校長いわたくのアタマノナカ表紙

探究学習は本当に広がるのか?〜グッドデザイン賞を取ったa.school PARTNERS事業の可能性〜【校長いわたくのアタマノナカ#2】

みなさん、こんにちは。a.schoolでインターンをしている、現役大学三年生の大森友暁(もりりん)です。

校長いわたくのアタマノナカ#1はいかがでしたか?記念すべき第1回は、a.schoolと探究学習のこれまでとこれからについて聞きました。

続く第2回のテーマは、「探究学習は本当に広がるのか?〜グッドデザイン賞を取ったa.school PARTNERS事業の可能性〜」。2019年度グッドデザイン賞を受賞した「なりきりラボ」と「おしごと算数」。この2つのプログラムの特徴と普及に向けた仕組み、そしてa.school PARTNERS(探究学習のフランチャイズ事業)をどのように展開していくのか、その展望について聞きました。

<登場人物>

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岩田拓真(いわたく):
株式会社a.school(エイスクール)代表取締役校長。1985年京都に生まれ、滋賀で育つ。京都大学総合人間学部卒、東京大学大学院工学系研究科修了(専門分野は、脳科学とイノベーション)。大学院在学中に、ひとり親家庭に対して動機づけ教育を行うNPO法人Motivation Makerを仲間とともに創業し、理事に就任。Boston Consulting Groupにて経営コンサルタントとして勤務した後、a.schoolを創業。探究学習の塾「a.school」を運営するとともに、様々な創造的な教育コンテンツの開発に携わる。自分自身も新しいことを学ぶのが大好き。一児の父。

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大森友暁(もりりん):
早稲田大学教育学部3年。株式会社a.schoolインターン(Mentors)。a.schoolの小学生コース「なりきりラボ」「おしごと算数」のメンターとして大学1年秋より活動。現在はT-KIDSシェアスクール柏の葉校おしごと算数講師(2019年9月~)・ゑもんキッズプロジェクトwith a.school講師(2019年10月~1月)など、講師としての活動もスタート。本連載記事「いわたくのアタマノナカ」担当ライター。

1. グッドデザイン賞受賞の理由:普及を前提にデザインされた、探究学習プログラム

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もりりん:グッドデザイン賞受賞、おめでとうございます!

いわたく:ありがとう!

もりりん:プログラムがデザインの賞をとるなんてことがあるんですね。驚きました。

いわたく:そうだよね。僕もびっくりしている。最近グッドデザイン賞の対象が商品だけじゃなく、サービスやNPOなどの活動の取り組み、ビジネスモデルなどまで広がっていて、今回a.schoolが受賞できたのもその流れの一つだと思う。

グッドデザイン賞の審査員からは、こんな評価を受けたんだ。

思考力・創造力・表現力を育む探究型学習はこれからの教育現場での広がりが求められているが、講師依存度が高くその普及方法が難しい。その社会的ニーズがありながらも難易度の高いマニュアル化にチャレンジしている点が素晴らしい。 

この評価を受けて、「なりきりラボ」と「おしごと算数」が、色々な学び場で活躍する講師(ファシリテーター)にとって使いやすい教材になっているんだなと改めて確信できた。設計しているときからその点は重視していたんだけれどね。講師依存度が低いってことは、探究学習を全国に広げる可能性があるってことだから、その点を評価されたって思うと嬉しいね。

2. 「探究学習」は型をつくりにくい?

もりりん:ほんと、嬉しいですよね!

