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『かわいい女』 作者:レイモンド・チャンドラー

こんな日があるものだ。出っくわす人間がみんな一人前ではない。鏡で自分の顔を見直したくなる。

レイモンド・チャンドラーの長編五作目である本書は、前作『湖中の女』から6年を経た1949年に世に出たものだ。
その間、著者はハリウッド映画に携わっていたという。
そこで得た経験を活かしたかったのか、それとも映画界のきらびやかな表面に隠された虚飾に満ちた内実を知り、嫌気が差したのだろうか。物語は、中盤からハリウッド映画界に関わっていくのだが、それまでの作品ではあまり見かけることのなかった性的な表現、描写が結構な割合で書かれている。

物語は、田舎町から出て来た垢抜けないオファメイ・クエストという娘が私立探偵フィリップ・マーロウを訪ね、一年前にベイ・シティに出た兄の行方が分からなくなったので探して欲しいと依頼するところから始まる。
最初からオファメイに不実なものを感じていながらも、依頼を受け、彼女の兄オリンの捜索を始めたマーロウは、様々な登場人物と出会う。
その中にはアル中もいれば、恐喝者もいれば、ハリウッド女優や医師、ギャングもいれば、お馴染みの警察も、そして勿論死人もいる。
これらの登場人物たちが絡み合い、意外にも複雑に物語は進行し、それだけ死体の数も増えていくのだった。

前作『湖中の女』が、第二次世界大戦中に書かれたものだった為か、ちょっと暗い雰囲気の作風だったのが、本作ではだいぶ派手さやワイルドさが目立ち、いかにもパルプ・マガジン的だ。ひょっとして、当時の流行りにでも関係しているのだろうか。
主人公のフィリップ・マーロウも、タフガイさを取り戻し、警官にも検事にもギャングにも屈せず、依頼人に不利になるならば法律までも無視するという、自分のルールに則り行動をしている。

また、冒頭に載せた様な軽妙な記述も数多い。
大体が、『かわいい女』という題名である。原題は『The Little Sister』、訳すれば『妹ちゃん』とでも言うところか。
しかし、勿論のこと、彼女は『かわいい女』ではあり得ない。


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