怪我の好評【ショートショート#007】
みらいみらい、あるところに三郎という二児の父がいました。三郎は家族と自然を愛する「頼もしい」父親です。
三郎の趣味は日曜大工。日曜日には必ず、車を停めているガレージの前に木材を広げ、トンカチやノコギリで何かつくっています。家にあるイスやテーブル、本棚、二人の子どもの学習机など、木で作られたものは全て三郎によるものです。
ある晴れた日曜日の朝のことでした。
「ねえ、お父さん、キッチンの上から重たい鍋を取るのに不便だから、いい具合の踏み台を作ってくれる?」
三郎の妻、美恵子がリクエストをすると
「おお、そういうことなら、軽くて頑丈な踏み台をすぐに作ろうじゃないか」
三郎は張り切って、美恵子の身長とキッチンの上の棚の高さを測り、30センチメートルくらいの台をつくることにしました。
「パパ、なにしてるの?」
末っ子のマサオが話しかけると
「今、設計図をかいているんだよ、見るかい?」
「うん!見る!」
と、三郎はマサオを呼び寄せ、詳しく設計図について説明をはじめました。一通り説明が終わると、三郎は材料の切り出しにとりかかりました。
「ノコギリはな、しっかり押さえて、引くときに力を入れるのがコツなんだ。」
と言いながら、リズムよくノコギリを引きはじめました。その手際の良さに驚いたマサオは、
「パパすごい!バーチャルじゃなくても上手にできちゃうんだね!」
と大きな声。得意になった三郎は、
「もちろんさ。バーチャルはいろんな事がなんでもすぐにできちゃうけど、こっちはうまくなるのに時間がかかるんだぞ。だけど、そこが、面白いんだな。」
と自慢げに言いました。
「いいなーはやくやってみたいな!」
マサオはもっと見ようと三郎のもとへかけ寄ると、
「あっ!!!危ない!!!」
目の前にあった木材につまついだマサオは、転んで膝を擦りむいてしまいました。
「うぇーん、痛いよー。」
泣いたマサオに三郎は優しく声をかけます。
「マサオ、大丈夫かい。でも、ナイスな失敗だね。転んじゃったけど、こうやって転べるのもバーチャルじゃないからこその面白さなんだよな。」
おしまい。
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