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熊本県の進学校Map

熊本県の中学生で学力上位10%の子どもたち(10%er)は、どこの高校を選ぶのだろうか?この記事では、10%erが順当に選ぶと考えられる高校を「進学校」と定義し、熊本県の進学校を紹介する。

※この記事は、2020年3月末時点の情勢に基づいて執筆している。『進学校Map』における進学校の選定基準は、以下の記事を参照のこと。

概要とMap

人口:約177万人 (※2017年10月1日現在。総務省人口推計)

中学校卒業者数:17107人 (※2017年3月。文部科学省学校基本調査)

国公立高校入学定員:12400人 (※2017年4月。文部科学省学校基本調査)

中学校卒業者数に対する国公立高校入学定員比率:72.5%

進学校:7校(公立5+国立0+私立2)

熊本1cud_熊本市色追加

※地図は『MANDARA』で作成。進学校を中心とした同心円は、すべて半径20kmで描いている。

※赤字は公立進学校、青字は国立・私立進学校。下線を引いた学校は、中高一貫教育を行っていることを示す。

圧倒的勝ち組・県央学区

熊本県は、県庁所在地である熊本市に人口の約4割、隣接市町村も含めれば過半数が集中している。この結果、大分県鹿児島県と同様、熊本市内の高校に対する人気が恒常的に高い。

交通の便だけ考えれば、県北の玉名市や県南の八代市からでも熊本市内の高校に通えるのだが、熊本県教育委員会は熊本市への一極集中を快く思っておらず、県立高校普通科に3つの学区を設けている。学区外枠は13%と比較的緩そうに見えるが(長崎県は7%、鹿児島県は10%)、例年これ以上に学区外志願者が集まる高校が複数出ている。

3つの学区のうち、熊本市を含む県央学区が勝ち組なのは言うまでもない。熊本市のほか、合志市・宇土市・宇城市・上益城郡(5町)・美里町・菊陽町が属し、学区内の中学校卒業者数(2017年3月。以下同様)は10092人を数える。彼らは、熊本高校済々黌高校という県内二強進学校を、学区内で受けられる。No.1の熊本高校は浪人率が高いが、朝課外が無い自由な校風。No.2の済々黌高校は朝課外があるが、現役での国公立大学合格率が高い。鹿児島県における鶴丸高校・甲南高校の立ち位置とそっくりだ。

熊本高校と済々黌高校の1学年定員は各400人だが、学区外枠(各52人)は例年ほぼ埋まるので、学区内から入れるのは各348人と見積もることができる。すると、熊本・済々黌に入れるのは10092人のうち、348×2=696人(約7%)となる。では、あぶれた10%erはどこに行くのだろうか?まず名前が挙がるのは、公立の第二高校だろう。ただ、玉砕覚悟で熊本・済々黌を受検する10%erも大勢いる。例年、熊本・済々黌の不合格者は約400人にも及び、彼らは併願先の私立高校に進学することになるが、この恩恵を受けている二大勢力が、真和高校熊本学園大学付属高校(通称:学付)である。いずれも中高一貫教育を行っているが、熊本・済々黌の不合格者もそれなりに高学力なので、中高一貫生に引けを取らない。ただし、真和・学付の全体を進学校に選定すると門戸が広すぎるので、真和は普通科特進コース、学付は普通科選抜クラスのみを進学校とみなす。

「第二高校があるなら、第一高校もあるのでは?」という声が聞こえてきそうだが、やはり、ある。「第一」を冠するのは男子校がルーツの高校が多いが、熊本県立第一高校は熊本県立高等女学校が前身である。戦後、女子生徒しかいない時期が長く続いたが、2012年に男子生徒が入学し始めた。合格難易度は第二高校より若干易しいが、JR熊本駅に近く交通の便が良いためか、倍率が高い。熊本駅を利用する県央学区外の志願者なら、第二高校だと熊本駅からさらに30分以上かかるので、代わりに第一高校を選ぶのもリーズナブルだと思われる。

熊本市内公立高校cud_r

タテ移動が止まらない

選択肢に恵まれた県央学区に対し、県北学区の進学校は玉名高校(玉名市)しかない。県北学区は荒尾市・玉名市・玉名郡(4町)・山鹿市・菊池市・大津町・阿蘇市・阿蘇郡(3町3村)からなり、中学校卒業者数は3286人である。玉名高校は、県北学区の全域から通学可能ならば、熊本市内の進学校に伍することができるのだが、残念ながら県北学区でも西部、すなわち荒尾市・玉名市・玉名郡(4町)・山鹿市しか通学圏に入らない。交通網が完全に分断されているのだ。この結果、玉名高校の大学合格実績は小振りにならざるを得ず、県北学区西部から熊本市内の進学校への流出を許している。

かつて熊本県が8学区制だったころ、県北学区は「荒玉学区」「菊鹿学区」「阿蘇学区」の3学区に分かれていた。これが2010年度入試から「県北学区」に統合されたわけだが、旧荒玉学区に属する玉名高校に新たに通えるようになったのは、旧菊鹿学区の山鹿市だけ。県北学区東部の10%erにとっては、学区統合のうまみは無かった。むしろ、学区統合に伴って学区外枠が6.5%から13%に拡大したことを受け、県北学区東部の10%erはより積極的に県央学区に南下するようになった。それでも、学区外受検のハードルは高い。「熊本・済々黌に学区外枠で入れる剛の者でもないし、第二高校は遠いし……」と考える県北学区東部の10%erにとっては、熊本市の郊外にある熊本北高校が貴重な選択肢に入る。第一高校に次ぐ合格難易度で、JR熊本駅まで南下しなくても通える手頃な高校だからだ。

