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第45期最高位決定戦のちょい裏話

2021年1月9日土曜日
新たな最高位が誕生した。

入会16年目、A1リーグ6年目にして頂点に立ったのは醍醐大選手だった。

私はこの日、生放送のMCを担当させていただいた。最高位戦は、「実況」ではなく「MC」と表記することが多い。
MCとは、master of ceremonyの略であり、つまり番組の「master」だ。
麻雀中の実況は少しずつ慣れてきたのだが、番組進行についてはいつまで経っても上手くできない。

最高位戦の放送対局や、スリアロの番組でも沢山使っていただいて、これだけ場数を踏んでも
私はMCです!と胸を張ってまだ言えないのがもどかしい。
もっとmasterとして、番組を進行していけるようになりたい。反省、努力あるのみ。


そんな私の話は置いておいて。


最高位決定戦の最終節の選手たちの話を少しだけ書き残したい。
対局内容はとても言葉なんかじゃ伝えられないので、見逃した方はOPENREC.tvのアーカイブでぜひ。


20日程前にさかのぼるが、12月23日に行われた第3節もMCだった私は、その日の対局が始まる前、醍醐さんにこんな質問をした。

「体調はバッチリですか?」

何気なく聞いてみたのだが、返事は意外なものだった。

「実は、少しずつ勝てそうになってきた(ポイントを持っていた)から、夜眠れるか不安だったんだけど、なんとか寝れたんだよね。
負けてたらそんなことないんだろうけど、勝ちが見えてきちゃうとどんどん余計なこと考えちゃって眠れなくなっちゃうんじゃないか…って思ってて。でもたっぷり寝れたから良かったわ。はははっ」

もし最終節、トータルトップで迎えたりしてたらいよいよ眠れないかもね。なんて笑いながら会話を終えたが、

緊張やプレッシャー、優勝が見えてきたことによる重圧で眠れなくなるだなんて
私から見た醍醐さんはそんな人に思えていなかったものだから驚いたのを覚えている。

そして昨日の最終節対局開始前。
あまり選手の皆さんに軽々しく言葉をかけられるような雰囲気ではないものの、第3節での醍醐さんの話が脳裏に残っていた私はつい聞いてしまった。

「きよさん、昨日は眠れた?」
「うん、なんとかね」

醍醐さんは、トータル2位で最終日を迎えていた。2位とは言っても、現実的には近藤さんと一騎討ちの様なポイントだった。
最高位になれる可能性は十分にある。

なんとか…ってことはやっぱりすんなりは眠れなかったのか。でも眠れたなら良かったな。いい対局になるんだろうな。

そう思い、対局室に向かって行く醍醐さんの大きな背中を見守った。




重く、鋭利で、繊細で、それでいて大胆な麻雀を打ち切り、最終戦のオーラスは自らアガリを決めて醍醐さんは優勝した。

ロン、と発声した瞬間に目から溢れ出る熱い涙と、解説の村上さんの涙を堪える声(全く堪えられてなかったけど)は歴史に残る感動的なシーンになったと思う。

長い長い戦いを終え、対局室を出てきた選手たち。
優勝した醍醐さんはもちろんだが、
負けてしまった他三選手も非常に朗らかで、憑き物が取れたような、何かから解放されたような表情をしていたのが印象的だった。

携帯電話が鳴り止まない新最高位。
いの一番に控室でテレビ電話をしていたが、相手はどうやら醍醐さんの奥さまの様だ。奥さまは友人達とおうちで応援していたらしい。
周りから聞こえるたくさんのおめでとう!!の言葉に、本当に嬉しそうに、噛み締めるように「ありがとう、ありがとう」とくり返す醍醐さん。

テレビ電話でご友人の方が聞いていた。
「今日の勝因は?!」

最高位が答える。
「奥さんが寝る前にマッサージしてくれたのが勝因です!あのおかげで寝れたから。」

対局前夜、高ぶる気持ちと、明日全てが決まるという恐ろしさでやはりうまく眠れなかったのだろう。
奥さまの愛の力は、しっかり麻雀牌に伝わった様だ。
あまりに素敵なお話を盗み聞きしてしまって、なんだか幸せな気持ちになって、そしてちょっと恥ずかしくなって私はついその場を離れた。



嶋村俊幸。69歳。
体調もここ数年良いとは言えず、「いつまでリーグ戦が出来るかもわからない」という本人の言葉を何度も聞いてきた。
決定戦が終わったら、負けてしまったらひとつ決断をしてしまうのかもしれない…なんて思っていたが、対局後のインタビューで
「また来年もAリーグで打てると思うと嬉しい。もう一年また頑張りたいです」
という力強い言葉を聞くことができた。
来年は70歳になる。しまじぃらしい、わんぱくな麻雀がまだまだ見れそうだ。



坂本大志。元最高位。
個人的に、入会してからずっとお世話になり、たくさん麻雀を教えてくれた先輩である。
仕事柄、決定戦が開幕してからちょこちょこと顔を合わせることがあったが、やはりどことなくこの1ヶ月はピリピリとしたムードを纏っていた。
大事な戦いの最中なのでもちろんそれが普通なのかもしれないが、もともと本人が持っている柔らかい雰囲気が少し減っていて、さぞ神経を使っているんだな…と感じていた。
だが決定戦が終わった瞬間に、本当にその瞬間に、元のまさしさんに戻ったのだ。「やれることはやったし、やり切った!来期リーグ戦がんばるしかない」そう言ったまさしさんの顔に悲壮感は全く無く、実に晴れやかだった。



近藤誠一。9年目の決定戦。
心の底をなかなか見せない誠一さん。
少し突っ込んだ質問をしても、ふいっとかわされてばかりだ。
対局スタジオから、皆で駅に向かう道中に隣にいたせーちゃんがふとつぶやいた。

「いやー、永世って遠いなぁ」

真冬の夜、寒さで少し肩をすくめながら出たこの言葉を聞いてまず、この人また来年も決定戦にいるんだろうな、と思ってしまった。
「永世ってすごいんだね」そう答えるといつもの様に笑っていたが、その笑顔の裏に潜む闘志を感じずにはいられなかった。

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