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藤井風とかいう成功を約束された男の話

「いきなりなんですけどね うちのオカンがね 注目している若手ミュージシャンがいるらしいんやけどね」
「あっそーなんや」
「その名前を忘れたらしくてね」
「わからへんの?ほなちょっと一緒に考えてあげるから特徴言ってみ」
「ピアノが達者でYouTube出身らしいのよ」
「おー藤井風やないかい その特徴はもう完全に藤井風やがな」
「分からへんねんでも」
「なにが分からへんのこれで」
「俺も藤井風と思うてんけどな 動画のコメ欄が健全らしい」
「あー ほな藤井風と違うかー 彼の動画のコメ欄は古参ぶりたいにわかと〇aundyと比べたがる奴しかいないからね ほなもうちょい特徴言ってみ」
「オカンが言うには デビューアルバムが爆売れらしい」
「藤井風やないかい!」

というわけで今回は今一番ホンダのCMのタイアップに近い男、藤井風の話です。

藤井風はYouTubeが生み出した超新星だよって話

藤井風のキャリア自体は実は10年近くあり、元々はいわゆる弾いてみた系の動画投稿者としてYouTubeにカバー楽曲を投稿していた。しかし次第に類まれなアレンジセンスと、独特の節回しが魅力の歌唱力が評価をされデビューする流れとなった。ここまでの流れを見るとYouTube出身の歌手(雑に言えば歌い手)のデビューパターンのありがちな流れではある。

だがここで藤井風が決定的に違う点は、オリジナル曲のクオリティの完成度の高さが半端なかったという点だ。2019年11月にデビュー曲「何なんw」がリリースされると、そのシティポップライクなサウンドとソウルフルなボーカルが、アンテナをビンビンに張りまくる音楽好きの耳に引っかかった。そして音楽好きはみな口をそろえてこう言った。
次売れるのは藤井風と〇aundy
ホンダのCMに時間の問題だと思う
ホンダのCMには起用されましたか・・・?まあそれは置いといて若手注目枠の一人にはなったのだが、彼が持っているのはかなり早い段階で一般層に見つかった点だ。この「何なんw」のMVが初公開された日に、その独特なタイトルがバズりまさかのTwitterのトレンド入りを果たしてしまう。その追い風もあってか、ほぼ無名の新人のデビュー曲としては異例の、2週間でMV100万回再生という偉業を成し遂げてしまう。このタイミングでこの曲を見つけたライトな音楽リスナーはみな口をそろえてこう言った。
次売れるのは藤井風と〇aundy
ホンダのCMに時間の問題だと思うwww
この煽り文句もうええわ・・・

藤井風を聴いて方言も悪くねえなって思った話

ここで思ったのが、藤井風の最大の魅力って何なん?ってなった時に、やっぱりあのボーカルが一番の強みだと思うんですよね。まぁそりゃそうだろって突っ込みが飛んでくるのは承知なんですけど、ここからはうんこみたいな語彙力と小島瑠璃子のコメントばりに浅い知識で藤井風のボーカルを分析していきます。

このピアノ配信動画とかちょろっとだけでいいから見てほしい。こういうことを言うのもクソ失礼なのはわかっているが、藤井風氏のしゃべり方、だいぶ癖が強い。どうやら岡山出身なだけあって、千鳥もびっくりな岡山弁をフル活用している。それに加えて曲解説動画などでは、流暢な英語を披露している。

ここで岡山弁についてざっくり調べてみたのだが、岡山弁の特徴として母音が連続する連母音の融合が盛んらしい。
・長い(nagai) → ナゲー(nage:)
・青い (aoi) → アエー(ae:)
・縫物 (nuimono)→ ニーモン(ni:monn)
といった感じで変化するのだが、ようはこの岡山弁譲りの母音をつぶすような感じが英語っぽく聞こえるため、あの独特のグルーヴ感が醸し出されるのではないだろうかということだ。そして藤井風は多分そのことを自分で認識している。例えば「何なんw」のサビの歌詞。

それは
何なん
さきがけてワシは言うたが
それならば
何なん
何で何も聞いてくれんかったん
その顔は
何なん
花咲く街の角誓った
あの時の笑顔は何なん
あの時の涙は何じゃったん

先ほどの母音という観点からこの歌詞を見ると、あ行が多いことに気づく。しかも歌詞の区切るところを撥音の「ん」を除いて考えると全部あ行で終わっている。多分ヒップホップからの影響でケツの韻には気を使っているということもあるだろうが、この母音を重視した言葉遣いは、おそらく自分のボーカルの強みを最大限活かすために行き着いた作詞だと思うんですよね。(余談だけど井上陽水なんかも韻と言葉の語感が生み出すリズムを重視した作詞をするので、タイプ的にはかなり似通っているのでは???)

