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【26】ケイという子

1学期の終わる頃、ケイはだんだん学校に慣れてきて…

「もういいかな。学校。たまに行くくらいで」
なんて、またふざけたことを言い出した。

小さい頃からそうだった。

「行きたいって言ってたじゃん」という私に
「だって、毎日行くなんて聞いてないもん。幼稚園。」
なんて入園してすぐいう子だった。

幼稚園の水遊びだけは大喜びだったので、スイミングスクールに入ったときも。

「自由に水の中をもぐるのが楽しいのに。
なのになんでさぁ。バタ足で進むヤツ何度もしなきゃいけないの?
ずーっとそれだけして楽しいわけないじゃん」
と、すぐにやめた。

(私だって、全員が真面目にバタ足して真っ直ぐ泳いでる横で、
ただ、手の平を吸盤のようにしてビート板をつかみ、その下で、なんにもない水中を、水中眼鏡できょろきょろ眺めながら潜ってる人を習わせるほど、暇ではなかった)

小学校に入学するまで、ケイは田舎のぼろ屋に住んでいて。
ほとんど、庭ですごしていた。

青虫を捕まえてきては、家の中でみかんの葉をあたえたり。
トンボの幼虫(やご)を、勝手に水槽のなかに入れていて、
いつのまにか、トンボが水槽からでてきたり。

めずらしいものを全て持って帰るおかげで、
セミが羽化する瞬間にも立ちあえたりした。

「筋肉ついてるカマキリがいた!」
と外でケイの声が聞こえて
「え!!筋肉!?」
と驚いた私は庭にとびだしてケイをみた。

ケイはカマキリのついた枝を見せて
「え。木にくっちゅいたカマキリ…」。
「きにくちゅいたかまきり→筋肉ついたカマキリ」
聞き間違いだった。

どーでもいい。話しがそれすぎた。

とにかく、その頃まで興味のあるものがいっぱいで
毎日を「たいくつ」しなかったのだ。

小学生になって、マンション暮らしが始まって。
外に出なくなったケイが退屈しないように、
私は、体も鍛えられるようにと、
家の近くで通いやすい「空手」を1年生のときすすめた。

本人も、「かっこいいねぇ~」と見学。

壁にかけてある鏡のふちが、古くて少し錆びているのを指さして
「あれ。血だよさ。」なんて言うので、
どんだけ激しい空手だと思ってんのよって笑った。

通い出して、ぐんぐん上手になって。
あるとき大会にでた。
その後だ。

「ね。喧嘩を習うっておかしくない?やっぱり」

「大の大人が、子どもが喧嘩してるのをみて
『やれ!いけ!』ていうのおかしくない?」と。

空手と、喧嘩は違うよと話したが…

もう、次のお稽古の時、
「あ。今日ね、もう先生に
『よく考えたら、喧嘩を習うっておかしいからやめます』
って言ってやめてきたよ」
とすぐに帰ってきた。

あわてて、道場に行き、先生に
「すみません。説得しますので…」と言いかけたら、
先生は笑って
「あれ(ケイのこと)は、言い出したら聞かないタイプでしょ。
もう無理だと思います」
とにっこり笑って言ってくれた。

その後は、バスケを楽しそうというので、
4年生の終わりに、少年団に入った。
すごく楽しそうにプレーするし、
すばしっこくて、合ってるかもなって思った。

でも。
相手チームがゴールを決めても
「すっげーナイス!かっけー」
と大喜びするのだ。
真剣に勝負にこだわってる先輩に怒られても
「だってすごいじゃん?」て。

コーチに鍛えられるたびに
「スポーツってゲームじゃないの?
1ゲーム、2ゲームっていうじゃん。
楽しむんじゃないの?なんでそんな怒鳴るの?」
と、私に言うのだった。
「楽しくないんだったら、スポーツしてる意味がない」と。

私は、練習試合をのぞきに行くたびに、
他のお母さんたちが、真剣に自分の子どものチームを応援している(当たり前)のが伝わるので、
【楽しむ】ことを大事にしているケイが、
他のチームのシュートを喜んだりする姿をみて、
「すみません。ちょっとまだ、幼くて…」
なんて言い訳しながら、胃が痛くなりそうになっていた。

そして、転校を機にバスケもやめた。

話しを戻して…
新しい学校で、落ち着いてきて
また行ったり行かなかったりするケイになった。

毎朝の電話がまた私の憂鬱だったのだが…
優しく、毎日、根気よく誘ってくれていた担任の先生が
体調を崩し、新しい先生に変わった。

次の先生は。
ケイに合う先生だった。

「あぁ。いいですよ。元気なケイのとき登校すれば」と。
ケイも、もう帰るときに先生に
「明日休んで、明後日きます」みたいな感じで帰って来るのだった。

ケイが
「ね。フォースってなに?」
と聞いた。
「何?なんでそんなこと聞くの?」と言うと

「先生がね、俺だけに片手をあげて
『フォースと共にあらんことを』っていうの」

「何それ?」って調べると
スターウォーズのセリフらしい…

なんか、変わってる先生で、
ありがたいことに、その先生のおかげで
ケイは、6年生は
「学校に行きたいときだけ行く」
という夢が叶った。

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