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Withコロナ時代の視点 連続インタビュー④「ガンダムの夢 テクノロジーを育てる」 橋本周司・早稲田大学名誉教授

   橋本先生と初めて名刺交換をした時、新鮮な驚きがあった。名刺には「GGCリーダー・工学博士 橋本周司 ガンダムGLOBAL CHALLENGE事務局」と記載されていた。ガンダム GLOBAL CHALLENGEとは、2020年夏に18mの実物大のガンダムを横浜・山下ふ頭で動かすプロジェクトである。GGC(global challenge.com)のホームページに、橋本先生は「35年の永い時を経て、世界中のガンダムファンの心に結晶したそれぞれの夢が、化学反応を起こして一つの現実になる。そして、また次の新しい夢が芽生える。それを私は見たいのです」と書いてある。
   ロボティクスの先端の研究をされてきた橋本先生とは企業や大学の枠を超えて<卓越した経営リーダーのための学び>を追求する人材育成塾・日本橋フェローセミナーを通して知り合った。

「第4の危機」に備え、テクノロジーの育て方、進む方向を見定める頑張りどころ

 4月10日の日本橋フェローセミナーZOOM会議で、仏経済学者、ジャック・アタリ氏が「新型コロナの対策ではテクノロジーが力を持っている。(withコロナの時代は)テクノロジーが権力をもってくる」と日経新聞のインタビューで答えた内容について橋本先生に聞いてみた。
 ――今回のパンデミックについて何を考えますか。
 「今回の感染症のショックと東日本大震災や戦争を対比して考えている。東日本大震災のときに、一時的に人と人のつながりが強くなり世の中が優しくなった。しかし、残念ながら定着するまでには至らなかった。その要因は経済だ。経済のドライブが働くともとに戻ってしまう。戦争では終結に向けて交渉する相手がいる。特定の地域に起こる自然災害には、域外から支援できる人がいる。しかし今おこっていることは、世界中で、同時に、逃げ場もなく交渉もできずに進行している。この難局を乗り越えたら人は何を学び行動様式を変えることができるだろうか。」
――(監視などで)テクノロジーが権力を持つことについては。
 「テクノロジーは何が可能か、それを判断して実現していく。テクノロジーは可能か不可能かには答えるが、良いか悪いかには答えを出さない。これを使う側の人間の問題と言えば、簡単であるが、テクノロジーをどう統御していくのかするのかだ。テクノロジーをバックアップ(統御)してきたのは科学だった。擬人化するようだが、テクノロジーは人間が何を望んでいるか、全体的な流れを分かっているようなところがある。『テクノロジーを動かしているのは人間でしょ。こんなことが望みでしょ』と答えを出してくる。テクノロジーの育て方、進む方向をしっかり見つめなければいけない。そこは頑張りどころである」
  「人類にとってより大きな問題である人口爆発や地球環境破壊はそこまで来ている。(大震災など)自然災害、戦争、感染症に加えて、(人口や地球環境など)第4の危機にどう備えるのか。テクノロジーは大きく寄与するかもしれないが、テクノロジーを抱え込んだ社会と人間はどう変容するのかをきちんと見ていかなければならない。人が望むことを実現するのがテクノロジーなのだから。」

「技術」と「科学」の相克      

 第2回(2019年11月9日)の日本橋フェローセミナーで、橋本先生は「テクノロジーと社会変革」「人はなぜ学ぶのか、なぜ何でも知りたいのか」のテーマで受講生と対話した。テクノロジーは一般的に「科学技術」と訳されるが、橋本先生は「科学」と「技術」の切り口で「20 世紀は科学が技術を抑え込んで、技術をリードしてきた特別な時代であったが、今後はまた技術が先を行く時代、即ち技術の一人歩きがまた始まった。AI (人工知能)やロボットと比べて『生きる意志を持った機械』である人間は、まさに生き残るために、世界が支配されている原理を知りたいと思い、学ぶのです」と静かに話された。
 私がかつて読んだ「人間にとって科学とは何か」(新潮選書、村上陽一郎著)には、「コペルニクス、ガリレオ、ニュートンは神学、哲学や占星術、数学などを研究した『哲学者』と自らを任じ、社会からもそのように認識されていた」と書かれていた。科学者という職業が成立したのは19世紀のヨーロッパと新しい職業であったが、古代ギリシアにおいてすでにその取り組みが「知識」と「技術」に分かれていたように、「科学」と「技術」は全く異なった道筋をたどってきたという。「科学」という言葉に、善く生きる「哲学」の含意を読み取れば、私なりに橋本先生の話はストンと腑に落ちる。

「動くガンダム」への挑戦は次の夢への起点

 ガンダム GLOBAL CHALLENGEは、実世界のロボット技術を仮想世界に向けて膨らませることによって、実物大の「動くリアルガンダム」の具現化に挑戦する。夢がなければ、人は遠くには行けない。現在の科学技術が実世界で実現できること-フィクションとの境界を明示して次の夢への起点としたいという。
 Withコロナの時代、橋本先生は「次に我々はどのような行動をすればよいのか。オープンソースソフトウェアのように一人ひとりがそれぞれの知恵を加えていく、そういう発信が世界中に広がれば、集合知になり人類の英知になっていく」と強調する。
 日本橋フェローセミナーはその一歩として4月28日(火)19:00-20:30、ONLINE(ZOOM)による合同セミナー「アフターコロナに向けて」を開催する。

橋本周司(はしもと・しゅうじ)早稲田大学名誉教授
 1948年生まれ。1970年早稲田大学理工学部応用物理学科卒業。同大学院理工学研究科を経て、1977年早稲田大学工学博士。東邦大学講師、助教授、早稲田大学助教授を経て、1993年より早稲田大学理工学部教授(組織改編により、2004年より理工学術院教授)。2006年より2010年まで理工学術院長。2010年11月から2018年11月まで副総長。
 2000年4月より2010年3月まで早稲田大学ヒューマノイド研究所所長。2018年3月に定年退職。確率過程の応用、画像処理、ロボティクス、音楽情報処理、などの研究を通して、人間共存ロボット、メタアルゴリズム、感性情報処理、ヒューマンインタフェースに興味を持つ。

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