いわたく:探究学習はもともとスケールアウト(普及)と相性が悪いものだと思っていて。知識を授けることに重きを置いた従来の授業は、授業の流れや教材に一定の型があることで、比較的質を高く保ったまま普及がしやすい。

一方で探究学習は、一人ひとりが自分の「好き」や「興味」に従って学ぶことを大切にするから、講師は目の前の生徒の個性やその場の雰囲気にあわせて唯一無二の授業をつくりがち。もしくは、講師のカリスマ性に依存した、再現性が低い授業になってしまうか。

探究学習を無理やり型にはめようとすると、探究型の授業が持つダイナミズムがなくなってしまう。個別化を内包した探究学習には、普及に向かないというトレードオフがあるんだよね。だからこそ、普及の仕組み化に挑戦する必要性を感じていたんだ。その壁をぶち破る第三の道を作れないかなぁと。

他にも講師目線では、探究的な授業を作るのって楽しいんだけれど、準備がとても大変なんだよね。一人ひとりの講師が面白くて個性的な授業を作れたらそれは素敵なことではあるんだけれど、社会的なコストが高い。本当の意味で探究学習を広げるには、誰かが授業開発コストを引き受けることで、現場の講師が生徒の探究を直接支援することに集中できるような、役割分担の仕組みが絶対に必要だと考えたんだ。

この「探究学習の仕組み化」というチャレンジはなかなか難易度が高く、まだ道半ばではあるけど、a.schoolなりの工夫がある程度カタチになってきた。例えば、「なりきりラボ」と「おしごと算数」は、全体のコンセプトや授業の流れがしっかり設計されていて、それに従って授業を進められる。ただ、それは全体の7割くらいのイメージで、残り3割は講師の裁量で自由な進め方ができる。つまり、講師依存度の問題を取り除きつつも、そこに参加する生徒のニーズにしっかり答えることのできる設計になっているんだ。

3. 「探究ファシリテーター」を育成するには?

もりりん:なるほど、7割設計・3割講師のプログラム・教材づくりを心がけているんですね。そうした設計をするにあたって、例えばどんな工夫をしているんですか?

いわたく:まずは授業運営ガイドを充実させている。授業全体の目的・構成の解説や、各授業のタイムライン、授業で必要な物品一覧など、授業準備に必要なものを教材と一緒に作っている。教材はスライド資料なんだけれど、スライドごとの進行ガイドも載せているよ。一つひとつ丁寧に読み進めれば授業のイメージができるようになっているから、「これなら自分でも授業できるかも・・・!」と思ってくれる人が多い。

もりりん:とはいっても、講師にもある程度の能力が必要なんじゃないですか?

いわたく:もちろん。ただ、知識やスキル以上に求められるのは、講師自身が探究者であるかということ。子どもたちに探究学習を届ける講師が、そもそも探究心を持っていなかったら、探究的に生きる面白さとか成長感を伝えられないよね。だから僕は、講師が探究的になれる育成システムを作ろうと思っている。

そのために、今は、オンラインで講師が交流できる仕組みを作っている途中なんだ。例えば、授業でやるワーク内容の類題を、講師に事前課題としてやってもらう。事前課題を繰り返すことで、講師自身がどんどん探究的になっていく。ほかには、同じ教材を使っている全国のパートナー同士が、「こうやって授業を進めたよ!」「こういう悩みがあるんだけれど…」とインタラクティブに交流して、切磋琢磨しあう。こうしてまずは講師自らが楽しく学び続ける習慣ができると、自然と探究の文化が定着して、子どもたちにもそれが染み渡ると思う。

そんなふうに、大人も子どもも一緒になって探究の担い手になることで、探究学習を広げていきたいんだ。

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(a.school MENTORSの月次研修にて。大学生も探究者になる!)

4. 「探究パートナーシップ」で広げる

もりりん:教材や講師育成の仕組みがだんだん整ってきていることが分かりました!前回の記事でも、今後は「開発から普及へ」シフトしていくというお話がありましたが、探究学習をどのように普及させていきたいと考えていますか?

