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埼玉県の進学校Mapその2(南部・東部)

※この記事は、『埼玉県の進学校Mapその1(西部・北部)』の続きです。

Map(南部・東部)

【南部・東部のMapのうち、さいたま市周辺を拡大したもの】

※西部・北部の進学校Mapは「埼玉県の進学校Mapその1」の記事に掲載。
※地図は『MANDARA』で作成。
※赤字は公立進学校、青字は国立・私立進学校。♂を付けた学校は男子校。下線を引いた学校は、中高一貫教育を行っていることを示す。

都内か、それともさいたま市内か

埼玉県全体では、県民の約1割の生徒が県外の高校に進学する。南部・東部はその割合がとくに高く、その多くは東京都の私立高校を志向する。これは、隣接する東京都に多数の私立進学校があることが影響しているが、埼玉県南部・東部の10%erが軒並み東京都に流出しているかと言えば、そうではない。県庁所在地であるさいたま市内には、さまざまな個性を持った進学校が林立する。さいたま市内の中学校卒業者数(2017年3月。以下同様)は埼玉県南部・東部の約3割にすぎないが、進学校の定員ベースではこの地域の約7割を占めているのだ。

さいたま市内で長い歴史が際立つ公立進学校と言えば、男子校の埼玉県立浦和高校(さいたま市浦和区)と、女子校の浦和第一女子高校(さいたま市浦和区)である。前者は旧制中学校、後者は旧制高等女学校を前身とし、いずれも開校から120年以上経過している。この2校が長らく、埼玉県公立高校受検生の学力最上位層を惹きつけてきたが、2000年代以降は共学の大宮高校(さいたま市大宮区)がここに割って入った。現在、埼玉県で俗に“県立御三家”と言えば、埼玉県立浦和高校、浦和第一女子高校、大宮高校の3校を指す。

埼玉県には、埼玉県立浦和高校や浦和第一女子高校をはじめ現在まで別学を続けている学校が多くあるが、戦後まもなく共学化された高校もいくつかあった。大宮高校やさいたま市立浦和高校(さいたま市浦和区)、浦和西高校(さいたま市浦和区)などがこれに当てはまる。とくに、さいたま市立浦和高校は県内で2番目に公立中高一貫校となったことで、進学校として一定の人気を集めている。また、戦後の1957年に開校した共学の蕨高校(蕨市)は、さいたま市外にある共学の県立高校の中では最も合格難易度が高い。もっとも、蕨高校はさいたま市南区との境界ギリギリに位置し、実質的に「さいたま市の高校」と言っても差し支えない。実際、蕨高校の入学者の約4割はさいたま市の生徒である。

さいたま市外の公立高校に目を向けると、春日部市にある春日部高校が、男子校の進学校として確固たる地位を築いてきたことがわかる。ところが、春日部高校の入学者のうち約4割はさいたま市の生徒が占めている。春日部市が属する東部からさいたま市の高校に通う生徒もかなり多いので、春日部市は実質、さいたま市と通学圏を共有していると言える。春日部高校について言えば、男子校に入りたいが埼玉県立浦和高校に合格するのは少し難しい生徒に積極的に選ばれていると考えられる。一方、女子校に入りたいが浦和第一女子高校に合格するのは少し難しい生徒は、春日部女子高校(春日部市)ではなく、川越女子高校(川越市)を選ぶ傾向が強い。

春日部市から東武鉄道で約30分北上した加須市周辺や、春日部市の南隣に位置する越谷市周辺では、さいたま市への流出およびさいたま市からの流入がないわけではないが、春日部市に比べるとぐんと減る。加須市周辺の10%erの多くは不動岡高校(加須市)に、越谷市周辺の10%erの多くは越谷北高校(越谷市)に進学する。不動岡高校には隣接県協定を利用した、群馬県や茨城県からの越境通学も目立つ。一方、三郷市や八潮市から越谷北高校に電車通学するのは少し面倒なので、東京都の私立高校や、隣接県協定を利用して千葉県の公立高校に進学する生徒が目立つ。

