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会社を作るなら、合同会社か株式会社か

成功しつつある個人店舗やフリーランサーのお客様と人間関係が出来てきますと、私の場合は職業柄か「ゆくゆくは会社にしたいという気はあるんですよ」という話題になりがちです。

自営業になった以上、やはり充実した社長の姿は夢であり目標ですよね。

そんな話題でたまに出るのが「先生、株式会社と合なんとか会社って、どちらがいいんでしょうねぇ」というお言葉です。

株式会社は有名ですよね。日本で生活している以上、物の売り買いを通して何らかの株式会社と接点を持っていない成人はいらっしゃらないでしょうし、いろいろな雇用関係で株式会社で働いていらっしゃる方も多いでしょう。一般の方が「会社」と言った場合はほとんどが株式会社をイメージすると思います。

一方で、たまに「(資)〇〇商店」とか「(同)スタジオ□□」などといった名刺をご覧になる方も多いと思います。(株)とはどう違うのか、メリット・デメリットは?
このあたりを商法を系統だっては学んでいない方向けにざっくりとまとめたいと思います。

株式会社は有名なのですが最も発達して複雑な組織なので、先にそれ以外の会社組織からご説明させていただきます。

1:まず合なんとか会社ってなんなの?:持分会社

「現在」設立することのできる営利企業組織で、株式会社以外のものは3種類あります。合名会社:略して(名)、合資会社:略して(資)、合同会社:略して(同)で、この3種類をまとめて「持分会社」と商法の言葉で呼んだりもします。

この3種類は株式会社とどう異なるかと言いますと「資本金を出資した人が直接会社も経営する」ということです。

あまり会社組織に詳しくない方ですと「それって当たり前じゃない?」と思われるかもしれません。小企業なら株式会社でも「出資者=経営者=社長」が多かったりしますからね。

ですが、株式会社は柔軟性がありまして「社長としては引退しても、出資した権利=役員の人事権などはそのまま持っていることができる」のです。持分会社はこれができません。経営者の権利を譲ると完全に会社に口出しができなくなります。

それじゃあ株式会社のほうがいいんじゃないの?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。それに対しては「当初の出資者=設立者」が将来的にどういった組織にしていくかの考え方次第でメリット・デメリットが変わります、と私ならお答えします。

2:3つの持分会社の違い

ではメリット・デメリットについて説明したいのですが、やはりメリットの正確性を上げるために、先に3つの持分会社の違いについて触れさせてください。

※持分会社の出資者=経営者のことを商法では「社員」と呼ぶのですが、社員という言葉は一般的には労働者をイメージさせてしまうので、ここではあえてわかりやすく出資者という言葉で説明を続けます。

ア:合名会社は出資者=経営者が「全員」、会社が借金を返せない場合に自分たちの個人財産をつぎ込んでまで返済する義務を負います。
※これを商法では「無限責任」といいます。

イ:合資会社は出資者=経営者の「一部が」、会社が借金を返せない場合に自分たちの個人財産をつぎ込んでまで返済する義務を負います。
※「一部」の比率は決まっていません。一人でも無限責任の出資者がいれば〇です。

ウ:合同会社は出資者=経営者全員が、会社の借金が返せなくても、会社がつぶれる=出資分が無くなるだけで個人財産まではつぎ込まなくても大丈夫です。
※これを商法では「有限責任」といいます。

この違いを見て、「え? じゃあ合同会社が一番安全じゃないの?」と思われたあなた、私もそう思います(苦笑)。
3つの持分会社の設立の手間はほとんど変わりませんし、行政書士のような専門家に設立を支援してもらってもコストも変わらないでしょう。

この3つの持分会社のうち、合同会社(=全員が有限責任)は後から(平成18年)追加制定されたもので、それまでは無限責任の出資者が必ず存在する合名・合資会社しかなかったのです。

後述しますが、持分会社の「株式会社に対する」メリット・デメリットは3社とも似たようなものです。合同会社が制定されていなかった平成18年以前には、持分会社のメリット・株式会社との違いを生かすため合名・合資会社の意味もありました。

あえて合名・合資会社の合同会社に対するメリットを考えるとするならば、会社として借金をする場合に、貸す側が借りる側の経営者の個人資産も「自動的に」担保にできるので、回収リスクが(相対的に)小さく、借金をしやすいのかもしれません。

しかし出資者全員が合同会社のように有限責任としても、借りる合同会社の返済能力に貸し手(例えば銀行)が不安を感じる場合は、普通に経営者の連帯保証契約を求めてくると思います。そう考えると合名だろうが合資だろうが合同だろうが、倒産時に個人資産にまで責任が及ぶのは実質的に同じわけです。実際には借りやすさというのは五十歩百歩だろうなと想像します。

