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『経営感覚を整えるためのカンのメンテナンス』 作者:冨松誠

著者が、中小企業診断士として多くの中小企業の経営者と接してきた中で感じたことがある。経営者は本質を見抜く力や経営の感覚に優れている。いわゆる「カン」が働くと言うのだ。
著者の様な外部の専門家が詳細に分析した結論と、経営者の感覚値とが一致することも珍しいことではなく、蓄えてきた経験則に基づいたカンによって判断し、企業を成長に導いているのが中小企業の経営者なのだと言う。
ところが、社長のカンは諸刃の剣なのだとも述べる。抱いている経営感覚と、実態である経営数字がいつの間にかズレてしまっており、実情にそぐわない間違った選択や施策を図ってしまうことで、経営に危機を及ぼしてしまうケースが少なくないと言うのであった。
例えば、或る事業は売上も利益率も高く、重要な事業と捉えていたのだが、分析すると実は資金繰りを悪化させている元凶であったりと言う、一見「そんなバカなこと無いだろう」と思える様なことが有るのだと言う。
いったい何故、カンに鈍りが生じてしまうのか。その原因は「思い込み」。思い込みが誤った前提条件をもたらし、それに基づいた対策、対応が経営を危うくさせる。
本書は、様々な角度から会社の現状を分析して正しい前提条件をあぶり出し、経営者のカンが適正に働ける様にすることで、会社を危機的状況から挽回させる手立てを紹介している。

書名を見て、「どういうこと?」と思い手にした本書であったが、序文辺りではちょっと軽く見ていた。数字が読めない、貸借対照表や損益計算書を目にしても読み解けないことを問題視している様な内容と感じたからだった。
私は、商業簿記二級を持っており、経理作業もこなせるので数字を分析することに苦は無いが、確かに数字に弱い経営者というのも存在する。そして、概ねでも良いから数字として自社の収益や資産状況を理解出来ないと、経営判断に誤りを招きかねない。実に危なっかしいことなのであると思っている。
なので、そんなこと判ってるんだよねとばかりに思いながら読み進めると、そんな単純な話でもなかったことに気付かされた。ごめんなさい。
実際に著者が携わった八社の事例も取り上げての記述は、やはり事実を元にしているだけあって面白い。当の社長さんたちにとっては、それどころではなかったのだろうけど。

また、業績が上り調子の時には思い込みによる間違いは露呈し難く、落ち込んだ際に問題が生じてハッキリとしてくると言う。つまり、好調な時にこそ問題の種は既に生まれているのだ。
ああ、こわいこわい。


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