イグアナ13

私は立ち上がりキッチンでコーヒーを入れる。ザッハトルテに合いそうなコーヒー。考えた挙句、モカブレンドにした。モカだけだと酸味がキツすぎるようなきがしたから。少し柔らかい優しい香りを加えたのだ。

マグカップにコーヒーを注ぎ、テーブルに運び、皿ザッハトルテを一つ一つ乗せる。

「甘い物は別腹!」
私は座って、ひと口頬張った。チョコのほろ苦さと甘さが絶妙なバランスで大人の味が広がった。

幸福の笑みが零れる。

「この幸せそうな顔がたまらなく好きだ。」

真一郎は顔を赤くする。
私は、ケーキを食べる手を止めた。
「何?もしかして、私告られてる?」
真一郎は、まっすぐ私の目を見つめる。

「優子さんとリアルに会ってまだ間もないけれど、チヤットで長い間、同じ時を共有して、こんなに趣味の合う人いないって、いつも思ってた。チャットでも、真面目で一生懸命なとこは文章の中にヒシヒシ伝わってきてた。だから、ずっと会いたかった。今回、こんな形で、ぶっ飛びな事になって、また、優子さんの魅力を再確認したんだ。だから、早く仕事見つけなきゃって思ったんだ。」
私は口をあんぐり開けて、何も言えなかった。
世界にたった1人でいい。私の事を理解してくれる人がいたら、どんなに幸せだろうと常々思っていた。まさかこんなに近くにいた奇跡。私はいつの間にか涙目になっていた。

「ありがとう。そんなふうに言われたのはあなたが初めてだよ。私もあなたがすきです。優しさと強さと誠実さを持っているあなたが好きです。私を理解してくれる人がいるだけで、世界は、明るく色を出すのね。」
真一郎の目にも光るものが見えた。

しばらくの間、ケーキを食べ、コーヒーをすするおとが続いた。

コーヒーカップを両手でもち、口火を切った。

「私思うんだけと、真一郎さん、もしかして、お父さんのカフェ継ぎたいんじゃない?前に言ってたでしょ!若い時は都会出たい。その続きがふっと頭の中にうかんだの。何年か後に田舎に帰ることを。」
真一郎は、目を丸くする。
「そう思ってた…優子さんに会うまでは。だけど優子さんが僕の意志を変えたんだ。田舎に帰るってことは優子さんにもう会えなくなることだ。僕には、田舎でカフェを継ぐより大切なものを見つけてしまったんだよ。」

私は笑顔のまま、顔を横に振った。
「離れていても心は通じる!私、決めた。カフェで修行するわ。そうして1人前になって真一郎さんのところに行く!どう?」

「確かに、優子さんはコーヒー通だし、料理の手際も良い。カフェに向いてるかも。」
「じゃあ、決まりだね!あっそうだ。真一郎さん、誕生日いつ?私来月24なの。もしかして同級生かなぁって思ったんだ。」
「僕は8月5日だ。真夏に生まれたんだよ!」
やっぱり私の予想は的中した。
「ってことはうちの母の旦那とも同級生かぁ。何だか奇跡感じちゃう。」
「来月誕生日なの?何かプレゼントしなきゃね。」

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今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。