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なんにもなくても面白い

「数あるお店の中から当店を選んでいただき、まことにありがとうございます」

ネットショップで注文をすると、注文確認メールの一番上にこのような文面があったりする。ネット上、あまたある店の中からそのお店を選ぶ理由は、ポイント倍付があったり、ちょっと安かったり、そんな理由かも知れないが旅の場合はどうだろう。日本中に散らばっている地方からどこを選ぶのか。テレビは食の番組が多いらしいが、旅の番組も多いと聞く。絶景の場所、名物料理、ネコ駅長、聖地巡礼。観光地でもないところへバスで行って、畑仕事の人に話しかけたり、ローカル線の無人駅で下車したり、そんな旅番組もある。旅のヒントはどこにでも転がっているわけだ。

私はと言えば、ご察しの通り、テレビや雑誌から旅の行き先を決めているわけではない。旅先の観光協会や宿、道の駅、鉄道の駅で見つけたパンフレットや、行った先の民俗資料館なんかに置いてある似たような他の施設のパンフレットなどだ。横の繋がりが強い業界だったり、対象者の少ないマニアな施設なんかだと互いがお客を紹介しあっている。

こう言ったパンフレット類を観察すると「この土地ではここを推しているんだな」というのがよく分かる。観光の目玉が何なのか、景勝地、食べ物など、ひととおりの「売り」を知ることができる。観光雑誌とさほど変わらないように思うけど。内容はさらに細かいから、知らないところへ行ったらまず観光協会へ行くことをお勧めしたい。細かい内容から歴史的背景を知ることも多く、あまり興味のなかったところでも「そういうことなら行ってみたいぞ」と思うこともある。

だがそもそも私は普段から旅の情報をほとんど得てないし探していない。こんな感じで行った先で知ることがほとんどだ。そういう意味で積極的な旅人とはいいがたい。

一方、タケシはと言えば、積極的に日々行きたいところを探している。まず彼のライフワーク「ボロ宿」。普段から楽天トラベルの中で気になるボロ宿を「お気に入り」にストックしている。大量にだ。彼の場合はこんな感じ。


行ってみたいボロ宿がある。

経営者が高齢っぽい

閉める前に行かなくては

そのボロ宿どこ?

高知か…


行って見たいボロ宿がある。

後継者がいないっぽいぞ

閉める前に行かにゃ

そのボロ宿どこにある?

愛媛か…

よし!お遍路だ!

と、まあこうなる。もちろん、彼の場合ボロ宿だけではなくて、好きな歴史小説とリンクしている。歴史小説ではかつての日本の藩のことが描かれているから、おのずと日本各地の藩色が濃かったところが多い。ボロ宿にだけ行くことを目的とせず、ボロ宿を含んだ一連のテーマを掲げ、そのテーマに沿った旅をしている、というわけ。

四国は「お遍路」、佐渡は「お船さま」、敦賀は「原発」、東北は「雪」。2泊や3泊の旅だとしても、毎回立派なお題があり、本人はまるで短編映画の中を行くかのように嬉々として窓の景色に見入っては何やら手帳にこまごまと描き込んでいる。数カ月、あるいは数年経つと、それらが作品となる。まあたいしたものだ。

私はと言えば、そんな旅に付いて行ってささやかは民俗学的興味の資料館を見学したりしている。農村の歴史を調べたりするのも好きだし、車窓から田んぼを見ているだけでも面白い。畑や果樹に植わっているものを特定するのも楽しみだ。私にしたら行き先などどこでもいい。行けば行ったで絶対なんかあるからだ。

その「なんか」とは、テーマパークでもなければ水族館でもない、景勝地でもない。「なんか」とは田んぼや畑、果樹園、そこで暮らす人たちの田舎の屋敷だ。そんなものはどんな田舎に行ってもある。だから退屈はしない。農村の建物を見るだけでも面白い、雪国ならなお面白いが、ほかの地区でも独特の様式があるから面白い。別に合掌造りなんかでなくても普通の家で十分楽しめる。漁師町でも面白い。船を見るもの面白い。イカ釣り船なんてすごくきれいだし、土佐のカツオ釣り船も竿がすごくて圧巻だ。

農民ならば、田んぼの水路や畔を見るだけでも面白い。畑の土を見るだけでも面白い。赤い土、砂の土、黒ボク。畑の脇に建てられた小屋も面白い。工夫が凝らされていたり、現代アートようなペイントがされていたりする。農作業車も土地の生産物でさまざまだ。キャベツを積む台車、茶を刈る巨大な機械、新潟の8条植えの田植え機に驚嘆したりもする。

こんなことが面白いのだ。農民が旅をすると退屈しない。行き先になんにもなくても楽しめる。百姓やっててホントよかった。百姓めっちゃ旅に向いていると思う。

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