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続 Lemonade(その2)〜チャリティしたいのか?相互扶助したいのか?それが問題だ〜

 行動経済学に基づいた試みとしてダン・アリエリーデューク大学教授を起用し、「ソーシャル インシュランス」という仕組みを導入した。保険契約時に、あらかじめユーザーが支援したいチャリティー団体を選び加入者で少人数のグループをつくり、グループで1年間保険請求しなかった場合、翌年の保険料をディスカウントされる上にそのチャリティ団体へグループから寄付される。グループ内の道徳面を利用することで加入時に正直な申告を促す効果(逆選択リスク)やモラル・ハザード(虚偽の保険請求など)を防ぐ効果が期待されている。

レモネードでは家財保険料の25%のみ徴収し、余った掛け金を利益として留保しない構造となっている。従来の保険会社は「保険金の支払いは損失」と考え保険金を請求する顧客と利害対立していたが、保険会社への不信感は顧客の粉飾請求の動機になりやすかった。「ソーシャルインシュランス」の仕組みでは支援団体への寄付が減るため粉飾請求の動機が働きにくく、粉飾防止策を講じるよりも寄付をしたほうがコストは安くなるとされる。なお、グループでプールした資金より請求が多い場合は外部の保険会社から払われる。

同じテーマを選択したユーザーは、Peer(仲間)となりつながる。いわば、SNSとしての側面も併せ持つ。こうして、

つながったユーザー同士は互いに保険金が支払われるような事態にならないようにサポートし合う。なぜなら、保険金が支払わなければ、その分寄付金として社会貢献ができるためである

◯チャリティのジレンマ
 チャリティとは、「慈善。慈善の心や行為。特に、社会的な救済活動」という意味がある。そもそも、そのグループに集まった人の一番の目的はなんなのか?チャリティなのか。いや、保険ではないのか。保険なのであれば、そのグループの中の誰かに、何らかの不幸や損失があった場合に助けあうという「相互扶助」の精神がそこにはある。それがこの仕組みの場合、いつしか「チャリティ第一主義」にならないのかという話である。自分が保険金を請求することによってチャリティがなくなる(あるいは減ってしまう)という本末転倒な事態・マインドにならないか。Peer(仲間)としてSNSのように繋がっているだけに、昨今問題となっている批判や攻撃の的になってしまうというリスクも存在する。(保険金請求というセンシティブ情報は、Peerには共有されないと思うが…)チャリティを強調して注目を集めたサービスが、チャリティに足をすくわれるというジレンマもあるのではないかと危惧している。


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