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ASIBA2期「新しい都市居住を目指してアクションを起こすZ世代の鼎談 -2」

今回はASIBA2期の参加者から、それぞれが進めるプロジェクトに加えて、人柄や関心を深ぼるため、「現代の都市や住まいのあり方に提言を持つ」3名による鼎談を開催しました。3名とも視点や軸の置き方、何に対するカウンターなのかはそれぞれ異なりますが、不安定な現代社会や10代でコロナを体験した世代の捉える現代都市に対しての違和感やそれに対して起こそうとしているアクションについて議論しています。(2部構成です)


1.超管理社会と喫煙所(福本英人)

福本:僕がASIBAで取り組んでいるトピックとしては、喫煙所を作ろうっていうことで、それは、まず実空間の問題として、東京に喫煙所が足りていないっていう問題提起をしています。

2020年に条例や法律の変化があり、屋内が原則全面禁煙になったり、公園に喫煙所が建てられなくなったりして、現状喫煙所は絶対数が不足している。そういう状況の中で、区にお話を聞きにいっても、区は増やしたいけど、ここは条例や法律で建てられません、という風に行政がやるのは限界があって、でも実際喫煙所は足りてなくて。足りていないだけでなくて、環境として劣悪な場所は存在して、ただのコンテナだから中がほとんど霧みたいになっている喫煙所もある。喫煙者はそういうすんごいきついとこで吸ったり、 あるいはそれが嫌だからそこらへんで吸ってそこらへんに捨てたり、それによって周りの人も迷惑する。

「これって都市空間の運営の問題じゃないですか?」、「喫煙所が単に足りてなくて、行政は手出しできてないっていうなら民間でやりませんか?」っていうのがASIBAでの福本としての問題提起なんだけど、もうちょっと大きな話として言いたいのは、みんなそんなにピリピリしなくてもいいんじゃないの?ってことです。

もう1つは、多分他のみんなも思っていることだと思うけど、やっぱり都市の中にはある種の線が明確に引かれていて、それは管理社会化が進む中で精神的・システム的にもそうなっているし、再開発等で物理的にもそうなっている。もちろん私有地だからダメですって言われたら何もできないんだけど、そういうピチッとした境界線をきっかけに、ちょっとギスギスしすぎてんじゃない?っていうのは思ってますね。

高野:寛容性みたいなところと、境界ってもうちょっと曖昧でいいんじゃないですか、みたいなところだよね。個人的にめっちゃ気になってたのは、福本さんって学部建築じゃないんだなって(笑)

福本:そう、文学部の美学芸術学専修出身で、全然今回と話がずれるけど、元々はかなりアンチテクノロジーだった。一般論として今の日本はいわゆる成長の時代ではなくて技術とかサービスの精度を高めていく時代で、それってさっき挙がった線を太く濃くすることや、物事を徹底的に管理/制御していく方向に進んでいくと思っている。"これ超管理社会じゃん"と思う事例を目にする機会ってそこそこあるし、そういうときに、小説で昔の人が危惧してたディストピアにどんどん向かっているんじゃないかって思っちゃう。

さらに言えば、それはそうしたくてやってるっていうよりも、例えば今だったら、とにかくどんどん建てればいいっていう時代じゃないから、その精度を上げていかなきゃい、っていう中で、技術開発としてやらざるを得ないんだろうな、とも思う。元々東大の理科一類だったんだけど、当時は、このまま工学部に進んだら世界をどんどん悪くしてしまうなって思って、技術を進めたくなかった(笑)。新しい技術って、それができたところで使わなきゃいいじゃんっていうものでもなくて、「紅茶にミルクを入れたらミルクティーになるけど、ミルクティーは紅茶にならない」みたいな、不可逆性を孕んでいるものだと思ってる。

2.技術から言葉へ

福本:だから、パラダイムシフト的なものが嫌で、できるだけ関わりたくなかった。それを技術の側から食い止めるっていう発想もあると思うけど、今、というか、産業革命以降、技術によってできた問題を技術によって解決しようとし続けて、問題のスケールがどんどん大きくなってると思っていて。どんどん問題のスケールがでかくなっていく一方なら、技術によってそういう問題を解決するんじゃなくて、言葉によって解決しなきゃいけないって思って、まず文学部に行きました。でも、言葉の力も弱くなってる時代で、 結局、モノとして実作がないといけないのかなと思って、建築系に戻ってきて、今に至るかな。

高野:難しいね。2個あると思っていて、まず一般的には技術が課題を解決しますっていうパラダイムを結構多くの人が信じていて、実際それが正しい例もある。例えば今、東大はじめいろんな大学がやってるディープテックのスタートアップって、それを進めることによって困っている人の問題を解決できますって言って、それに多くの人が共感してお金が集まっている。そこを進めてる人たち自身のモチベーションとか、この問題を解決したいんだって思いはすごいわかる。ただそれは、局所的に当てはまるんだけど、じゃあ全体としてどうなのかって言ったら、また違うよねみたいな、そうやって発展してきた医療技術とかが、生命倫理みたいな問題にいずれ繋がっていくよねとかいう議論はもちろんあるなと思っています。

