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a.schoolはこれからどこへ向かうのか?探究学習と、さらにその先 【校長いわたくのアタマノナカ #1】

みなさん、こんにちは。a.schoolでインターンをしている、現役大学三年生の大森友暁(もりりん)です。

僕がa.schoolでインターンを始めたのはちょうど2年前。今ではa.school代表の岩田さん(いわたく)と、日々の授業運営についてアツく議論を交わす仲です。一方で、ここにたどり着くまでの紆余曲折ってどんなことがあったのだろう、とか、裏ではどんな次の一手を仕掛けているのだろう、とか、もっと根掘り葉掘り聞いてみたいことがたくさんありました。

ということで、インタビュー記事を書くという大義名分のもと「いわたくのアタマノナカ」を開放するシリーズ、始めます!記念すべき第1回テーマは、「a.schoolはこれからどこへ向かうのか?探究学習と、さらにその先 」。創業7年目を迎え第2創業期に入ろうとしているa.schoolと、今教育業界で注目を集めている探究学習の変遷について、聞きました。

<登場人物>

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岩田拓真(いわたく):
株式会社a.school(エイスクール)代表取締役校長。1985年京都に生まれ、滋賀で育つ。京都大学総合人間学部卒、東京大学大学院工学系研究科修了(専門分野は、脳科学とイノベーション)。大学院在学中に、ひとり親家庭に対して動機づけ教育を行うNPO法人Motivation Makerを仲間とともに創業し、理事に就任。Boston Consulting Groupにて経営コンサルタントとして勤務した後、a.schoolを創業。探究学習の塾「a.school」を運営するとともに、様々な創造的な教育コンテンツの開発に携わる。自分自身も新しいことを学ぶのが大好き。一児の父。

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大森友暁(もりりん):
早稲田大学教育学部3年。株式会社a.schoolインターン(Mentors)。a.schoolの小学生コース「なりきりラボ」「おしごと算数」のメンターとして大学1年秋より活動。現在はT-KIDSシェアスクール柏の葉校おしごと算数講師(2019年9月~)・ゑもんキッズプロジェクトwith a.school講師(2019年10月~1月)など、講師としての活動もスタート。本連載記事「いわたくのアタマノナカ」担当ライター。

1. a.schoolのこれまで: 探究市場創出とともに

もりりん:創業から6年以上が経ちましたが、これまでやってきて率直にいかがですか?

いわたく:まず、創業期と状況が全然違うのは、「探究学習」の市場が立ち上がりはじめたことかな。a.schoolをつくった時は、正直あんまり注目されていなかったし、そもそも探究学習という言葉自体が確立していなかったというか。5年ほど前に探究学舎の宝槻さん、ネクスファの辻さんらと「探究の市場・文化をつくろう」って夢を語っていたんだけれど、それが本当に実現しつつあるなぁと。探究系の教室もずいぶんと増えてきたし、感慨深い。

自分たちが探究市場をつくってきたという自負もあるけど、世の中的に流れが来たのは、特に2020年の教育改革の影響が大きいと感じている。社会が変化し、テクノロジーがどんどん発展するにつれ、教育もようやく動き出した。正直スピード感は遅いと思うけれど、昔と比べて、教育を変えないといけないという危機感が増してきているのはいいことだよね。

もりりん:なるほど!それは大きな変化ですね。でも、探究学習ってなんのことかよくわからない先生や保護者の方もまだ多いですよね?

いわたく:そうだね。プログラミングや英語がこれからますます重要になるということは、ここ数年でかなり一般的な認識になったけれど、探究学習についてはまだまだ。プログラミングや英語というスキル以上に探究は学びのOSだから絶対重要だと思って創業したんだけれど、実際は探究学習っていうふわっとしたものよりプログラミングや英語のほうがわかりやすくて、圧倒的に先行して広がった。

そこは僕の読みが甘かったところ。子ども目線での学習体験の作り込みばかりに目がいってしまって、探究学習の面白さや価値を周りの大人たちに伝える努力が足りなかったんだと思う。今、a.schoolとして必死にブランディングやマーケティングに力を入れているのは、その反省から。

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(2018年2月に開催した「探究ラーニングラボ」というイベントで、探究学舎の宝槻さん[写真中央]と、ライフイズテックの小森さん[同左]と。)


2. 探究学習のこれまで: 探究30年の歴史

もりりん:そういう見方もあるんですね。そもそも、探究学習ってa.schoolや探究学舎ができるまでほとんどなかったんですか?

