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コーチングのはなしと、言葉についてのあれこれ

タイトルで損をしているなあ、と思う本がある。

これだ。

臨床医が書いたコーチングの入門書。

読みやすさ、構成の妙、正確さと三拍子揃った良書である。だがどうしてか、タイトルから漂う自己啓発書のオーラ。ページを捲れば良い意味で、読者の想像を裏切ってくる。

著者は、横溝正史ミステリ大賞を受賞した『DZ』の作者(小笠原慧)と同一人物だ。

本文を読み、タイトルを眺め、かえすがえすもこぼれ落ちるのは「なぜ」という呟きばかり。

マジで損をしていると思ったので、紹介記事を書くことにした。

本書で扱われる対話技法

『人を動かす対話術』では、以下の全てに言及している。網羅的にもほどがある。

共感的アプローチ
解決志向アプローチ
動機づけ面接技法
認知へのアプローチ
認証戦略
愛着へのアプローチ
行動・環境へのアプローチ

この驚異的な「おまとめ能力」だけをもってしても、本書を手に取るに足る。

コーチングってなに

さて、冒頭でお伝えしたように本書はコーチングの概説本である。

人や組織を理解し、良い状態に導いていく技術をコーチングという。そのテクニックは主に言葉でできている

たとえばコーチングでは、閉塞的な人間関係に風穴をあけたりつらい過去にとらわれた人の気持ちを未来に向けさせたりギスギスした組織の空気をほぐすきっかけを見つけたりする。言葉で。すごい。

でもその「言葉」には条件がある。

「心のない言葉」ではだめだ。
「拙い言葉」でも、だめだ。

じゃあ、どんな言葉を用いるの?

わたしたちは変わっていくために、三つの要素からなる言葉を使おう。

本書では、ロジャーズの理論を紹介する(p.50)。ロジャーズはこんなことを言っている。

人が変わるのに必要な要素は、以下の三つだよ。

・正確な共感性
・非支配的な温かさ
・誠実さ

これらの要素が対話相手に対して「受け入れられている実感」を与えるよ。

重要なのは、心からの共感を言葉にして伝えつつ、客観性や中立性を確保すること。ちなみに、「表情」や「仕草」など非言語要素に嘘があってもアウトだ。

うん。

……言うは易し、である。

それができるのは、聖人君子だけではあるまいか。

聖人君子のふるまいをテクニックに落とし込む

わたしたちは、聖人君子になりたいわけではない。
よりよく変化したいだけだ。

だからコーチングという技法にした
たとえば、人に心を開いてもらうための対話法の一部は、以下のように整理される。

リフレクティブ・リスニング
「相手の言葉を繰り返す」手法。共感的な態度の基本。
光を当てたい言葉(心)を繰り返すようにする。

▼オープン・クエスチョン
「はい・いいえ」で答えられないような、広い問いかけを行う手法。
「どんな?」「なぜ?」「どう?」など。

▼肯定的な反応を多くする
肯定的な反応は共感と同じぐらい対話をスムーズにする。
ただし、強い肯定は相手の意見を捻じ曲げる可能性があるので、
肯定的態度を取りながらも、中立性を維持する。(これが大変)

上のテクニックを使うと、こんな感じになる。

相手「頑張ったのに認められなかったんです」
あなた頑張ったんですね」
(リフレクティブ・リスニング)

相手「そうなんです、今回はとっても頑張ったんです」
あなた「今回はいつもより頑張ることができたんですね。それは、なぜですか?」
(オープン・クエスチョン)

相手「なんでだろう……メンバーがよかったから」
あなた「メンバーがよかったんですね。今みたいに、自分で理由を分析できるの、すごくいいですね」
(肯定的な反応)

こうして、人が変わるための環境が醸成されていく。
本書では上述のような技法や具体例が、心構えと共に、次々と紹介されていく。

コーチングは形(カタ)

「変わる」ということを考えるとき、わたしはいつも少しだけ心細い。変化は危険を伴う。変化は時間経過を意味する。変化は死を含んでいる。だから、変わることはおそろしい。

一人称で生きるわたしたちが「言葉で誰かを変える」なんてことをやってのけるためには、自分言葉を用いながらも、自分のための言葉からは、降りる必要がある。その装置のひとつが、コーチングなのだろう。

空手には形(カタ)という訓練法があるが、これはそれに似ている。
心はとても壊れやすいから、技術を通してそっと触れるのだ

どうすればそっと触れられるのか。
そもそも、わたしたちはどうして他人の心に触れたいのか。
本書は問いの入り口となるだろう。

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スキサレタウレシー
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助詞を間違えたらすごい速さで関節を折りにくるタイプのライター。 略してタイプライター。
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