いわたく:今後はパートナー事業「a.school PARTNERS」を拡大して、a.schoolに共感してくれる地域のプレイヤーを増やしていきたい。いわゆるフランチャイズ展開だね。

前回記事より:
いわたく:a.schoolは、学びのコンテンツづくりや子どもたちの学びのサポートなど、学習体験デザインとそのデリバリーは得意なんだけれど、教室運営に特別長けているわけではないから、教室ビジネス展開に強みのある全国各地のプレイヤーと組むのは大事だと思っていて。もちろん、(新しい学び場の実験的要素を持つような)直営校も緩やかに増やしていきたいけれど、探究学習の市場を日本全国、そして海外に開拓していくには、パートナーシップがキーになる。

a.schoolの立ち上げ期からここまでの道のりにずっと付き合ってくれたのは、岡山県岡山市にあるカスタマイズド保育園のearth8。僕が起業して2〜3年くらい経った頃に、earth8を卒業して小学生になった子どもたちに届けたいということで、まだ実績もなにもない開発段階のプログラムを導入してくれた。もともと探究的な文化がある保育園だったから、子どもたちにとってもいい学びの接続ができて。earth8のおかげで、その後名古屋や兵庫にも教室ができて、最近では海外展開の話も出ているんだ。a.schoolにとってはお客さんなのに、探究的な学びの価値をどう伝えていこうとか、どんな仕組みにしたら他の事業者さんとも連携できるかとか、立場を軽く乗り越えて二人三脚をしてきた同志のような存在。

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(earth8さんの子どもたち。アウトプットのレベルがいつも高いんです!)

最近だと、特定非営利活動法人Chance For All(以下CFA)と共同出資で、Learn For Youという新しい会社を作った。Learn For Youは、学童の空き時間や土日の時間を利用して、探究学習とAIによる効率的な教科学習を行う塾事業の会社。CFAは現在都内で民間学童を8校舎展開しているんだけれど、今回Learn For Youを立ち上げることで、学童の教室を一部お借りして「なりきりラボ」「おしごと算数」を提供していくことになった。CFA代表の中山さんは、地域に必要とされる学童を100校舎つくる!と宣言されているので、一緒に探究を広げていきたい。

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(Learn For Youの吉中社長)

あと、とある県で数十教室を運営している地域大手の塾と提携することも決まっている(詳細は来週発表予定!!)。これからも学童や塾を中心にパートナーシップを組んで、全国、そして海外も見据えて探究学習を広げていくつもりだよ。

もりりん:どんどん広がりそうで僕も楽しみです。ずばり、a.school PARTNERS事業のビジョンは…?

いわたく:まずは5年で全都道府県制覇が目標。どこにいても最先端の探究の授業が受けられるようにしたいな。今は全国12都府県30教室(2019年10月現在・開校準備中含む)なのであと35道府県だね!そしてあわよくば五大陸制覇。これにはさすがに10年はかかるんじゃないかと思うけれど、世界を舞台に挑戦したい。

もりりん:どこにいてもa.schoolの授業が受けられる!探究学習が根づく日も近いかもしれませんね。

5. 普及への手応えは?本当に広がるか?

もりりん:今のところa.school PARTNERS事業に手ごたえはありますか?

いわたく:さっきも言った通り、導入校数やエリア浸透率的にはまだまだ。開発に随分時間がかかってしまったからね(苦笑)。a.schoolを始めた当初は、今のおしごと探究シリーズ以外にもいろんな種類があったし、サービスも小学生から中高生まであったんだよね。あれもこれもやりたくなってしまって、サービスを絞りこめていなかった。6年もの歳月を要してしまったけれど、「おしごと算数」も「なりきりラボ」も目標としている職業タイトル数に近づいてきたし、やっと本格的に事業推進に移れるかな。

でも、最近問い合わせはとても増えてきていて、全国各地の教室でトライアル授業を実施し始めている。そういう意味では、普及の可能性は強く感じている。手応えはあるよ。

あと、今のパートナーさんの様子を見て感じるのは、a.schoolの授業を導入してもらうことでその事業者さん全体に探究の文化が広がるっていうこと。パートナーさんは、探究学習以外にも、教科学習や英語・プログラミングなどの授業をやっている場合が多い。探究学習を取り入れることで講師自身が探究者になると、他の授業も少しずつ探究的になっていくんだよね。これは実際に導入してみて分かったこと。探究は学びのOSだと僕は考えているんだけれど、パートナー事業を通じて、全国の教育事業者に探究的な文化が広がっていくことをひそかに狙っているよ。

