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心地のよいハグが欲しい

一人暮らしの部屋で、自分の吐く息のせいで二酸化炭素の濃度が高い感じがして、ご飯を作る気力もなくてひたすらビスケットを頬張っていたとき、思った。

「スキンシップが足りてない」

自分の腕で自分をハグしてみたけれど、低体温の私の腕は、頼りなくてヘビが巻き付いているみたいだった。

ただただ人肌が恋しい。


応急処置として、整体を予約する。

自分が人見知りだからか、アセクシュアルというセクシャリティのせいだからかは分からないけれど、私は異性だろうと同性だろうと、誰かがいるところでは完全に緊張を解くことができない。相手が性的な目線を向けてきたら、すぐに逃げられるような心持でないと不安だ。

整体でも、「身体の力抜いてください~」と言われて、逆に身体が強張ってしまった。うーん。なんか欲しかったものと違う。


次に、美容院を予約する。

顔に白い紙をかけてもらって、シャンプーされるのはわりと安心する。座ったままの姿勢で、軽く肩をマッサージされるのも好きだ。でも、これもなんだか欲しかったものと違う。


帰り道、少し整った身体と、新しい髪型を手に入れた私は考える。私が欲しかったものは何だろう?

私が欲しいのはハグだ。あたたかくて、安心できる、心地のよいハグが欲しい。挨拶代わりのハグじゃなく、互いの存在を確かめ合うような、互いの存在を受け入れ合うような、ハグが欲しい。

「その先には、セックスがあるよね?」とセクシャルな人は言う。

「そういう性的なものはいらない、ただハグだけが欲しい」と私は言う。私は自分のセクシャリティを過度に押し付けているのだろうか。

私はたぶん、自分のかけがえのなさを認めてくれる人からハグが欲しい。私も相手のかけがえのなさを抱きかかえてハグしたい。この願いは、我儘だろうか。




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