三人の少年と、遠くのひかり

寓話です。ずいぶん以前に書いたものを改訂しました。最後まで読んでくれたら嬉しいです、最後まで読んでくれたら投げ銭できるシステムです、三人の話だから300円です、未だに値段のつけ方がよくわかりません。読んでくれたらありがとう。


『三人の少年と、遠くの光』

三人の少年が、遠くに浮かぶぼんやりとした輝きに目を奪われた。

「ああ、あの輝きが欲しいなあ」

輝きは一人の少年にとっては何より大切なものに見えたし、一人の少年のとっては名誉や富を与えてくれるように見えた。最後の一人は何よりその輝きを見ていると心が安らいだ。

一人目の少年は、輝きを見て、正しく暮らそうと心に決めた。

二人目の少年は、輝きに至るまでの道を、正しく進もうと決めた。

三人目の少年は、何も考えず、輝きを追いかけて走り出した。

一人目の少年は、村の古老が輝きを追えば必ず不幸が訪れると言ったのを、信じた。

すこし悪い遊びをするように、村で働きながらたまに光を眺めては、その光のそばにいくことを想像し、楽しんだ。

すると、そんな少年の姿を面白く思った少女が声をかけた。

「あなたは何を見ているの?」

「輝きが見えるんだ」

ふりむくと、もっと輝く光が少女の中に見えたので、少年はその少女と結婚をした。

二人目の少年は分岐点に立って考えた。

「どちらに進んだら危なくないだろうか」

右に一歩進むと、背後から怒声が飛んだ。

「そっちへ行くな!」

「おお危ない危ない、左が正しいのだな」

少年は、左側へ進んだ。背後からは

「そっちは良くないよ」という優しい声がしたが、少年には小声の忠告が聞こえなかった。

しばらく進むとまた分岐点があった。

「さっきは右に進んで怒鳴られたから、今度は左に進もう」

少年が左に進むと、また背後から怒声がした。

「こら!決まりごとをやぶるな!」

びっくりして辺りを見まわすと、立て看板には

【右へ進め】と書いてあった。

なぜ右はわからなかったけれども、とりあえず少年は右へ進んだ。

背後からは優しい声が「右は遠回りだよ」伝えた。

彼は少し気になったが、怒鳴られていないので構わず進んだ。

ずいぶん歩いた気がしたので振り向くと、最初の場所はまだ近くにあった。

少年は、ほとんど進んでいなかった。

「一生懸命歩いたのに!」少年は苛立って左側に歩き始めた。

輝きはまだ遠くの方にあって、少年を魅了していた。

やがて、疲れた彼は、いきどまりに辿り着いた。

「右も左も怒られる、どうすればいいんだろう」

まわりには、彼と同じようにぼんやりと立っている人ばかり。

皆、怒られないように、決まりを破らないように、じっと黙って立っていた。

いつのまにか輝きはどこにもなくなっていて、辺りはどんよりと濁った空気になっていた。

彼は泣いた、泣きながら思った。

「なぜだろう、僕は怒られない方へ進んだのに」

少年はもう、いったい自分が何の為に歩いていたのかはすっかり忘れてしまっていた。忘れてしまったまま、ずっとそこに立っているしかなかった。

三人目の少年は、走り出してしばらくすると目の前の輝きがなくなっている事に気付いた。

「近づくと、なくなってしまうのかなあ」

横を向くと、遠くの方に更なる輝きが見えた。

「あ、あそこにあったんだ」

少年は、もう村に帰る事など考えてはいなかった。輝きを追いかけて走っていると、楽しかった。

しばらく走っていると、自分の後ろを走っている他の村の少年の姿に気付いた。

「どうして走っているんですか」と少年が聞くと

「君が楽しそうに走っていたから」と他の村の少年は答えた

こうして、少年のまわりを走る者は、だんだんと増えていった。

中には、少年に走り方を教えようとする者や、少年を転ばせようとする者もいた。

それでも少年は気にせずに走った、輝きにはいつまでたっても辿り着かなかったけれど、楽しかった。

やがて少年は、走り疲れて死んだ。

最後まで、自分が他の者にとっての輝きになっていた事には、気付かないまま。

最後まで読んでくれてありがとうございます。



ここから先は

0字

¥ 300

サポートしていただけると更新頻度とクォリティが上がります。