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グループワーク授業での班分けを効率化 #1

本記事は、大阪教育大学紀要 総合教育科学 第 71 巻 1~10頁 「人工知能技術を用いた意見共有システムの教育活用I -グループワーク授業における Aska による班分け-」を一部抜粋・要約したものです。

概要

  • 実施者:大阪教育大学 理数情報教育系(理数情報部門)

  • 実施内容:授業中のグループワークの班分け

背景・ニーズ

令和の日本型学校教育において、アクティブ・ラーニングの重要性が増していますが、グループ学習での議論・討論が行われる場合、教員が班分け作業を行うことが一般的です。しかし、しっかりやろうとするとこの労力は馬鹿になりません。Askaを用いることで、教育効果の向上や、教師の負担軽減が期待できるのではないかと考えました。

Askaによる班分けを試みて、同じ意見を持つ学生同士が同じグループになるようにすることで、円滑なグループワークが行えるかを検証しました。

授業の概要

「サイエンスと現代生活」のグループワーク授業(受講生は49人で、3回生が44人、4回生以上が5人、留学生はおらず、男女比は約2対1)において、Askaを利用した班分けの試みを行いました。この授業では、最近の科学記事とその元となるプレスリリースや英語論文をグループで読み込み、科学研究と現代生活の関係について議論します。授業は全15回で、オリエンテーションを除く14回を前半の「第一テーマ」と後半の「第二テーマ」に分けて、それぞれ別の科学記事を取り上げたグループワークを行い、最後に各グループがプレゼンテーションを行います。新型コロナウイルスの影響で授業は一部オンラインで行われましたが、基本的なグループワーク作業は対面で実施されました。(学生は個々に所有するコンピューターを使用し、Moodleという学習管理システムを活用して資料を提示)

図1 Aska での回答を促す Moodle コース上の説明画面

Askaは後半の「第二テーマ」の班分けに活用しました。受講生はウェブサイト上で科学記事を選択する際に、Askaのウェブアンケートシステムに誘導され、科学記事の選択とAskaによる回答を同時に行いました。Askaのアンケートでは、受講生に以下の質問を提示しました。

「サイエンスと現代生活」の「第一テーマ」で前半のグループワークを行ってみて, 「もっと○○してみたかった」という,あなたの感想・反省点・希望を教えてください。

Askaでの質問文

初期回答として次の 3 つの 回答を教員側で準備しました。

  • もっと論文を深く読み込み研究内容を議論してみたかった。

  • もっと分担して効率的に作業を進めたかった。

  • もっと研究の将来性について議論してみたかった。

結果

合計で47名から回答を得ました。自由記述回答は合計で14件あり、同意の総数は146回でした(1人あたりの平均同意数は3.1回)。自由記述回答の中で同意数が多かったものと集めた同意の数を表2にまとめました。予め提示した初期設定回答と比較すると、学生の自由記述回答が多くの同意を集めており、学生同士の意見共有が効果的に行われたことを示しています。学生の意見が反映されていることに注目すると、この方法はアクティブ・ラーニングとして効果的であると言えます。また、回答内容は期待通りの反省や希望が書かれており、質問の意図が伝わったと考えられました。

表2 Aska で得られた自由記述回答 (同意数が多かった上位7意見)

Askaによる意見共有結果は、図3のような形で出力され、全体を俯瞰することができます。回答者(学生)が縦に並び、自由記述回答(意見)が横に並んでいます。各回答者がどのようにリアクションしたかは、色別のタイル状に表示されています。水色のタイルは「同意したこと」を示し、クリーム色のタイルは「同意しなかったこと」を示し、濃い青色のタイルは「その意見を提案したこと」を示しています。また、タイルがなく白抜きになっている部分は、「参照されなかった(提示されなかった)」ことを示しています。Askaは、回答者(縦の並び)と回答(横の並び)を、「似た意見を持つ回答者が近くになるように」と「似た意見が近くになるように」機械学習を用いて自動的に並び替えてくれます。

図 3 Aska の意見共有結果 (大枠グループの境界線引きは教員側で行った)

本授業では「似た意見を持つ学生同士を同じグループにする」のがゴールなので、図3の意見共有結果の回答者の並びを活用して、近くに位置する学生同士を同じグループに分けていきました。この作業は手作業で行われますが、Askaでは結果をcsvファイルとして出力することができるため、表計算ソフトウェア(Excel)にデータを移行して簡単に操作することができます(図4)。今回は、Moodleのフィードバックモジュールでの科学記事の選択も考慮に入れて班分けを行ったため、具体的な手順は図4のようになりました。

図4 Excel 上での班分け作業画面 (一部抜粋)

感想

主観的な意見ではありますが、通常よりも円滑にグループワークが進行しているように感じました。学生の事後アンケートの回答にも示されているように、同じ意見を持つ学生同士が同じ方向性でグループワークを行っている傾向が、教室内で確かに確認できました。Askaの効果により、効率的に志向が似た学生同士を同じグループに編成することができ、それにより授業のグループワークは順調に進行しました。ただし、一部のグループでは意欲の低い学生同士が一緒になってしまうケースも存在しました。この点については、活用方法の改善の余地があると考えられました。

Askaの特徴は、従来のアンケートツールとは異なり、自由記述回答同士を自動的に関連付けて分類してくれる点です。これがまさにAskaが「意見共有システム」として存在する理由です。もし教員がMoodle内のモジュールやGoogle Formsなどを使用してアンケートを実施し、回答結果を活用して志向が似ている学生同士を同じグループにまとめようとする場合、回答結果の分類は教員自身が目視で行わなければならず、大きな労力が必要となります。また、教員にとって自由記述の分類は手間がかかる場合、選択肢を用意して回答してもらう方が現実的であり、学生の本当の意見を見落とす可能性があります。Askaは学生の自由記述回答を確実に把握し、複数の意見を「同意(いいね)」によって関連付けてくれるだけでなく、意見が近い回答者同士を可視化するため、教員は学生を意見別に簡単に分類することができます。今回の大学の授業での試みでしたが、小学校、中学校、高等学校などの教育現場においてもAskaを効果的に活用することができるでしょう。Askaを使用したAIによる班分けは、「アクティブ・ラーニングを推進する新しい指導要領」と「教師の負担を軽減する令和の日本型教育」という方向性に合致する手法であり、今後の普及が期待されます。


本記事で使用されたAskaは、プロトタイプ版(Aska (v1))であり商用提供はされておりません。


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