そういう一概に言えないなっていうところが1つと、あとやっぱり、技術を止めましょうっていうのはどうしても無理なのではないか?。 ミルクティーの例えもあったけど、AIの開発を半年間止めましょうみたいな話が一時期あったものの、結局うやむやになっちゃいました、みたいな(笑)。そういう合意形成は人類史上未だ嘗てできたことがなくて、 どうやってそれを豊かにすることだけに使えるんですか、みたいなところをやらなきゃいけないんだろうね。

福本:そうだね。結局、なんでそんなこと(技術発展を)してんの、みたいなことを考え出すと、国際競争力が〜とか、そういうもっと大きな話になっていって、個人の手に負えない。いや、別にそこについて考えるのを諦めるべきではないけど、まずはそこまでの話に持っていくよりも、もっと身近に喫煙所が今減っていて、嫌煙感情もどんどん高まっていて、っていう現状に今は向かい合いたい。

それは、数十年前みたいに飛行機で吸わせろとか、そこら中で吸わせろとか、 映画館で吸わせろとか言ってるわけじゃなくて、少なくともいま喫煙者の人が、自分も含めて、まあ幸福追求権じゃないけど、最低限幸せに生きられる場所を作る方が、国際競争力云々みたいなところに考えを飛ばすよりも重要だなっていう風に思ってて、それが建築に再度転向した理由でもあるから。単に場があることの強みみたいな部分をもうちょっと信じたい。

3.コロナ禍での経験と同調圧力

高野:もっと手元でちっちゃなものをこう積み重ねていった方が、大きいことを考えて言葉で止めようとするよりもできるよね、って感じかな?

福本:今打てる手はそれしかない、みたいなところもあるよね。どうしても。ちょっと話を戻すと、監視社会みたいなものは、コロナの時に多くの人が感じたと思うし、俺よりも大学1年生の瞬間にコロナになった人たちがやっぱり1番影響を受けていて、 例えばサークル活動の引き継ぎが途絶えて消滅したところとかもたくさんあるし、単に友達が最初にできなかったみたいな人もいるし。あの時、若者が外に出るから悪いみたいな風潮が、国じゃなくてどちらかというとネット界とかメディアで結構巻き起こっていたって思っていて。そういう同調圧力というか、いわゆる私権制限、相互監視というか、すごく嫌だったね。

高野:僕は1年生だったんですよ、あの時。あの1-2年はあらゆる意味で劣悪だった。例えば僕だったら、これをやりたいと思って1年間時間を使ってきた場所が、実は自分にとって全く恵まれた場所じゃなかったって後から気づいたんだよね。すごく世界が閉ざされていて、見えてない範囲があまりに広くて。大学1年生って、世界がすごく広がって、その中から自分の居場所を選び取るための時間だと思うんだけど、それをすごく限られた情報量の中でやらざるを得なくて、ちゃんと自分で選び取れなかった。あと、人生をねじ曲げてくれるような人との出会いも全く起きなかったよね。

コロナ禍って構造的に世代間の問題だったなと思ってる。年齢によって死亡率が全然違います、感染を媒介しているのは若者です、という状況で、じゃあリスクがある人だけ外に出なきゃいいっていう話も成立しうるけど、実際に一番制限を受けていたのはリスクがないはずの若者だった。若者が意思決定層に全く関わっていなくて、声を上げても聞いてもらえなかったから、大学生の問題は一番最後まで放置されてた。小学校から高校までは、結構早いタイミングで部分的に対面が導入されたけど、大学生だけずっとオンライン授業だったよね。あの時間で社会に対して感じた怒りはすごいあるな。自分たちが無視されている感覚。

結局日本だと、僕も私立の中高一貫出身だし、幸運なことに自分が社会から無視されてる感覚をこれまで味わわずに来たけど、あれがすごい最初だった。

榎本 :うん。なんか、集団でウイルスから防衛するためには、大学生には犠牲を被ってもらっても仕方がないかっていうのは、もしかしたら社会側にあったかもね。喫煙所でも結構同じことが言えるのかな。

高野: そうね。うん。

榎本 :健康でかつクリーンな街のためには、20年ぐらい喫煙者に我慢してもらえれば、 そのうちそういう声も減るでしょう、みたいな。

福本: 基本的にはそうだと思ってて。コロナ禍初期、どういうものかよくわかってなかった時期の、かかるかからない、移す移さないみたいな議論ではとにかく移動自体が制限されていたけど、喫煙所に関しては、少なくとも行政としては多分クレームが入らなければオッケー。もちろんいろんな人がいて、例えば"服についた香りが第3次受動喫煙だ"みたいな、そういうことを言う人もいるから、そういう人たちとどう向き合っていくかはまた別の問題だけど、基本的には陳情やクレームが来ない場所が作れれば、少なくともその場所を通ったり、その近くに住んでる喫煙者の生活は多少豊かになると思っている。