そうなると個人的には、平成18年以降は合名・合資会社のメリットなど形骸化しているのだろうと考えます。

3:合同会社のメリット

前置きが長かったですが、上記の仮定をもとに持分会社=「合同会社」と想定したうえで、株式会社と比べた際のメリットを考えてみたいと思います。

(同)〇-1
定款(=国に明示する会社経営のルール)の内容に縛りがないので、商業登記(=国に会社を登録すること)するための最低条件が書かれていればOK

(説明)株式会社は出資者が経営者と異なる可能性も高いため、出資金が経営者に好き勝手されないように、出資前に読める定款での会社情報の記載が、商法で厳密に定めた様式で透明性が高いものにしなければなりません。
合同会社は出資者全員=経営者全員なので、出資金の動かし方は早めに全員にわかります。なので国に登録するための最低限の様式さえクリアしていれば、比較的柔軟な定款の内容にできるのです。
シンプルに言えば、合同会社のほうが定款を作るのが楽です。

(同)〇-2
株式会社に比べて設立コストが安い

(説明)(同)〇-1の理由から、株式会社は定款を商業登記前に公証役場で手数料を払って様式が正確か証明してもらい、それからやっと法務局に商業登記してここでも手数料を払います。細かい金額は割愛しますが、株式会社は単純に合同会社より登録費用の総額が高いです。
(行政書士や司法書士などに払う手数料も高いでしょう)
合同会社は定款は公証する必要はありません。いきなり法務局に持っていって商業登記できます。
単純に設立のための手数料の総額は安いですし、専門家に頼む手数料も楽な分安いでしょう。

(同)〇-3
決算書(貸借対照表・損益計算書)まで作らなくても税務申告できる

(説明)一応メリットかもしれませんが、今はパソコンの会計ソフトで簡単に決算書まで作れてしまうので、形骸化したメリットかもしれません。
これから商売しようという人で全部手書きで会計する人はレアだと思いますので……

(同)〇-4
出資者全員に責任があるので、情熱を持って経営しやすい?

(説明)ここまで来ますと精神論の世界ですが……従業員を雇わず出資者だけで小さく会社を始めようぜという意味では、自分たちの出資分をパーにしないためにも営業などにも身が入るのではないでしょうか。
出資と経営の一体化をポジティブに生かす場合のメリットです。

実質上は(同)〇-1~2が合同会社のメリットでしょうね。

4:合同会社のデメリット

それに対しまして、合同会社の株式会社に対するデメリットです。

(同)×-1
出資者一人一人に経営の決裁権があるので、信用できる人間からしか出資を受けられない

(説明)合同会社も1人だけではなく、複数名で出資して複数名が経営者になることができます。
この際注意しなければならないのは(定款の書き方によりますが)、原則的に全員が社長の権限があるということです。出資者全員が会社のお金を動かしたり勝手に借金ができます。

これは一歩間違えれば危険なことで、自分の知らないところで他の出資者が横領などを簡単に(もちろんばれたら罰されますが)できてしまうということです。
この意味では「お金を出すよー」と言われて、ほいほい喜んでお金を入れてもらうというのは、合同会社の場合よくよく考えなければいけないということです。
昔から同じ持分会社である合名・合資会社が家族しか出資者にしないという慣習は、こういう理由からきていたものでしょう。

(同)×-2
新しい出資者を迎え入れるのに現出資者全員の同意が必要なので、意見の相違の可能性を考えると組織を大きくしていく上では不利

(説明)(同)×-1のような事態を防ぐために、合同会社では(原則的に)今の出資者「全員」の了解がなければ新しい出資者を増やすことができません。
安全は安全なのですが、あなたが会社をどんどん大きくしていこう=儲けて出資もどんどん募ろうという気持ちがある場合、他の出資者が思ったより保守的で「そこまでしなくても……」という気持ちであれば、今の出資者の中からしか追加出資は入れられないため、アクティブなビジネスチャンスを逃す可能性がないとは言えません。
合同会社を株式会社に途中変更することは国に手数料を払って手続きすれば可能ですが、それですら現在の出資者全員の合意が(原則的に)必要です。

※先ほどから「原則的」という言葉を都度入れていますが、これは定款に「この出資者一人で決定できる」などという意味の特約をつければ例外的に独裁もできるからです。ただこの特約に他の出資者全員が納得して捺印しなければそもそも成立しませんが……

(同)×-3
出資のみしたい人を受け入れられない

(説明)これも(同)×-2に付随したデメリットです。「出資はしたいが経営なんて面倒くさくて嫌」という人から出資してもらえません。
出資者会議の議事録に問答無用で捺印だけしてもらうという運用をしている人もいるかもしれませんが、行政書士としてはお勧めしません。
そんな脱法的なやりかたをするなら、素直に株式会社にしましょう。

