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リモートやサステナビリティの時代にあえて洋服を買うということについて

栃木の那須に移住する時に、心残りだったことの一つが素敵な神保町のセレクトショップに行けなくなることだった。

そのセレクトショップは、地方移住を決めた後に夫が自転車で子どもとブラブラしていた時に、ふと見つけたお店だ。文化服装のスタイリスト科を出た夫は、服やお店への目はシャープで滅多に褒めたりすることはない。そんな夫が「なんだかすごいオシャレそうなんだよ。行ってみない?」と何回も言っていた。

これから地方に行くのに今更お気に入りのお店を見つけてもな、とか、リモートワークで洋服への特段の関心を失いつつあるし、と思いながらも、家族みんなで週末に立ち寄った。栃木に移住する約1ヶ月前のことだ。

「お客さんを一人にさせないお店」

そのお店はメインストリートから外れた通りで周りはオフィスビルが立ち並ぶ中、まるでヨーロッパの街角の古着屋さんのようなショーウィンドウが独特な空気感を放っている。
お店の前には長身のとてもおしゃれな女性がお喋りをしたいた。常連客の人なのかな?と思いながらお店に入ろうかどうか迷っていたら「いらっしゃい!お客さんを一人にさせないお店なんですよ!」と話しかけてきた。お店の前で楽しそうに立ち話をしていた女性がオーナーの一人だったのだ。

ソワソワとお店に足を踏み入れ、入り口付近にあったストールを眺めてみる。すると早速お店の人が話してくれた。そのストールを作った人がどれだけインドが好きなのか、インドを好きすぎて「made in beautiful land of India」とタグにまで書いているということ、その方がどんな風にインドでストールのデザインをしているのか・・・
止めどなくそのオーナーの方が話す様子に自分がバックパッカーとしてインドを旅した頃の思い出や、ストールを製作したデザイナーさんのインドへの思い、そして目の前で語るオーナーの情熱が重なる。思わず値札も見ずに(いや、もしかしたらちらっとは見たかもしれないけど)、ストールを手にして「ぜひ買います!」と伝えた。



服は世界を旅する

その後、那須に移住する前の日曜日にももう一度訪れた。女性オーナーがすぐに、また来てくれてありがとう!とマスク越しに笑顔で迎えてくれた。
決して広くない店内だけど、一つ一つのお洋服がオーナーたちの思いがたくさんかけられ、凛と佇んでいるのが印象的だ。洋服を手に取る度に、私も洋服と会話する気分で「ちょっと失礼します」と思ったりする。

その日は、オーナーの人と話しながら、ヨウジヤマモトでパタンナーをしていて独立したというデザイナーの方の、独特なパンツを女性オーナーの方が紹介してくれた。女性オーナーがそのデザイナー本人なのかという位、思いを込めて色々教えてくれた。

ふとレジの奥の壁に掛けられていた素敵なバッグを見つけた。あまりの存在感に「売り物ですか?」と尋ねたら、今度はそれまで話していなかったずっとニコニコしていた男性オーナーの方が「売り物でした。けど今は僕のです。」と教えてくれた。
普通、お店の人の個人のものはバックヤードだったり見えないところに置いたりする。ここのオーナーは自分のバッグを店内のディスプレイのように飾っていて、それはまるでお店とお客さんとの心の距離感を象徴しているようだ。

そのバッグについて尋ねたところから、次々と今度は男性オーナーの方の服の買い付けについての話を聞けた。ヨーロッパの軍もの古着を買付にフランスに行った時、軍ものの倉庫に入ると、特に霊感とかはないし何も信じてないのに、なんだかひやっと嫌な感じがしたという話。そんな中で見つけたすごく素敵な一点もののアーミーパンツを手にしたら、パンツの裾のあたりに弾の後のような穴があいていて血痕がついていて、色々迷った末にやっぱり買わないと決めたこと。南米でアルパカを傷つけずにニットを作ることを決めた日本人兄弟がいて、その人たちがどんな思いでヨーロッパから南米に足を運んだりしているのかという話しとか。そのニットがお店に届くことが楽しみでたまらないといったオーナーの目は本当に輝いていた。

「那須に移住する前にそのアルパカのニットが届きそうだったら、また来ます」と伝えて、店を出た。結局引越しの準備で忙しくて店を再訪することは出来なかったのだけど。



何でもお金で手に入るし、サステナビリティでリモートのこの時代だからこそ

今の時代は買い物一つも、自分軸を持たないとやっていけない。

スマホからボタンひとつで、誰にも会わずに自分のペースで欲しいものがいつでもどこでも買える。一方で、サステナビリティを考えた生き方が「善い」とされる中で、ものを買うという行為そのものがファッショナブルではないように捉えられる側面も感じる。それに加えてリモートで、ズームの小さな画面には自分のオシャレがほとんど伝わらない。

そんな中で、あえてどこかのお店に足を運び、洋服を購入する時、私たちは「なぜ」を問われているように思う。そのなぜへの答えは一人一人違うと思う。
私の場合は、それはお店でものを買う過程におけるの人との偶発的な対話を通じて、色々なストーリーに出会うためではないかなと感じている。

お店に入るまで買うつもりがなかったストールからいインドへの愛があるデザイナーを知れる喜び。そうして聞いたストーリーを忘れないように、そのストーリーの一部になりたいという思いから、その洋服を買う。

「お客さんを一人にさせないお店なんです」
女性オーナーの言葉が今も時々響く。
自分の肌の上に重ねる第二、第三の皮膚としての洋服。その洋服にストーリーがあればあるほど、服を着るという行為を通じて自分が新たなストーリーをそこから紡いでいける気がする。そして私は一人じゃない、と思う。
美しい地のインドに惚れ込んだデザイナーさんが創ったストールに、子どもがミートソースをこぼしてしみを作っても、それはそれで愛おしく思えるのだ。

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コロナでほぼフルリモートになったのをきっかけに東京から栃木の那須に地方移住。地方移住で感じたこと、日常のちょっとした幸せなこと、たまに働くことについて語ります。 アクティブ・コネクター株式会社CEO&Founder 二児(息子3歳、娘1歳)の母