熊本県の学区制は、学区の隣接地域で例外がある。たとえば、県北学区にある阿蘇郡西原村からは、県央学区にある第二高校(熊本市)を学区内扱いで受検できる。一方、県央学区にある上益城郡山都町の旧蘇陽町からは、県北学区にある高森高校(高森町)を学区内扱いで受検できる。同様に、県央学区の菊陽町から大津高校(大津町)を学区内扱いで受検できるのだが、県央学区と隣接している大津町には、こうした例外が設定されていないのだ。大津町は地理的に、菊池市や阿蘇市の学校よりも、熊本市の学校の方が通いやすい。にもかかわらず、大津町から学区内枠で受検できる熊本市内の公立普通科高校はほぼ無いのだ(唯一、湧心館高校普通科は学区制限がないが、大学進学以外の進路の方が多い学校である)。それでいて、地元唯一の普通科高校である大津高校に、県央学区から無制限に生徒の流入を許している。大津町民はマゾなのだろうか?

熊本大津周辺cud_r

※合志市・菊陽町・益城町・西原村には、高校はひとつもない。

せめて、大津町から熊本北高校を学区内扱いで受検できるようにしたほうがよいと思う。そもそも、大津町が県北学区に入れられているのが不思議なくらいだが……。

県南学区もまた、まとまりがない学区である。2010年度入試以降、以下3つの旧学区が統合してできた学区だが、地理的制約から、旧学区間をまたいで通学できる生徒はほとんどいない

旧八芦学区(中学校卒業者数1699人):八代市・氷川町・芦北町・津奈木町・水俣市

旧球磨学区(中学校卒業者数875人):人吉市・球磨郡(4町5村)

旧天草学区(中学校卒業者数1019人):天草市・苓北町・上天草市

旧八芦学区で、入学者の平均学力が最も高いのは八代高校(八代市)である。熊本市内の高校に抜ける10%erもいなくはないが、生徒の過半数を占める程度には10%erを確保できている。もっとも、県境の水俣市からは、隣接する鹿児島県出水市にある、私立の出水中央高校普通科特進課程に進学する10%erも珍しくない。

旧球磨学区で国公立大学進学を目指すなら、人吉高校(人吉市)がほとんど唯一の選択肢である。旧学区の全員が旧学区内に留まったと仮定しても、学力上位32%(=280/875)で人吉高校に入れてしまう。実際には、人吉高校に設置される、Sクラスという名の特進クラスが10%erの住処と言えるだろうが、入試の時点で明確に区別されていないので、進学校Mapにおける進学校には選定しなかった。

旧天草学区内で大学進学に定評がある高校と言えば、天草高校(天草市)だ。天草高校のある下島は熊本県最大の島(横浜市より大きく、淡路島と同じくらい)であり、寮生活をする天草市内の生徒がいる程度には交通網が乏しい。「どうせ寮生活になるなら」と言って、熊本市内の高校に進学する生徒がいるのも無理もない。また、上天草市からの通学はなおさら困難だ。上天草市からは熊本市行きのバスが出ているので、それに乗って熊本市まで北上する方がまだ便利と言える。かつては、上天草市と八代市の間に通学に使えるフェリーがあり、八代市に通う旧天草学区民も多かった。ところが、天草五橋が開通し、九州本土と天草諸島が結ばれると、フェリーの利用客は減少の一途をたどり、2013年に運航を休止した。旧天草学区は、今や八代市よりも熊本市の方が地理的繋がりが強いのだから、県南学区ではなく、県央学区に入れたほうがすわりがよいのではないだろうか。

さて、県北学区・県南学区からタテ移動で熊本市内の進学校に通う生徒が後を絶たない中、熊本県教育委員会は2008年に県立八代中学校を、2009年に県立宇土中学校、2011年に県立玉名高校附属中学校を開校した。それぞれ、八代高校、宇土高校(宇土市)、玉名高校と連携して中高一貫教育を行っている。いずれも、地元での大学合格実績を伸ばし、熊本市内への流出を食い止めるために設置されたことは言うまでもないが、劇的な成果は上がっていない。前述の通り、通学圏内の中学校卒業者数が少なすぎるからだ。たとえば、私立高校のようにスクールバスを走らせて、ヨコ移動で通学できる生徒を増やすくらいしないと、これ以上の伸びは難しいと思う。

熊本県内高校の大学合格実績(2020年春)

熊本県大学合格実績200924

※進学校は黄色で示す。各高校の公式Webサイトで発表されたものを参照した。原則として現役・浪人の総数で、現役での合格者数が分かる場合は( )内に併記した。私立高校の「定員」は、2020年卒業生数が公表されている場合はその数、それ以外は1学年当たりの生徒数の推定である。★は当該クラス以外の実績を含んでいるもので、第二高校は美術科を含んだ学校全体(定員計400人)、真和高校は学校全体(1学年約180人)、熊本学園大学附属高校は学校全体(1学年約400人)の実績である。

国公立大学志向が強い。熊本大学の合格難易度が、九州地方(福岡県を除く)の国立大学の中では比較的高いことから、鹿児島大学や熊本県立大学を志向する人も多い。

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