デザインシステム構築伴走における”向き合い方のデザイン”を、ケアの事例から考える
株式会社ゆめみ デザインギルドのa.o.です。
私は2022年頃から、クライアントワークでデザインシステム構築支援の仕事に携わってきました。経験を積む中で、自分の役割はクライアントが組織課題や自分自身に向き合うことをデザインする、ということなのかもしれないと考えるようになりました。
このnoteは、デザインシステムの構築伴走支援における向き合い方のデザインについて、ケアの事例からヒントを得ることで、より具体的なアクションやその効果を考えることを目的とします。
クライアントは組織課題や自分自身に向き合っている
デザインシステム構築は組織作り
私がクライアントワークでデザインシステム構築に伴走する多くのケースでは、クライアントの担当者は事業会社の中でデザインシステムを構築し、仕組みとして浸透させるミッションを持っています。
デザインシステムを構築・浸透させることは、組織におけるデザインや開発のプロセスを変革することと同義です。つまり、デザインシステム構築は組織作りとも捉えることができ、クライアントは組織課題に直面することになります。
組織課題は、組織内での人間関係の軋轢、過去に生まれてしまった技術的な負債、経営観点の制約、自分自身が乗り越えなければいけない壁…などなど、さまざまな形でクライアントの前に聳え立っています。
そして突然飛んでくるネガティブフィードバック
デザインシステム構築プロセスの中で、意図していないところから担当者へのフィードバックが飛んできてしまう場面もあります。
このようなフィードバックは、ほとんどのケースでネガティブフィードバックです。フィードバックはする人・される人の信頼関係のもとに成り立ちます。フィードバックされる側の準備ができていない状態で、加えて発話者が不明なネガティブフィードバックを受けることは心理的な負担を伴います。
前述した組織課題への向き合いに加えて、予期せぬネガティブフィードバックが重なることは精神的なプレッシャーであり、耐性のないクライアントも少なくないと感じます。
デザインシステム構築伴走とケア
上記の経験から、デザインシステム構築伴走支援において私が支援するのは、問題と向き合うための準備や姿勢づくり、そして向き合っているクライアント担当者のケアであると思うようになりました。
ミルトン・メイヤロフは、ケアについて以下のように語っています。
また、メイヤロフのケアの本質についての考察があります。
デザインシステム構築は組織づくりであり、組織がよりステップアップするための営みであることから、組織や組織に所属するクライアントが成長し、事業を成長させて自己実現をすることもデザインシステム構築の一つの目的です。
デザインシステム構築の伴走者は、クライアントやクライアントが所属する組織の成長をサポートしています。伴走者のこの行為は、ケアと同種の行為であると考えることができます。
私はデザインシステム構築伴走支援での向き合い方のデザインは、ケアと同種の行為であると考えたことから、ケアの事例から向き合い方のデザインの手がかりを得たいと思いました。
今回はチャイルドライフスペシャリストによるケアを事例として、向き合い方のデザインについて考えてみます。
※以下、クライアントワークでデザインシステム構築伴走支援を行う人のことを”伴走者”と記載します。
ケア事例:チャイルド・ライフ・スペシャリストによるケア
チャイルド・ライフ・スペシャリストとは
チャイルド・ライフ・スペシャリスト(以下、CLS)はアメリカで取得できる資格のため日本国内での担い手は限られていますが、こども病院や小児科病棟に医療チームの一員として勤務しています。医療チームは医療行為(Cure)の担い手である医師・看護師だけでなく、ソーシャルワーカーや保育士、こどもの家族も含む多職種で構成されています。CLSはその中でもチャイルドライフにフォーカスし、患者(こども)が自身の医療体験に向き合えるようにサポートをしています。
患者へのプリパレーション
プリパレーションは、CLSが患者の年齢や心理状況に合わせて、実際に使用する医療資材や人形などを使用して処置の内容を説明するサポートです。
患者自身が自分に行われる処置を知らなかったり、理解していないままだと何と向き合えば良いかがわかりません。
ストレスがかかる状況下で、患者自身が見通しを持てるように説明することで、状況をコントロールしながら乗り越えていけるように支援します。
状況によって処置前の3分、1分といった短時間で行われることもありますが、プリパレーションの有無によって患者の精神的安定に大きく差が出ることもあるようです。
セラピューティックプレイ(治癒的な遊び)
日常的な遊びとは異なり、医療体験や入院生活の中で心に溜めてしまった苦しさ・つらさといった感情を発散させるための遊びです。
ストレス状態からの発散には触覚の刺激が良いとされ、粘土・水など感覚を使った遊びを一緒に行い、自分で「おしまい」と言えるところまでCLSが寄り添います。
可能な限りストレス状態を解消することで、患者が自身と向き合うためのコンディションを作っています。
CLSだからこそできること
日本ではCLSが浸透していないため、看護師がプレパレーションを行うこともあるようですが、やはり処置をする役割を持った人(=Cureの担い手)が行う場合は受け入れ方が異なるそうです。
CLSはケアの担い手として患者と日常的にコミュニケーションをとることで、信頼関係を構築しています。プレパレーションが有効なのも、CLSは嘘をつかず、真摯に自分に向き合ってくれているという信頼構築が背景にあります。
医療チームの全体感を見据える
私は以前、CLSの方にインタビューをさせていただく機会がありました。その際、チームをモビールに例えて話していただいたことが印象的でした。