藤井風が20年代のシーンの主役になるかもって話

少々話を脱線しようかと思う。2010年代後半の邦楽シーンの一大トレンドといえばみなさんご存じシティポップですよね。しかしこのシティポップ、ブームが起きた当初から割とガバガバな概念でして、そもそもシティポップというのは70年代後半から80年代ぐらいの当時のアメリカのソウル、ディスコ、AORなどのジャンルを日本流の分厚い音で重ねた、都会的なオサレ音楽のことを指す言葉だったんですよね。

それが2016年の頭に臭くて汚いライブハウスからやってきたSuchmosが「Stay Tune」という特大アンセムを抱えて邦楽シーンに殴り込んできたこととで、90年代の渋谷系からの影響を強く受けた若手アーティストが一気に躍進。同じタイミングで小沢健二Mondo Grossoといった渋谷系のレジェンドたちも復活したことで渋谷系のリバイバルが始まるんだけど、なーにを間違えたのか知らないけど音楽メディアがこのアシッドジャズ臭いムーブメントをネオシティポップと勝手に命名。


まあそんな感じで最初の時点で定義がブレブレのムーブメントになってしまったわけなんだけど、世界的なヴェイパーウェイブの流行なども相まって本来のシティポップも再注目されたから、全部が全部シティポップじゃありませんよとも言い切れないのも事実。でもこのネオシティポップ、あまりにも風呂敷を広げすぎたせいで、下手したらあの国民的バンドのKing Gnuですら括ることが出来てしまうぐらい大雑把な音楽ジャンルになってしまったからどうしようもない。

ともかく今の若者にとってこの曖昧なムーブメントの必須条件は

・洗練されておしゃれ
・MVの衣装はメンズノンノ
・個人経営のカフェに馴染むぐらいの心地よさ
・ブラックミュージックをリスペクト
・ホンダのCMで流れてそう
・合言葉は「チルしようぜ」

こんなゆるゆるな条件のせいで、当初のシティポップと全然違うような奴らが新たな新興勢力として登場します。そうR&B系の人たちです。

今じゃミーハー女子の新たな餌食SIRUP。先日価値観をアップデートさせちゃった小袋成彬。俺は可愛いとみとめないぞiri。タイプは違えどR&Bからの影響が色濃い彼らが、そのただならぬおしゃれサウンドでチルしたいリスナーから支持を獲得し、2010年代末期の邦楽シーンにおいて大躍進を遂げたのは記憶に新しい。え?髭男もR&B???知らねえなあ。てな感じでR&B業界が爆発前夜の盛り上がりを見せる中、藤井風が3枚目のシングル「優しさ」を発表した。

まだ出したばかりだからあれだが、僕が思うに2020年代前半の邦楽シーンの進む道を彼はこの曲で提示した気がするんですよ。これは個人的な予想なんだけど、20年代の邦楽って2000年代のJ-POP、特にR&B分野の再解釈っていうのが一つのムーブメントになると思ってて。というのも最近90年代後半から00年代までのヒット曲を集めたコンピレーションアルバムの「ラブとポップ」がヒットを飛ばしたり、先日の関ジャムで「R&B」特集が組まれたりするなど、結構そういう機運が高まっているなと感じることがあるんですよね。それに当時のR&Bシーンを引っ張っていた宇多田ヒカルMISIAがいまだに第一線にいるのも心強いですよね。

10年代シティポップが生んだ最大のリバイナルヒットが竹内まりやの「PLASTIC LOVE」なら20年代R&B最大のリバイバルヒットになるのはm-floの「come again」になると思っています。僕がこう言い切る根拠としては、この曲は当時のクラブシーンで流行していた2stepを取り入れたJ-POPの楽曲で最も成功した楽曲だからだ。この2step、僕の素人な耳にはなんか似てるなーと思ったんですよ。そう、シンバルを多用する感じトラップににてるじゃーんwwwって思ったんですよ。まあその手のベースミュージック詳しい人が見たら怒りそうな意見だってことは十分承知しております。でも先ほどの藤井風の「優しさ」、「come again」で2step入れてるのと同じくらいのノリでトラップ入れてるんですよね。それでいて初期平井堅を彷彿とさせるメロディラインとストリングスの入れ方といい、次世代のスターになるための要素しかないんですよね。(ちなみに藤井風は過去に「come again」をカバーしている。)

そして今回出たデビューアルバム「HELP EVER HURT NEVER」、R&B発のJ-POPの次世代スターって意味では期待にがっつり応えた、むしろ期待以上の大傑作を生みだしちゃったなって思ってます。既発曲の4曲のクオリティは言わずもがなですが、新曲の7曲、特に「調子のっちゃって」から「風よ」までの4曲は彼のピアニストとしての才能とR&Bのセンスを遺憾なく発揮してて本当に凄いと思います。それでいて最後に「帰ろう」というアンセムが控えてるんですよ。これはもう名盤以外のなにものでもないでしょ⁉

口コミを聞いても絶賛のようですし、それでいてセールスも伴っているので、ここまでデビュー作で成功しちゃうと次作への期待が凄いことになりそうですよね。とりあえず今注目されるべき才能であることは変わりないし、それでいて20年代の邦楽シーンにおいてどれだけの成功を収めるのか非常に楽しみですな。

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