いわたく:いや、あったよ。大きなうねりになりつつあるのはまさに今だけれど、僕らを超える先駆者は日本にたくさんいる。すごくざっくり言うと、探究第1世代、探究第2世代と僕はとらえていて、a.schoolや探究学舎は第2世代。第1世代は、1996年に炭谷俊樹さんがつくったラーンネット・グローバルスクールや、2004年に久保一之さんがつくった東京コミュニティスクールなど、公教育の外にできたオルタナティブスクールが多い。中高だと、堀川高校の探究科という事例も。2000年前後の話。

もりりん:僕が生まれた頃ですね。

いわたく:そっかー、もりりんにとっては大昔だよな(笑)。僕は高校生くらいだった。2010年頃にできた第2世代は第1世代と比べると、日中通うスクールというよりも、習い事や学童などの放課後に通うビジネスとして(もしくはNPOとして)、民間教育市場に登場した印象がある。

あとは、総合型より特化型が多いというか、それぞれのプレイヤーが個性や専門性をより強く持っているよね。ストーリーといえば探究学舎、アウトプットといえばa.schoolだし、探究と受験なら知窓学舎とか、算数の探究といえばmath channelとか、子ども哲学のアーダコーダ、宇宙探究に特化した株式会社うちゅうなんていう会社もある。そんなふうに市場が広がってきて、プレイヤーも多様化しているんだよね。

最近は既存の大手教育企業も探究学習に注目し始めていて、これから第3世代に入っていくのかもしれない。探究市場の規模としてはこれからが成長期だしね。


3. a.schoolの探究学習: アウトプット型探究とは?

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もりりん:多様化するのはいいことですよね。ちなみに、「アウトプット重視」という探究スタイルは創業時からずっと一緒ですか?何か変化はあったんですか?

いわたく:僕が作りたいと思う学びの根本は、創業時からほとんど変わっていないかな。ただ、6年間の試行錯誤を経て、授業の型が整って「なりきりラボ」・「おしごと算数」という2つのコースができたのは大きな変化。

今では信じられないと思うけれど、その時の子どもたちの様子や反応にあわせて、授業中に内容をアップデートするということを創業期はよくやっていた。資料もその場で作って。僕にしかできない授業だった。

それが、今では数年間常に新しいテーマを提供できるようなカリキュラムがあって、一方で運営体制としても新卒で魅力的な講師が育ちつつあるからね。大分時間がかかってしまったけれど、これまでの6年間は開発フェーズだったなと思っていて、ようやくa.schoolなりの探究スタイルを体現するような、体系的なプログラムができた。

一言で探究学習といってもスタイルは様々で、a.schoolの授業はインプットよりもアウトプット重視。インプット型の先鋒は探究学舎さんで、科学や歴史のストーリーを軸に置いた「探究ショー」がとっても魅力だけれど、a.schoolは全然違って、子どもたち一人ひとりが「探究プロジェクト」に挑戦するアウトプットスタイル。

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アウトプットスタイルが難しいのは、探究するテーマが一緒でも、子どもによって考えることや作るものは様々だから、授業を想定通りに進められないところ。むしろ子どもたちからは、こちらの想定を上回るようなアウトプットが出るほうが理想的だと思っているし。

そういう意味では、ワークショップの中に余白を残さないといけない。作り込みすぎると、子どもたちの思考や創造の幅が狭まってしまうから。「余白のデザイン」がa.schoolの授業には大切で、子どもたちから無数の反応を引き出して、受け止める度量が必要。そういう、学び手とのキャッチボールを楽しめるコンテンツをつくるのが面白くて、「ああ、これが僕たちが大事にしたいスタイルなんだな」とようやく気づいた。時間がかかったなぁ(苦笑)。