もりりん:なるほど!探究学習が広がるだけではなくて、探究文化も広がるんじゃないかという視点は興味深いですね。

いわたく:そうだね。その過程で、探究学習を経た生徒が社会人になってどんな活躍をしているのか、様々なストーリーが浮かび上がれば、探究学習塾の存在感も上がっていくんじゃないかと思う。今の学習塾業界は進学塾が圧倒的に多くて、それに対する最大のニーズは受験合格。受験合格っていう結果は分かりやすいよね。ただ、受験ってみんなが思っているより、人生に占めるウェイトはそこまで高くないと思っていて。それより、好きなことが見つかった・好きなものに没頭したという経験のほうが、人生に本質的な影響を与えるはず

もりりん:僕も、好きなことに没頭する経験は人生のどこかで必要だと思います。今は大学三年生の僕ですが、もっと小さい頃に好きなことを見つけてどんどんやれていたら、全然違う道を歩んでいたんじゃないか、とも。全国の子ども達が探究学習を通して、好きなことを見つけ、それをやりたいこと、そして仕事に繋げていく。探究パートナー事業拡大のその先にある社会が楽しみです。

編集後記 〜全国に広がれ、探究文化〜
今回お話を伺って、岩田さんや教材開発チームが経験してきた「普及する探究教材開発」の苦労を垣間見ることができました。最近は僕も講師として、実際にその教材を使って授業をしているのですが、授業のアウトラインが決まっていて、ワークシートも揃っているので、あとは自分がどう進めていくか考えるだけで済みます。これが当たり前のように感じていましたが、そうではなかったんだなー(笑)。
そして、ついに普及フェーズに入り、社会に探究文化が根付いていくとどうなるんだろうとワクワクしました。探究学習を通じて自分の好きなことに没頭し、好きなことに自信が持てるようになる。そんな人であふれる社会が来れば、一人ひとりが輝く未来も近いのではないかと思いました。
次回の校長いわたくのアタマノナカは、「まち・公共空間・公共施設と学び 〜東急とa.school〜」の予定です。校長いわたくがパーソナリティを務めるANDONラジオを記事化します。公共施設や公共空間でもっと自由な学びができないか?まち全体をデザインする不動産ディベロッパーだからこそできることはないか?そんな話が飛び出す予定です。次回もお楽しみに!

(おまけ)イベント情報

岩田拓真のANDONラジオ 荻野章太さんと考える「公共空間と学び〜未来の教育づくり〜」

日時:2019年11月12日(火)19:30〜21:00
場所:おむすびスタンドANDON(〒103~0023 東京都中央区日本橋本町3‐11-10)
前売りチケット:1,500円
チケットのご予約はこちら→
https://peatix.com/event/1351449/view

<ゲストプロフィール> 
荻野章太
1984年生まれ。ドイツ・デュッセルドルフ出身。積水ハウスにて不動産コンサルタントとして活動した後、国内最大級の美術見本市「アートフェア東京」にてコーポレート・リレーションズを担当。併せて「TOKYO ART BOOK FAIR」「東京国際写真祭」に携わりながら、新進気鋭の写真家たちの作品集出版に特化した出版社「lemon books」を立ち上げる。その後、3歳~小学校低学年の子どもたちを対象にしたアートワークショップを研究・企画運営する「art labo」のディレクターとして幼稚園や小学校、科学館にて活動。2016年6月、発達がゆっくりな未就学児を対象にした福祉施設「すこっぷ」を立ち上げ、園長として、アーティストと共同で企画運営する表現療育クラスの開設、行政・保護者対応、施設管理等を担当。2018年に東急株式会社へ入社。大田区池上に事務所を構える城南センターにて不動産コンサルタントとして活動する傍ら、池上エリアリノベーションプロジェクトを担当。


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