またそんな投げやりな出資者にも対外的には会社の経営権はあるので、いきなり気が変わって勝手に会社の名前で借金をされていたなどというリスクもあり得ます。

5:株式会社のメリット

では裏返しの形になりますが、株式会社の合同会社に対してのメリットとデメリットを挙げてみます。

(株)〇-1
出資者には「総会において」経営者に対する人事権や経営方針の議決権があるが、日々の経営に対しては細かくは口を出すことは不可能に等しいので、意図にこだわらず出資を受け入れやすい。

(説明)(同)×-1の裏返しです。ご存じの通り株主は株主総会でしか影響力を行使できません。そのため経営者は日々ほとんど口を出されずに、出資だけしてもらって経営に専念することができます。不可能に「等しい」と書いたのは、日々の経営一つ一つに株主総会で議決ということも法的には不可能ではないですが、株式会社のメリットを殺して時間ばかりかかって非合理的なので、まず行うことはないでしょうということからです。

(株)〇-2
出資者「全員」の合意でなく、過半数~3/4などの賛成で経営方針を決めていけるため、会社にドラスティックな変化を起こしやすい。

(説明)良く考えれば合同会社よりは色々と発展させやすいということです。その代わりマイノリティーな出資者の考えは通りません。不満があれば出資分(=株式)を欲しい他の人に合意した価格で売却して、その会社とは縁を切ることができます。

(株)〇-3
会社に稼いでほしいが、口は出さず金だけ出して勝手に頑張ってほしいという気楽な人から出資してもらえる。

(説明)(同)×-3の裏返しです。証券会社を通して株の配当や売却差益を狙う人はこの意図が多いでしょう。

(株)〇-4
合同会社に比べると、組織として大きいような良いイメージを持たれやすい。

(説明)
法的にはなんらそのような制限はありませんが、出資分を外部に求めやすいという意味では、株式会社の方が大きな資本金にしやすいのは事実です。
統計上は株式会社のほうが資本金が大きい会社は多いでしょう。

6:株式会社のデメリット

株式会社設立の相対的デメリットです。

(株)×-1
定款の必要要件が合同会社よりも細かく、また公証役場でお金を払い認証してもらう必要がある。

(説明)見ず知らずの人にも出資してもらおうという仕組みが株式会社ですので、閲覧される定款に第三者が判断しやすい統一ルールが定められています。

(株)×-2
官公署への納付金額・士業への報酬額も、合同会社と比較すると高い。

(説明)合同会社よりは種々のルールが厳密なため、作成・チェックする側の労力が大きくなることで諸々の経費が高くなります。

(株)×-3
税務申告にあたり、決算書(貸借対照表・損益計算書など)まで作らなければならない。

(説明)
これは現代においてはほとんど形骸化したデメリットかもしれません。前述のとおり、今のほとんどの事業者は法人個人を問わず、会計ソフトを使っているか記帳業務を外注していると思うので、日々の会計業務を手書きで行っているところはまれだと思います。
決算書は会計ソフトからすぐ出てきますので、これは無視できる机上のデメリットに近いでしょうね。

(株)×-4
出資分の譲渡が自由なので、発起人や経営者にとって望ましくない人物に出資分が集まり、会社を奪われる可能性がある。

(説明)
小説やドラマの題材にもなりますね。敵対的買収という話です。上場されている会社でしたら証券会社を通じての買収は特に話題になりがちですが、非上場であっても株式会社の出資者は相対取引で誰にでも出資分を売却可能ですので、乗っ取られたくないならば出資分(株式)の発行数と自己資本比率には気をとめておくべきでしょう。

(株)×-5
役員に任期があるため、定期的に登記をし直す手間がかかる。

(説明)
大きいデメリットではないですが、株式会社の役員は定期的に決めなおさなければなりません。定款に定めがなければ2年ごとですが、この頻度は定款で最大10年まで延長することができます。
その都度、新役員選任の議事録を取締役全員の押印のもと作成し、法務局に商業登記を行わなくてはならない手間と費用がかかります。

7:有限会社について補足と、まとめ

以上、思いつくままに合同会社と株式会社の特徴を挙げてみました。

※また2006年以前に設立できた「有限会社」という法人形態もたまに拝見しますね。ミニ株式会社というイメージでは、今の合同会社と少し似ているかもしれません。
株式会社と名乗ることを強制されていませんから、13年以上存続しているという証で、逆に手堅い経営のシンボルとしてそのままにされている有限会社さんも多いようです。

起業当初の事業形態の選択肢は悩ましいものです。税金や社会保険との関係もありますし、資格職やフリーランスで起業される方も最近は増えています。
そういった方々が次のステップとして法人化を考える場合、上記のようなメリット・デメリットを考えながら選んでいただければと思います。

また合同会社としてスタートし、後に株式会社へと(コストを支払って)変更することも可能です。
同じ有限責任会社ですから、個人事業を卒業しようと思った際には、まずは合同会社でも良いのではないかと個人的には感じます。
事業の画期的なアイデアに大きな資金力が必要で、夢の実現のために株式会社にステップアップできたとなれば最高ですね。

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