もりりん:余白のデザイン!僕もa.schoolでメンターとして授業をやっていて大事だなぁと感じるところです。同じテーマで授業をしても、毎回違ったものになるのが面白いですよね。

いわたく:そうだね。知り合いが「喫茶ランドリー」っていうカフェをやっているんだけれど、それこそ余白のデザインが秀逸で参考になる。カフェを訪れる人々の能動性をこれでもか、と引き出していて。教育業界の人って(教えたいという気持ちが強くて)細部までデザインしたがる人が多いから、最近は異分野から学ぶことが大事だなーってすごく思っている。

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(森下にある、喫茶ランドリー。街中でも学び場でも、人が一番輝くのは、自分の「好き」「やりたい」が発露するとき。写真出典


4. 探究学習の未来: 探究する子が大人になる頃

もりりん:では、ここらへんで過去から未来の話に移したいんですけれど、探究学習には今後どんな可能性があると思いますか?探究学習が広がった世界ってどんな感じなんでしょう?

いわたく:子どもも大人も関係なく、誰もが自分の興味あること・好きなことをどんどん実践する。そして、好きなことが仕事に繋がって、そのプロとして活躍する人が増える。探究学習はそんな世界を拓く可能性をもっていると思う。

今でも、スポーツ界や将棋界・囲碁界などでは、プロとして活躍する子どもがいるよね。それが、もっといろんな職業で増えていってほしい。もちろんプロレベルになるにはどんな分野でも時間がかかるけれど、10〜15歳くらいだったら、子どもでもプロとして活躍できる領域は他にも色々あるんじゃないかな。12歳のプロ研究者とか、10歳のプロデザイナーとか。今はそれが当たり前になっていないだけで。

探究学習は、自分の「好き」を徹底的に突き詰める追い風になれると思うんだ。子どものうちから社会と繋がりを持って、「好き」を発信したり「好き」で他人とつながったりすることができたら、そんな自分を好きになれるし、自信にもつながる。学びでも遊びでも、「やるべき」ではなく「やりたい」からやる。誰かに決められた人生を歩む人より、自分の好きなことを追い求めて生きる人のほうがイキイキしているんじゃないかな。

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(「なりきりラボ:起業家・経営者」の授業を経て、手作りアクセサリーの販売に目覚めた女の子。時には街のお祭りにも自ら出店して、好きなことで稼ぐ楽しさを満喫!)


5. a.schoolのこれから: 開発から普及へ

もりりん:さて、a.schoolは今第二創業期を迎えているとのことですが、今後どこに向かっていくんでしょうか?

いわたく:「開発から普及へ」、これがまず大きな変化。先ほども言ったけれど、この6年間で自分たちのつくりたい探究学習の体系をある程度形にすることができた。そして、a.schoolの探究学習プログラム「おしごと算数」「なりきりラボ」は2019年度グッドデザイン賞を受賞して、社会的な評価もいただくことができた。

なりきりラボおしごと算数ロゴ

今後は、この学びをもっといろんな子どもたちに広げていかないといけないと思っている。授業の開発に集中した6年間だったから、ここから一気に探究学習を広げる仕組みをつくりたい。僕らがやらずに誰がやる、と思うくらいに、与えられた使命というか。

具体的な広げ方は模索中だけれど、既に「なりきりラボ」「おしごと算数」の授業を導入して下さっているパートナー企業が全国12都府県30教室(2019年10月現在・開校準備中含む)いるので、まずはこの環を拡大していきたい。

a.schoolは、学びのコンテンツづくりや子どもたちの学びのサポートなど、学習体験デザインとそのデリバリーは得意なんだけれど、教室運営に特別長けているわけではないから、教室ビジネス展開に強みのある全国各地のプレイヤーと組むのは大事だと思っていて。もちろん、(新しい学び場の実験的要素を持つような)直営校も緩やかに増やしていきたいけれど、探究学習の市場を日本全国、そして海外に開拓していくには、パートナーシップがキーになる。

もりりん:「開発から普及へ」それはまた新たな挑戦になると思うのですが、そのために今後しないといけないことは何でしょうか?

