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善い人は損をするし、努力は報われない

はじめて、この女をぶっ飛ばしたいと思った。


3年前の夏、わたしはパリにいた。エッフェル塔を見たり、ノートルダム大聖堂へいったり、カフェのテラスでラテを飲んだり、友人数名と1週間滞在をしていた。女性なら一度は憧れるパリの街は、とても煌びやかでどこを切り取っても絵になるようだった。

何より人がいいと思った。とくに親切なわけではないが、私たちがいてもフランス人はまったく気に留めない。それがとても居心地がよかった。


だけど、1週間もいると飽き飽きしていた。すべてが絵になる美しい街は、どこを切り取っても同じように見えてきたのだ。わたしは友人たちよりはやく帰ることにした。もともとそのつもりだったが、滞在を伸ばすことはしなかった。


帰りの飛行機へ向かい、チェックインをする。搭乗口にいくと、誰もいない。「へ?」と間の抜けたわたしは拙い英語でスタッフに話しかけた。

「飛行機はもう出ました」

まじか…。たしかにフランス人の友人に航空券を取ってもらい、時間通りに送ってもらったつもりだったのに、完全に遅刻だった。また迎えにきてもらって、部屋へ戻る。とても情けなかった。


部屋に戻ると、私たちより少しパリに遅く到着した、Aとその娘がいた。Aは、わたしの目から見ても変わり者だ。馬が合わないのは感じていたけれど、友人が誘ったので何も言わなかった。

Aが飛行機に乗れなかったわたしを見て、こう言った。

「日頃の行いが悪いんだよ。」


わたしは人生ではじめて、心からこの女をぶっ飛ばしたいと思った。

もちろん、自分で航空券をとってしっかり確認しておけばよかっただけの話かもしれない。わたしがすべて友人に任せきりだったのが悪いのかもしれない。


ただ、Aは中学生くらいの娘を置いて、一人で何ヶ月も遊びに出るような女だ。旦那もいないので、母親にすべてを任せている。別にそこまでは他人の人生だから、わたしが口を出すことではないし、好きに生きればいいと思う。

だけど、海外とはいえ娘の前で堂々とマリファナを吸った時は驚いた。それを見て、娘もなにも動じなかった。察するに、彼女は普段から娘の前で吸っているのだ。さらに、「また?」と娘に言われると「◯◯も吸いなよー」とすすめた。冷静に彼女は断っていた。


信じられない光景だった。こいつにだけは「日頃の行い」などと指摘されたくなかった。心からぶっ飛ばしたかった。

だけど中学生まで彼女を見て育った娘の前で、わたしはAに何が言えるだろう。

こんなクズのような母親でも、娘は信じられないほどしっかりしていて、どちらが子供かわからないくらい大人だった。こんなクズのような母親でも、娘はパリにまでついてきて母の愛を心底欲しがっているように見えたのだ....。


わたしはその空間に居られなかった。パリに飽きたのではなかった。次の日、わたしは朝一で日本へ逃げるように帰った。


「日頃の行い」
「努力は報われる」

この言葉は、呪縛でもある。

努力は報われない。私たちのすべての努力が報われるのであれば、努力する必要なんてないからだ。努力した分、報酬が確実に支払われるのであれば、わたしたちはきっと生きる気力もやる気も失ってしまう。そんな確実性の高いものなのであれば、人間である必要はなくロボットにさせればいいからだ。


努力は報われない。今の世の中を見ればわかるように。毎日毎日、努力を積み重ねてきた人たちのすべてが奪われたりする。頑張ってきたものが、まったくの無になる時がある。



努力は報われない。
日頃の行いなんて関係ない。
悪い奴が得をして、善い人は損をする。


きっとここは、そんなクソみたいな世の中なのだ。だから、そもそも努力は報われるなんて思わないほうがいい。


努力は報われないし、善い人が損する。だったら、自分はどちらを選ぶだろう。ここに気がついたとき、ひとつ試されのではないだろうか。

どちらの人生を選ぶのか、選択をさせられているのではないか、と思ったりする。


努力をしても、その先は絶望しかないのかもしれない。誠実に生きても、損をするだけかもしれない。努力は報われない。だけど、時として奇跡のようなこが起こることがある。ごくたまに、報われる時がある。

だから、私たちは努力を続けられるし、生きるのをやめずに続けることが出来るのだと思う。



あの子に奇跡が起こるといいな。




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