コインランドリーで半べそをかく

週末の立川駅周辺はしばしば競馬予想師の目をした老若男女で溢れている。

歩道には競馬新聞を抱えたおじさんと、交通整理をする警備員がいる。テレビのある食堂では常連客がたむろし、ラーメン屋の行列ではカップルの男が女に馬券の種類について講釈を垂れている。

僕はそれを横目に、洗濯物を抱えて、コインランドリーに足を運ぶ。

僕は馬券を持たないが、コインランドリーにだって「あたり」「はずれ」がある。数台しかない洗濯乾燥機が空いていたら「あたり」だ。1時間後に洗濯物を一度回収しにいくだけでよい。空いてなければ「はずれ」。洗濯機で洗濯し、30分後に乾燥機に移して、また40分待たないといけないので計3回コインランドリーに行かなければいけない。

その日は「あたり」だった。洗濯物を洗濯乾燥機に放り込みスイッチを押した。

動き始めてから異変に気づくのにそう時間はかからなかった。

「…なんか水漏れてね?」

よく見ると、扉にパーカーのファスナーが挟まって隙間が出来ている。誠実に職務をまっとうする洗濯乾燥機は勢い良くドラムを回転させ、勢いよく隙間から水を放出する。これはまずい。この勢いで水が漏れ続ければコインランドリーが浸水してしまう。緊急停止ボタンを探すが見つからない(あるのかな?)。

すぐに店内を見渡し連絡先を探す。壁に貼られた連絡先の電話番号にかける。電話をかけるとオペレーターに繋がった。

「もしもしこんにちは、扉に洗濯物が挟まってうまく閉まっていなかったのか、水が漏れてしまっています」
「何番のコインランドリーですか?」
「XX番です。洗濯乾燥機能付きの」
「どれぐらい漏れてますか?」
「どれぐらい?500ミリペットボトル2本分ぐらいでしょうか?どんどん漏れてます」
「わかりました。確認するので折り返して電話します」

この落ち着き払ったオペレーターはこれまでどれだけのトラブルに対処してきたのだろうか?コインランドリーのシステムは分からないけれど、遠隔でオペレーターが止めたりできるのだろうか?僕は為す術もなく、ただ被害が拡大していく床を見ながらそんなことを考えた。

午後からうちに来る予定だった友人からLINEが来た。

なんて呑気なのか。こっちはピンチなのに!

僕は、この事態を解決されなければ、そして折返しの電話が来なければ、コインランドリーから解放されることはない。

ふと、洗濯乾燥機に目をやると、扉に挟まっていたはずのファスナーはなくなり、扉は密閉されていた。どうやらドラムが勢いよく回転した結果、ファスナーは外れたようだ。

折返しの電話がかかってきた。
「あ、すいません、挟まっていた洗濯物が取れたようで、今は水は漏れていません。ただ、床がびしょびしょです」
「分かりました。あとはこちらで対応します。ご連絡ありがとうございました。」

申し訳無さと、みじめさと、解放感を感じながら、僕は友人の元へ向かった。洗濯機を手に入れるんだという強い意志とともに。


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