いわたく:探究学習を広げる仕組み化において、まずはa.school内に普及推進チームをつくらないといけないと思っている。今までは授業開発チームと教室運営チームの2つがメインだったけど、普及に力を入れていくこれからのフェーズにおいては、違うスキルや経験を持った仲間が必要になる。そういう意味で、僕の最大のミッションの一つは新しいチームづくりだね。

そして、授業開発チームとしては、さらにコンテンツを磨く必要があるし、教室運営チームとしては、パートナー企業の講師の方の授業の質を上げるために、長年授業を運営していく中で見えてきた授業の運営方法、子どものメンタリング法などを整理して、伝えていかないといけない

探究学習では、講師(ファシリテーター)の存在は非常に重要。先日いただいたグッドデザイン賞では、「探究学習は一般的に講師依存度が高くその普及方法が難しい。その社会的ニーズに応え、難易度の高いマニュアル化にチャレンジしている点が素晴らしい。」と評価をいただいたんだけれど、今後より一層磨きをかけていきたいところだね。探究ファシリテーターをどんどん育成していきたい!

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(最近は、メンター[大学生・社会人インターン]からファシリテーターに挑戦する若手も登場。かくいう私・もりりんもその一人です。)

あと、「なりきりラボ」「おしごと算数」の普及以外にも方法がある。例えば、リクルートさんや河合塾さん、明光義塾さんなどの大手教育企業と連携して新しい授業開発のサポートをしたり、家庭向けの探究学習教材を開発したり。塾にとどまらない様々なアプローチで、a.school流の探究学習を普及させていく。自前でやれることに閉じてしまうと、本当の意味での広がりはつくれないしね。

もりりん:岩田さんの頭の中にはたくさんの作戦があるんですね!僕もワクワクしてきました(笑)

いわたく:ありがとう。そういう意味だと、a.schoolは今後ベンチャー感が増すと思う。これまでじわじわ着実に広げてきたのとは違って、ここからは一気に、事業推進に僕自身も力を注いでいきたい。

これにあわせて、a.schoolのビジョンも変えていこうと思っている。探究学習塾のカラーが強かったa.schoolだけれど、今後は探究という枠をも超える新しい学びをどんどん作っていきたい。言うなれば、「探究学習塾」から「未来の学びのプロデューサー」への脱皮。常に新しい学びのトレンドを作っていきたい。

もりりん:そうなんですね!僕はてっきり探究学習をとことん突き詰めていくんだと思っていました。数年後、何に取り組んでいるかわからないですね。

いわたく:「こんな学び、あったらいいな」という原点が、たまたま探究学習だっただけなので、常に初心に戻って新しい道を模索したいな。

もりりん:もちろん社会的なニーズも大切ですが、まずは自分がどんな学びをつくりたいか心に強く描くこと、それが大切ですよね。実際に子どもに授業を提供するときに、その想いがあるかどうかでかなり変わってきますしね。僕も探究学習に縛られず、こんな学びがあるといいなあと考え続けたいと思いました。

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(つい先日行われたa.schoolビジョン会議メンバー。いわゆる正社員だけでなく、プロの教材開発者として活躍するフリーランス、パートナー事業者から、僕のような大学生インターンまで、組織や立場を超えて理想を語れる仲間が面白い!あ、女性メンバーも絶賛募集中のようです。笑)

編集後記 ~アタマノナカを紐解くということ~

2年も働いて、今回初めて岩田さんにインタビューしました。改めて話を聞くと「そんなことを考えていたの!」と驚くことがたくさんありました。特に、ビジョンを変えようと思っているという話はとてもびっくりしましたが、新しい学びのプロデューサーとしてのa.schoolにワクワクした自分がいて、今後がとても楽しみになりました。

インタビュー企画はこれからも続きますので、ぜひみなさんも僕と一緒に「いわたくのアタマノナカ」を紐解いていきましょう!第2回のテーマは、「探究学習の仕組みとしてのグッドデザイン 〜探究フランチャイズ事業の展開〜」の予定です。今回少し話題になった探究学習を広げる仕組み化について、より深くいわたくのアタマノナカを覗きます。次回もお楽しみに!(取材・編集:もりりん)


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