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ベッドとシーツとコロコロと

看護師の仕事をしていると
戦場となるのはナースステーションだけではない。

むしろ、患者さんのベッドサイドの方がメインだ。

ナースステーションが医療者に優位な空間であるのに対し
ベッドサイドは患者さんのプライベート空間そのもの。
すべての決定権は患者さんにある。


昔、ある女性の患者さんが
自宅に雰囲気をベッドサイドに投影していて
見事だな、と思ったことがある。

家で使っている花瓶
その下にひいているクロスを持ってきて

病院の枕が合わないといって
自宅から枕を持参し
自分でレース編を施したカバーをつけていた。

持って来たのはモノだけじゃない。
習慣も持ち込んできた。


その人はずっと専業主婦で
家事が得意で生きがいって人だった。

毎朝、起きたら家中を掃除するのが習慣。
だから、病院でも同じように起きたらお掃除していた。

高いところははたきで叩いて
消灯台や机をぞうきんがけして
床も目に見えるゴミは拾っていた。


中でも彼女が丁寧に掃除していたのが
ベッドシーツの上。
家から持ってきたマイコロコロが相棒だった。


彼女の病気はがん。

抗がん剤の副作用で長い髪がどんどん抜け落ちる。
もう、朝起きたら真っ白なシーツが真っ黒になるくらい
それくらい抜ける。

それを彼女は穏やかな表情でコロコロしていて
私はいつも不思議だった。

自分で自分の髪の毛を掃除するのって
嫌な気持ちにならないんだろうか、と。

そう思って彼女に尋ねたら
こう返ってきた。

今まで自分だったものだからね。
最後も大切にしてあげないと、ね?



それ以来、朝起きて彼女がコロコロをかける姿を見るたびに
私はなんだかいい気持ちになった。

朝日に照らされた彼女の横顔も
その彼女が掃除している姿も
抜け落ちた髪の毛も
みんな美しいと思った。


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ナースあさみ

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オンラインにいすぎて疑惑を持たれがちですが12年目の現役ナースです。書くことが得意とは言えませんが、やっと好きになってきました。好きなことは料理と読書、食べものだと肉全般とクリーム、ポケモンだと闇ポケモンが好きです。