基礎看護技術演習(ベッドメーキング)のピア・フィードバックへの活用
本記事は、大阪教育大学 健康安全教育系 准教授 橋弥あかね先生に寄稿いただきました。
概要
実施者:大阪教育大学 健康安全教育系(養護教育部門)
実施対象:大阪教育大学の養護教諭養成課程専門科目:看護学実習受講者30名
背景・ニーズ
看護技術教育の評価方法として、自己評価や他者評価、両方組み合わせた相互評価など、大学や領域によって色々な方法が実施されていますが、大阪教育大学養護教諭養成課程開講科目の「看護学実習(学内実習)」ではペアの学生によるピア・フィードバックを取り入れています。しかし、ペア学生によるピア・フィードバックでは評価基準がペア学生の学習状況や知識等に依存するため、フィードバックが不十分になる可能性があります。そこで、Askaを用いたピア・フィードバックを導入し、多くの学生からの意見が得られることで、十分なフィードバックが期待できるのではないかと考えました。
授業の概要
科目:「看護学実習」の「ベッドメーキング」のピア・フィードバックにAskaを使用しました。授業は通常通りに実施しました。授業開始時にテキストを用いてベッドメーキングの意義、目的等を確認し、教員によるデモンストレーションをしてから学生各自でベッドメーキングを実施し、最後に振り返りと講評という流れです。学生各自でベッドメーキングを実施する際には、学生自身のスマートフォンで実施場面の録画およびペア学生に評価表をチェックさせ、実施後に撮影した動画と評価表をペアで見ながら、ペア学生によるフィードバックをさせました。
Askaの準備
今回は、実施場面動画を視聴しながら意見共有させるため、3名の学生から「看護学実習」時に録画した実施動画の提供を受けました。教員側で「動画1」「動画2」「動画3」としてAska意見投稿ページを作成し、YouTubeにアップロードした動画をそれぞれのページに組み込みました(図1)。Askaは、最初にアクセスした学生は他の意見を参照できないため、初期回答が必要となります。そのため、教員が事前に提供動画を視聴して評価し、その中から良い点2つ、悪い点2つを初期回答としました(表1)。
Askaによる意見共有
学生30名に対し、Askaの操作マニュアルを配布してAskaの操作説明を実施しました。注意点として、意見投稿+「いいね」を3~4個すること、悪い点だけでなく良い点も意見投稿することなどについて説明し、約2週間の利用期間を設けました。
結果
Askaの意見共有結果
「動画1」は18名、「動画2」は19名、「動画3」は20名から回答を得ました。図2がAskaの意見共有結果になります。縦が回答者、横が投稿された意見で、Askaでは似た意見を持つ回答者や似た意見が分類され、近くに並べられます。今回は、回答者と意見ともにピンク色と緑色2つ(動画2のみ回答者3つ)に分類されました。表の中の水色は「いいね」をした、濃い青色は「意見投稿」をした、黄色は参照されたが「いいね」しなかった、空白は意見が表示されなかったことを示しています。今回の取り組みでは、回答者の個人特性などのデータを取り扱っていませんので、回答者の傾向や意見の分類の傾向などについては明らかにはできませんでした。しかし、ベッドメーキングの個別到達度や他学生への評価状況、学習状況などの情報と合わせて分析することで、個々の学生の意見の傾向について明らかにすることができるのではないかと思いました。
次に、学生の意見内容と教員の評価内容の比較をしました。例として「動画1」の結果を示します(表2)。学生の意見内容21個(肯定意見12個、否定意見9)、教員の評価内容は25個(肯定意見12個、否定意見13個)でした。学生の意見にはあるが教員の評価にはないものが6個、教員の評価にはあるが学生の意見にはないものは9個ありました。教員の方が学生よりも評価数が多いのは、学生より詳細に技術を見ているからであると評価内容から考えられます。しかし、学生意見と教員評価の数は大差なく、学生の意見にはあるが教員の評価にないものが6個あることから、学生も詳細に技術を見ることができており、ベッドメーキングについて十分理解できていると考えられます。
Askaを利用したフィードバックに対する感想
意見投稿期間終了後、学生にはAskaの公開ダッシュボードから結果を提示しました。その後、Askaを利用したフィードバックに対する感想についてアンケート調査し、8名から回答が得られました。良かった点としては、自身の振り返りに繋がったこと、他学生の着眼点を知ることで気づかなかった点に気づけたことがあげられていました。また、匿名であったことによる意見の述べやすさ、他者の意見に賛同することができたことによる評価のしやすさといった意見投稿についての感想や、動画利用により何度も見直せること、技術の詳細の把握ができることなどの動画を用いた利点について述べられていました。これらのことから、他者の実技を見ることや他者の意見を知ることにより、学生自身の学びになったことがわかりました。
悪かった点としては、同じような意見があること、ベッドメーキングの手順通りに意見が表示されないこと、良い点と改善点を分けて見たいといったシステム上の課題があげられていました。
動画提供者の感想
3名の動画提供者に対して、Askaの意見共有結果について説明した後、感想を聞きました。学生の反応は概ね良好でした。現時点の自分の技術について理解できた、指摘をされて新しい発見があった、良い点の指摘は嬉しかったなどの感想が述べられました。様々な学生からの指摘によって自分自身の技術や技術の到達度の理解ができたこと、また、出来ている点と出来ていない点の明確化だけでなく、ポジティブ感情を得ることにも繋がっていました。
感想
今回の取り組みにご協力いただいた学生の皆さんに感謝いたします。
Askaを利用したピア・フィードバックは、評価する側は他者の技術を見る力を養え、他者の意見から気づき得られて自分自身の技術の振り返りになること、評価を受ける側は詳細な意見から自分自身の技術の到達度の理解に繋がることがわかり、基礎看護技術演習でのAska利用は有用だと思いました。ただ、受講人数が多くなれば多くなるほど、受講者全員の実技動画を全員でチェックするのは難しくなりますので、6人程度にグループ分けをして利用するなどの工夫が必要だと考えます。
普段の基礎看護技術演習時のペア学生の評価表を見ると、出来ていない技術も「できている」にチェックがつけられていることが多く、フィードバック時にほとんど指摘をしていない光景が見られます。評価が甘いのは、技術について理解できていないのか、他者の技術を批判的に見ることができないのか、指摘をして関係が悪くなるのを避けたいのか、自分に自信がないから指摘しないのか、なぜだろうと疑問に思っていました。今回の取り組みを通して、学生はベッドメーキングについて理解していて、他者の技術を批判的に見ることもできることがわかり、少し安心しました。
本記事で使用されたAskaは、プロトタイプ版(Aska (v1))であり商用提供はされておりません。