高校入試で“県立御三家”を狙う生徒は、北辰テストで70前後の偏差値を確保した上で、県内の私立高校を併願受験することが多い。とくによく併願される私立高校は、栄東高校(さいたま市見沼区)や開智高校(さいたま市岩槻区)、大宮開成高校(さいたま市大宮区)の3校である。この3校はいずれも共学なので、男子校を希望する生徒には川越東高校(川越市)、女子校を希望する生徒には淑徳与野高校(さいたま市中央区)がよく選ばれる。埼玉県の私立高校は学力別にクラスを細かく分けていることが多い。進学校Mapでは合格難易度(正確には、北辰テストで“確約”が得られる基準)を鑑みて、開智高校高等部からは普通科TコースとSコースを、大宮開成高校高校部からは普通科特進選抜先進コースを、淑徳与野高校からは普通科選抜Aと選抜Bを、それぞれ進学校に選定した。さいたま市外の公立進学校の志望者も、上記のさいたま市内にある私立進学校を積極的に併願するが、越谷北高校の志望者は春日部共栄高校(春日部市)、不動岡高校の志望者は昌平高校(杉戸町)もよく併願する。

強まる中高一貫の波

埼玉県民は、同じ首都圏の東京都・神奈川県・千葉県に比べると中学受験熱が穏やかだが、埼玉県の中高一貫校は極めて多くの志願者を集めている。顕著なのが栄東中学校で、2014年度以降9年連続で、志願者数が延べ1万人を超えた。

首都圏の中学入試では入試解禁日が取り決めされていて、東京都と神奈川県の私立中学校は2月1日、千葉県の私立中学校は1月20日に設定している。一方、埼玉県の私立中学校はこれを1月10日に設定しているため、首都圏で最も早く入試が始まる。そこで首都圏の中学受験生の多くは、本命校を受験する前の“受験慣れ”をするために、埼玉県の私立中学校を受験しているのだ。中学受験業界ではこのことを「前受け」というが、栄東高校は、首都圏の私立中学校、しかも難関とされる中学校の前受け校として人気がある。受験生の多くは他校が本命なので、定員の何倍もの合格者が出るが、それでも合格は簡単ではない。結果として栄東高校は、例年10人以上の東京大学合格者を出す学校となっている。

開智高校や大宮開成高校、淑徳与野高校も、中学入試で将来の10%erを確保している。この3校では附属中学校からの内部進学者は、高校からの入学者とは卒業まで別クラスとなる。さいたま市緑区にある浦和明の星女子高校に至っては、高校入試を行っていない完全中高一貫校だ。浦和明の星女子中学校もまた、首都圏のいわゆる難関女子中学校受験生の前受け校として有名である。

埼玉県の私立中学入試が盛り上がっているのは県外からの受験生が多いからであって、埼玉県民はそこまでではなかったのだが、最近はそうとも言えなくなってきた。公立の中高一貫校が増えてきたからだ。2019年にはさいたま市大宮区に、さいたま市立大宮国際中等教育学校が開校した。高校からの入学者がいない完全中高一貫校であり、海外の大学に進学しやすいカリキュラムを敷いた国際バカロレア認定校であることを売りにしている。また、2021年には川口市立高校(川口市)が附属中学校を開校し、中高一貫教育を始めた。川口市はさいたま市に次ぐ県内2位の人口を持つものの、これまで進学校Mapにおける進学校は無かったが、今後、川口市立高校附属中学校に10%erが集積する可能性は少なからずある。このように、埼玉県の人口集積地に中高一貫校が増えたことで、中高一貫校を選択肢に入れる埼玉県民が増えたことは確実だ。2030年ごろには、中高一貫校でない高校も含めた県内の進学校事情に変化が生じているかもしれない。

埼玉県(南部・東部)内高校の大学合格実績(2020年春)

※進学校は黄色で示す。各高校の公式Webサイトで発表されたものを参照した。原則として現役・浪人の総数で、現役での合格者数が分かる場合は( )内に併記した。★を付けた淑徳与野高校(2020年春卒業者数353人)、開智高校(2020年春卒業者数554人)、大宮開成高校(2020年春卒業者数470人)、昌平高校(1学年約540人)、春日部共栄高校(2020年春卒業者数476人)は学校全体の実績である。

【2022/12/30追記】この記事を含む北海道・東北・関東地方の進学校Mapの記事を、加筆修正して収録した書籍(同人誌)を通販中です。詳細は以下の記事をご覧ください。


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