モビールは、どれかを一つ揺らすと連鎖的に全体が揺れます。
これをチームに置き換えると、誰か1人が良いループに入ると良い揺れがチーム全体に広がり、逆に誰かが良くない方向に行くと全員に良くない揺れが広がるということです。つまり、患者だけ・医師だけ・CLSだけが頑張ってもチームは良くなりません。
ですが裏を返せば、患者は1人ではなくてチームで病に向き合っているということの表れでもあります。患者が苦しみを抱えた時には、「一人じゃないよ」と伝えるようにしているとのことでした。
事例との共通項を探してみる
向き合うための環境や姿勢づくり、心のケアをしている
CLSは患者が医療体験に向き合い、乗り越えるための包括的なサポートを行っています。CLSのサポートは、主語が「患者」や「患者家族」になっています。
デザインシステム構築の伴走者の目的は「クライアントがデザインシステムを構築・浸透できる」「クライアントが組織の課題に目を向けられる」のように、主語が「クライアント」です。
主語となる他者のイネーブルメントを高めていることが、共通項として挙げられます。
チームで取り組んでいる
CLSは医療チームの中で、ケアの担い手としてサポートを行っています。チームの一員としてコミュニケーションを活発に行うことで患者との信頼関係を構築しつつも、病院という医療行為が行われる空間の中で、医療行為を行わない役割であり続けることが、患者へのサポートの有効性にもつながっていると考えられます。
デザインシステム構築の伴走者も、まずはクライアントとの信頼関係を構築するためにチームの一員として信頼関係構築をしつつも、社外の人間としての役割を保持し続けることでクライアントの組織へのメタ視点を保持することができます。
チームの一員でありながらも、課題に向き合うために俯瞰的な視点やポジションを保持し続けている点が共通していると感じました。
伴走者による”向き合い方のデザイン”とは
CLSのケア事例や共通項の洗い出しで得られた手がかりから、デザインシステム構築の伴走者の向き合い方のデザインを考えてみます。
クライアントとは異なる役割からサポートする
伴走者はクライアントの成長・自己実現を目標としたケアの担い手です。
クライアントのデザインシステム構築チームにデザイナーがいる場合に、伴走者が作り手のデザイナーとして参画することはリスクと考えられます。
デザインシステムはいずれ伴走者の手を離れてクライアントが育てていくことを考えると、このような道具的サポートはクライアントのイネーブルメント形成を阻害し、またチームに入り込みすぎてしまうことで組織課題の発見がしづらくなります。
デザインシステム、また組織に対するメタ的な視点を持ち続けるためにも、クライアントとは異なる役割に徹することが伴走者には有効です。
例えば、クライアントが技術的な困難を抱えた時の情報的サポートとしてのデザインレビューを行ったり、モヤモヤを抱えた時の気持ちを受け止めるメンタリングなどの情緒的サポートが有効であると考えます。
クライアントの味方であり続ける
ケアは下記条件が満たされた時に効果を発揮します。
伴走者は、クライアントが成長する力を持っていると信じている
クライアントは、伴走者がクライアントが成長する力を持っていると信じていることを感じている
この条件を満たしておくためには信頼関係の構築が必要です。クライアントが逆風に立たされている時も常に味方であり続ける姿勢を見せること、日常的にコミュニケーションをとって適切な距離感を作ることで、信頼関係の構築につながり、ケアの効果を発揮できるようになります。また、この信頼関係の構築をもって情緒的サポートが有効になります。
組織内でのフィードバックプロセスをデザインする
デザインシステムにはクライアントの組織内で育てていく仕組みが不可欠です。そのために組織内でのフィードバックを収集してデザインシステムに反映する仕組みを作る必要がありますが、デザインシステムのクライアント担当者に予期せぬネガティブフィードバックが飛ばないようなプロセスが必要です。
フィードバックプロセスを設計することで、クライアントもフィードバックを受けるための準備をすることができます。
デザインシステム構築に関するフィードバックツールの選定、周知方法、収集頻度、反映フローの計画・設計がフィードバックプロセスのデザインとして考えられます。
まとめ
本noteにおける、デザインシステム構築の伴走者の”向き合い方のデザイン”は、以下3点だと考えられます。
チームの一員として信頼関係を構築しつつも、俯瞰的な視点を持ったコミュニケーションを持続すること
クライアントのイネーブルメントを高めるための情報的・情緒的サポート
クライアントの組織内のコミュニケーションデザイン
おわりに
ここまでご覧いただき、誠にありがとうございました。
デザインシステムとケアはなんだか近い場所にいるような気がしているので、今回のnoteをきっかけにもっと関係性を探究してみたいと思いました。
そして、デザインシステムの取り組みをされている方のぶっちゃけ話をたくさん集めてみたいので、こんなことがあったよ!という方!ぜひ教えてもらえたら嬉しいです🎄
参考文献
ミルトン・メイヤロフ. (1987). ケアの本質:生きることの意味.
長谷川美貴子. (2014). ケア概念の検討. 淑徳短期大学研究紀要, 53号
一般社団法人日本チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会. https://jaccls.org/ .(参照2024-12-13)
藤井あけみ. (2000). チャイルド・ライフの世界: こどもが主役の医療を求めて.
ダン・モール著, 長谷川恭久(監修) , 高崎拓哉(翻訳) . (2024). デザインシステムの育て方: 継続的な進化と改善のためのアプローチ.