これは、移動自体が制限されたコロナ禍や、大学の講義の形態とは、みたいな大きな話ではなくて、単に1個あるかないかっていう、割と少数でも手に負える問題で、そこに持ってこれたのは結構よかったかなとは思う。ただ、これを増やしていくこと自体が目的というよりは、最終的にはある種の運動としてというか、意識改革が最初の目標だった。もちろん作れたらすごく嬉しいんだけど、単にいくつか作って終わりですっていうのはもったいない気もするんだよね。

4.社会が無条件に否定できない小さなものを作りたい

高野 :ASIBA2期全体に言えることだと思うんだけど、僕らの世代としてやっぱり大きな物語がどんどん機能不全になっていて、それに対して都市計画じゃなくてまちづくりとか、大きい公共施設じゃなくてちょっとした町のエレメントを設計します、とか、小さな誰も否定しないところから始めてそれを積み重ねましょうみたいな、なんとなくそういう流れがあるよね。僕も含めて、小さなもの、誰も否定できない小さなものを作りたいっていう欲求がすごいある。

だけど、やっぱりそれじゃ世の中変わらないし、かと言ってそれをシステムだったりとか、大きなものに接続した途端にいろんなところから否定されるようになる。それをみんな恐れちゃうし、僕自身も嫌だなって思うんだけど、でも、そうしないと、もっと主張しないと、世の中変わんないよね。それってみんなどう思ってるんだろうなって思う。

福本:コロナ前後で、ネット社会の様子も大きく変わってきていて、この間まで常識だったものが非常識になっていたりする。実際にとある行動を起こそうとすると誰かの利害とはバッティングするから、そこで叩かれることを恐れるよね、世代としては。いっぱいそういう例を見てきたし。ただ、それではいけないっていうのがわかっている世代でもあるとは思うから、怖い中で、どううまいこと言葉選んでやっていくかっていう感じだと思う。

高野 あらゆる意味で否定することもされることも慣れてないよね。みんないろんなことやるけど、結局何も変わってませんでしたみたいなオチがあるんだろうなって。

福本 その分ね、最近はある程度クローズドな場を作る動きもどんどんできてきてて、例えばASIBAっていうコミュニティを作ろうっていう動き自体もそうだと思うし、フェスを会場でやろうっていうのもある種そうだと思ってて、全部ネットに公開してやるんじゃなくて。もちろんネットで公開する部分もあるけど、フェスに来てもらう人だからこそわかる部分があるので、皆さんぜひ来てください、っていう感じなのかな。

高野 うん。そういう時に、最初から否定されるんじゃなくて、みんなが期待されて、愛されて、失敗していいんだよって言われながら頑張れる場作りはASIBAの責務なんだけど、その中にずっといてもダメで、やっぱ世の中に出なきゃいけなくて、そこの踏ん切りをみんながちゃんとつけないといけないなって思う。

榎本 ね、なんか出る時が1番試されるなって。

高野 :やっぱりその第1歩はフェスの時だよね。昨日森原さんと喋ってて、 「今これやってます」とか「これが好きなんです」っていうピッチもいいんだけど、じゃあ例えば1億円持ってるおじさんが来て、100万ポンって投資してくれるみたいなことを起こさなきゃいけなくて、そのための話って誰もできないよね。かろうじてWithvacかな。
そうしないっていう選択肢ももちろんあって、ASIBAとしては社会に対抗して自分の好きを形にできた人達の数を増やしましたってのは一種のKPIなんだけど、本当に今が嫌なんだったら出ていかなきゃいけない。実作がない建築家みたいなものになってしまう。

福本 そうね、チャンスを得ることができたら、立ち止まらずに推進力にしたいよね。

ASIBA FES2024 開催決定!

【ASIBA FES 2024】
「そのまなざしは『イマ』を超えるか」

建築・都市領域から未来を描き出そうとする若者が集まるASIBA FES。目の前の現実に挑戦するASIBAメンバーのまなざしは、この世界をどのように捉え、どこへ向かいたいと願うのか。ASIBA2期に参加した19のプロジェクトがそれぞれの言葉で、モノで、体験で、その先に見出した社会の輪郭を共有します。世代を越えて、組織を越えて、「イマ」の社会を越えて、ともにまなざしの先へ。複数の未来が交錯する場で、お会いしましょう。

日時:7/6(土) 12:00-20:00 ※途中入退場可
場所:温故創新の森 NOVARE (https://maps.app.goo.gl/EwKcC26QUyZ7qLyx8)
内容:ブース展示、ワークショップ、ファイナルピッチ、若手対談、NOVAREツアー、他

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