暗渠が合流した話

このエントリーは「ゆる言語学ラジオ非公式 Advent Calendar 2022」12日目の記事として書かれました。
https://adventar.org/calendars/7611


三十代も半ばを過ぎたあたりから、人間関係の思わぬ繋がりに驚くことが増えるようになった。
行きつけのBARでよく会う常連と趣味の友人とが実は何年も一緒に二人で活動をしていることを知ったり、ずっと通っている小さなギャラリーにクリエイターの友人が全く別方向から紹介されてやってきたり、「〇〇さんと知り合って一緒に遊びました」とSNSに書くと「えっ、そこ繋がるの!?」というコメントで共通の友人がいることに気付いたりと、数えていけば枚挙に暇がない。
自分でも気付いていない繋がりはその数倍になるのではないか。

もちろん、歳をとるごとに知人友人は増えていくわけで、六次の隔たりを持ち出すまでもなくそのような繋がりも増えていくのが当然なのだが、当然だからといって驚かなくなるわけでもない。
私が参加してきたクイズイベントはクイズ法人カプリティオ主催のものが多かったが、彼等がゆる言語学ラジオのパーソナリティ二人と結びついたのは中々の驚きだった。
また、増えた知人友人から新たな世界を紹介されることも多く、詩のボクシングで知り合ったI氏に誘われてリアル脱出ゲームにのめり込んだのはその典型例だった。

そうやって趣味の世界と友人達を増やしながら楽しい日々を送るうちに、とあるYouTubeチャンネルと出会った。
前述したゆる言語学ラジオである。
パーソナリティの水野さんと堀元さんによる、知的好奇心をそそる内容と絶妙なふざけ感に魅了され、次々と動画を視聴するようになった。
内容に誤りがあったということで炎上しかけたこともあったが、誠実な対応で見事に火消しがなされ、かえって好印象を与える手腕に感心した。

しかし何本か動画を楽しむうちに、あることが気にかかってきた。
「あれ?この堀元って人、なんか知ってるような気がする……」
顔立ちもだが、堀元見というちょっと珍しい名前に見覚えがあるような気がする。
友人ではない。
ぱっと思い出せないくらいだから何度も顔を合わせているわけでもないだろう。
考え込むうちに突然ひらめいた。
そうだ。パワポカラオケの慶應ボーイだ……!

リアル脱出ゲームを運営するSCRAPは、リアル脱出ゲーム以外のイベントもいろいろと打っており、私も足しげく参加していた。
「ロマンチック理系ナイト」や「卒論ナイト」など、楽しくも実験的な企画が多く、新しいエンターテイメントを手探りしているような熱気があった。
私がクイズの楽しさを知ったのはカプリティオ代表の古川洋平さんが開催した「はじめてのクイズ」だが、これもSCRAPのハコで行われたイベントだった。
そして2016年3月、そのようなイベントのひとつ「パワポカラオケ選手権」にかつての堀元さんが出場していたのだ。

パワポカラオケとはアメリカ発祥の遊びで、ランダムに与えられたお題についてのプレゼンを即興で行い出来映えを競うものである。
規定の時間内に、規定枚数の画像を表示しながらプレゼンをしなければならないのだが、どんな画像が出てくるかは選手に知らされていないため、思考の瞬発力が問われる非常にスリリングな競技だ。
詩のボクシングへの参加をきっかけに自作詩の朗読をしていた私は、その場で言葉を紡ぎ出す即興朗読が大好きで、その流れからパワポカラオケにも選手として参加していた。
初挑戦のプレイで手応えを感じていた私は次の回にも応募し、イメージトレーニングを重ねていた。

そんなある日、私と同じ回に参加する選手をTwitterで発見した。
それが堀元さんだったのだ。
彼はパワポカラオケの自主練をしており、その動画をYouTubeにアップしているとツイートしていたのでリツイートしてみた。
今となっては驚くことに、それだけでリプライが届きフォローまでされてしまった。
現在は既にフォローは解除されているようだが、堀元さんのプレイに対して何も感想や指摘を送らなかった私は情報量がゼロだと判断されたのだろう。

そうこうするうちにパワポカラオケの開催日がやってきてステージに上がることとなった。
私はトップバッターで堀元さんはトリである。
さて堀元さんがどんなお題でどのようにプレゼンをしたのか、当然ながら読者諸兄姉は知りたいだろう。
だが、残念なことに全く憶えていないのである。
プレゼン前に司会者から「慶應ボーイなんですね」といじられていたくらいの情報しかないが、こんなものは当時の堀元さんのブログを読めばわかることである。
イベント後しばらくはWEB上に公式プレイ動画がアップされていたのだが、それもとっくに消えてしまった。
どうやらこの文章自体も情報量がほぼゼロなのかもしれない。
なお私は「名探偵が推理を披露している」という設定で語り始めたものの、最後の画像が出るまでお題の「ロボット」に言及することを忘れており、焦ってガタガタになるという体たらくだった。

その後、しばらくは堀元さんのツイートを読んで、突然始まる面白イベントやブログを楽しんでいたが、そのうち「もういっかなー」と思って「必ず読むリスト」から外してしまった。
そうして私からは見えない暗渠と化した堀元さんの流れは、それから5年後に突然私の人生に合流してきたのだ。
それに気付いた時の驚きと楽しさは格別なものだった。

世界の底には私に見えない無数の暗渠が流れている。
それは別々の場所で出会った友人同士を結んでいたり、全く違う支流から別れ出て私の川に流れ込んだりする。
そして、私が目を離してしまった流れも決して消えてしまったわけではなく、ある日思わぬ場所から姿を変えて合流することもままあるのだ。
だから、もしあなたが誰かに対して「もういっかなー」と思ってしまったら離れてみることもそう悪いことではない。
お互いが変化した未来に合流するかもしれないと思えば。


追記1
堀元さんが当時アップしたパワポカラオケ練習動画やブログの感想記事は特にリンクなどしていませんが、興味のある方は堀元さんのTwitterアカウントから「パワポカラオケ」で検索してみてください。

追記2
パワポカラオケの別の回にはカプリティオの古川洋平さんも選手として出場しており、その圧倒的な知識とMC力で何度か優勝しています。

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