見出し画像

『ブルー・ダリア』 作者:レイモンド・チャンドラー

本書は、1946年制作のアメリカ映画『青い戦慄』(The Blue Dahlia)の脚本を書籍化したものである。執筆したのは、ハードボイルド作家のレイモンド・チャンドラー。
チャンドラーは、作家としての活動の或る時期、ハリウッド映画界に於いてシナリオライターを手がけていたのだが、この作品は他人の小説などを脚本化した物ではなく、彼のオリジナル作だ。
パラマウント映画の当時のドル箱スターであったアラン・ラッドが三ヶ月後に陸軍へ徴兵されてしまう為、一ヶ月以内にアラン・ラッドの出演作をクランク・インさせる必要があった。
その時に、上手く執筆がいっていない小説があり、映画の台本に売ることを真面目に考えていると、タイミングよくチャンドラーがこぼしていたのが、「ブルー・ダリア」だった。
パラマウントはこれを買い取った。
小説としての下地があったので、チャンドラーは三週間でシナリオの前半部分を書き上げた。この時点で早速撮影の段取りが組まれ、さらに三週間後に撮影開始となり順調に進んだが、一方でシナリオの進行は捗らないでいた。
結末が決まっていなかったのだ。
ストーリーとしては、やはり殺人事件が起こり、犯人は誰か、というハードボイルド・ミステリーである。
カメラがシナリオに追いつこうかという頃、行き詰まったチャンドラーは、このままでは永久に書き上げられないと深刻な様子で言った。
撮影所で素面ではこの仕事を続けるのは不可能なのだと力説し、自宅で酒を飲みながらならば絶対に完成させると約束したのであった。
この驚くべき提案を製作側は受け入れた。
そこから絶食状態で、酒だけを頼りにチャンドラーはシナリオを完成させた。

これらの事柄が、この映画の制作に当たっていた人物が当時を振り返った記述として本書に併載されている。
また、編集後記として、チャンドラーとハリウッドの関係についての解説まで付け足されている。
シナリオ自体楽しく読んだのであるが、それに加えて作家の生活やその人間性など、作品だけでは分からない興味深い付録がたっぷりと付いていたことは、思わぬ収穫であり、なかなか嬉しい。

こんな経緯を以て完成したシナリオは、ジョージ・マーシャル監督によって、ほぼ修正することなく撮影され映画化された。
そして、この脚本はアカデミー賞にノミネートされたのである。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?