する派遣会社に所属しているよ。自分が働ける日を事前に派遣会社のシステムにオンラインで登録して、派遣会社を介して、SMSや電話で仕事の依頼が来るよ。

あすか
正規の先生が休むことなんて、あるんだね。日本では休みづらい雰囲気が強そうだよね。
Sちゃんが感じる、ヴィカールとして働くメリット/デメリットは、どんなところかな?

S
まずメリットから。
予定の合う日だけ働けるから、学業やほかの仕事と組み合わせている人も多いよ。私自身もその一人。
ちなみにヴィカールという身分でも、派遣を依頼された時点で、断る権利もあるよ。
あとは市内の様々な保育園に派遣されるから、色々な保育を体験することができるのも良いところ。保育園側が気に入ってくれたら、繰り返し呼んでくれるし、場合によってはその園で正式に採用されるケースもあるそうだよ。

次にデメリット。
必ずしも仕事が入るとは限らないし、当日の朝に急ぎの依頼が来ることもある。私は依頼の電話をもらって、10分で家を出たこともあるよ。
初めて来るヴィカールがいる場合は、保育園側は派遣されてきたヴィカールの評価を派遣会社に伝えるみたいだよ。評価が良ければまた呼んでもらえるけれど、悪ければそれっきり。だから、初めての派遣先では少し緊張するよ。

あすか
そうなんだ〜!アシスタントを派遣する仕組みがあるなんて、ノルウェーはすごくシステマチックだなぁ。
ヴィカールは保育園だけでなく、小中学校や特別支援学校でも正規の先生が休まなければいけないときに呼ぶ職員のことを指すみたいだね。

S
そうだね。
ヴィカールは、特定の園・学校専属のヴィカールもいるし、私のように派遣会社から様々な保育園に派遣される場合もあるよ。様々な保育園に派遣される場合、保育園やクラスによって、スケジュールや子どもがやっていいこと/いけないことが違うから、少しでも判断に困ったら、落ち着いて正規スタッフに聞く必要もあるよ。

仕事内容の違いという点では、私はヴィカールという立場では、次のような仕事はやらないよ。
● 保護者の送り迎えの対応…一日の報告は、正規スタッフ(常勤)から保護者に。
● おむつ替え…見知った先生でないと子どもが不安になってしまうという理由で、任されたことがないよ。長期で同じ園に派遣された場合には、ヴィカール(代替職員)に任せる場合もあると聞いたよ。
● 組全体に向けたお話…先生(保育園教諭)が組全体に読み聞かせをしたり、童謡を歌ったりする時間帯は、子どもたちに混ざって座っているよ。わかる範囲で一緒に童謡を歌ったり、先生の呼びかけにリアクションしたりしているよ。

あすか
なるほど〜!
フィンランドの学校では、事前に先生が休むことがわかっている場合は、先生自身が知り合いなどを通じて代替の職員(教員を目指している学生とか)を探して、事前に校長先生に「○日の○時間目の授業は、誰々という人が自分の代わりに授業することになってます」と申し出て手続きをして、代わりの授業をしてもらってたな。それも8年くらい前の話だから、今はノルウェーと同じようにシステム化されてるかもしれない。
日本の場合は、産休や介護休暇の長期のみ、臨時で働ける先生や一度退職した先生がそのポジションを受け持っているイメージね。

いろんな「大人」の役割と、子どもとの関わり

あすか
いつもと違う先生が来るのも、きっと子どもたちにとっては、いろんな大人に出会うチャンスになるよね。

S
実は、保育園の各クラスには3通りのスタッフがいるの。
1.保育園教諭(Barnehagelærer)
2.児童・青少年ワーカー(Barn og ungdomsarbeider)…保育園だけでなく、学童などほかの子ども向けの活動にも従事できるよ。
3.アシスタント…無資格のスタッフ。私は無資格だから、派遣先ではアシスタントとしてのお給料が支払われるよ。

あすか
この「保育園教諭」と「アシスタント」との違いはどんなところ?

S
まず、子どもたちにとって特に違いはなくて、ノルウェーの保育園では、子どもたちはスタッフのことを「先生」ではなく「大人(ノルウェー語ではvoksen)」と呼ぶよ。
でも子どもたちがそれぞれのスタッフを呼ぶときには、ファーストネームで呼ぶよ。
ノルウェーでは、平等意識の高まりとともに、敬語・敬称を使わなくなったんだそう。基本的に上司や先生のこともみんなファーストネームで呼んでる。組ごとのリーダーは、保育園教諭が務めることになっているよ。

あすか
先生とアシスタント(無資格の職員)とで、給料に差はあるの?

S
そうだね、有資格者と無資格者の差は大きいよ。
有資格者なら、無資格で働く人の約2倍のお給料がもらえるみたい。もちろん、業務上の責任は増えるけれど。

あすか
なるほど、恐るべし”証明書社会*”のノルウェー(笑)

*ノルウェーでは学歴はそれほど重視されないものの、過去の仕事経験を示す証明書や資格証明書、成績証明書、卒業証明書など、働くとなると何かと証明書類が必要とされることが多いので、日本の”学歴社会”に対して、私たちはよく”証明書社会”と呼んでいます(笑)

S
ちなみに、保育園教諭は大学の学士課程3年で取得できるよ。
児童・青少年ワーカーは、高校で資格を取るか、実務経験を5年積んで、その後 講座を受講して取得できるよ。

あすか
実際に保育園で働いてみて、何かカルチャーショックだったことはある?

S
そうだね、具体的にはこういうところかな。
● 保育園で食事が3回あること
● 園によっては子どもが外で昼寝すること
● 多少の雨ならば外で遊ばせる園が多いこと
● 大きな園では、先生と事務局が常にスマホで連絡を取っていること
● 着替えが多いこと
● 子どもたちが自然の中で遊ぶことに慣れていること
● 皆が同じことをしなくていいこと…室内でも屋外でも、同時にいくつかの遊びが提供されていて、子ども自身が主体的に何をやるか選んでいる。
● 子ども自身が挑戦したり、自分から質問することが尊重されていること…アシスタントの役目としては、子どもを見守り、必要な時に手助けすることが求められていると感じるよ。

あすか
なんだか日本での自分たちの経験とは全然違う感じがする!
次の記事で、もっと詳しく聞かせてね!

ーーーーー

画像1

↑トップの写真は、世界遺産のBryggen(ブリッゲン)。初めてSちゃんに会ったときに一緒に行った、思い出の場所😊

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?